孤独の少女

 キュオは誰もいない街を歩いていた。

 狭間に来たばかりの少年は一人で行ってしまった。

 彼はあの死神の事をよく知らない。あれは立ち向かってどうにかなるものではない。

 逃げ続けてくれればいいのだが、男の子だから正直心配だった。

 和んでいる場合ではなかったのだ。まずここで生きる為の心得を話しておくべきだった。

 久しぶりに他人と触れ合った為に、つい嬉しくて余計な時間を使ってしまった。

 彼は無事だろうか。いや、きっと無事だ。

 ほぼ彼女の生活圏と言えるカフェに着く。

 必ずここに戻ってくる。彼は約束してくれた。自分もここから連れ出してくれると……。

 過去に幾度となく交わした事のある約束。

 一度も果たされる事のなかった約束。

 今度こそ、という期待を持ったわけではない。ただ一緒にいてくれればよかった。

 だが彼は止める間もなく行ってしまった。

 まるで一瞬の夢のように。

 あれは本当に夢ではないのだろうか。

 寂しさのあまり、自分で作り出した幻影だったのだろうか。

 そんな事を考えながら、約束のカフェで待っている。

 どのくらい待っただろうか。

 カフェに備え付けの時計に目をやる。もう外の世界では夜が明ける。

 キュオの心を虚無感が襲う。

 きっとどこか遠くへ逃げて行ったのだ。案外迷子になっただけなのかもしれない。

 どちらにせよ。キュオが孤独に戻る事には違いないのだが、そう思う事でほんの少し気分が楽になった。

 ぼんやりと鏡の向こうを見つめながら「きっと無事」と呟き続けるキュオの顔は次第に沈んでいく。

 周囲には暗く、重い空気が漂い始めていた。

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