第21話 私たち、BBQします①
三人で店についての話し合いが行われてから一週間ほど経った頃、晴人の左足に装着されていたギプスはようやく外された。晴人は左足が自由になるとすぐに店の改革に乗り出した。まず彼はアメリカにいるバイヤーに定期的に古着を送ってもらうことを契約した。そして店のSNSのアカウントを作成し、信五やまさみにチェックしてもらいながら新商品やコーディネートの画像をSNSにアップした。また晴人は今までのドアを取り外すと彼は店の雰囲気に合うような窓付きのドアを見つけて、自身の手で新しくドアを付け替えた。
目に見える効果は少しづつだが現れ始めた。アメリカでの買い付けに行かなくなったことで経費が浮いただけではなく、今までは買い付けに行っている間は店を休まなければならなかったが、商品をバイヤーが送ってくれるので店を休む必要が無くなった。また晴人は買い付けに行って戻ってくるとかなりの確率で時差ボケになってしまい治るまで辛そうだったが、アメリカに行かなくなったので、時差ボケで悩まなくなったことに喜んでいた。そしてSNSのアカウント開設を知らせるチラシを店内に貼っておくと、常連客の男性がその場でフォローしてくれて、まだ多くはないが着実にフォロワーも増えてきている。そして外から店の中が見えるようになったお陰で、今までは見かけなかった新規の客が入るようになった。まだ売り上げの面では変化は微々たるものだが、これから変わっていくという明るい兆しを三人は感じていた。
「高橋さん今度のバーベキューどうします? 」
まさみと飯尾は月一回の全体朝礼が終わり、自分たちのフロアに戻っていた。まさみたちの会社は社員が多いため、全体朝礼の時には全員が集まれるような広い会議室に集まる。その朝礼では年に一度行われるバーベキューが話題に挙がった。このバーベキューは社員と社員の家族を集めて親睦を図るという会社の一大イベントだ。
「うーん。どうしようかな」
まさみがすぐに行くと言わないのは理由があった。バーベキューでは女性社員たちは野菜を切ったり、肉を焼いたりなどすることが多いにも関わらず、男性社員はグリルやテーブルのセットが終わると否や酒を飲み始めるのにまさみは不平等さを感じていた。
「自由参加って言ってるけどほぼ強制じゃないですか。無給なのにほぼ強制ってどういうことっすか? 」
飯尾の言う通り、一応は自由参加ということになっているがバーベキューの日に休むと、なぜ休むのかとしつこく問いだたされる。ほとんどの社員たちは敬遠したい行事ではあったが、一部の社員たちの為だけに開催されている行事なのだ。
「高橋さんは旦那さん呼ぶんですか? 」
「土日こそ稼ぎ時だからね。無理だと思う。それにちょっと色々あってねぇ……。飯尾くんは? 」
「僕の実家群馬なんでバーベキューのためだけに親を呼ぶのはちょっと……。あーあどうしようかな」
「だよね」
「お前ら何の話してんだ? 」
二人はびくりと背中を震わせて後ろを振り返った。
「柳さんじゃないですか! 」
飯尾はすぐに作り笑顔を浮かべて胡麻をすった。まさみはあまりの変わり身の早さに純粋に尊敬の念を覚えた。
「バーベキューのことを高橋さんと話してたんですよ」
「今年のバーベキューも楽しみだな。高橋は旦那呼ぶだろ? 」
「夫は店をやってるので参加は難しそうですね……」
まさみがそう言うと眉を顰めた。
「連れてこいよ。どうせ半日だけなんだから」
「でも夫に相談してみないと……」
まさみが曖昧な反応をしたので、柳は今度は飯尾をターゲットに変えた。
「お前はどうするんだ? 」
「両親が群馬なので呼ぶのは難しいですけど、僕は絶対に行きます」
飯尾の言葉に柳は顔を綻ばせた。
「どうだ? 彼女出来たのか? 」
「いやぁまだですね」
「早く作れよ。もしかしてお前はアッチか? 」
「嫌だなぁ違いますよ」
飯尾とまさみは顔をひきつらせたが、柳はそれに気づかないで二言、三言ほど言葉を交わすと去っていった。
「裏切り者」
まさみは恨めしそうな目で飯尾を睨んだ。
「何がですか? 」
「行きたくないって言ってた癖に」
「どうしようかなって言っただけで行きたくないとは言ってないですよ」
まさみは飯尾の自信ありげな笑顔に可愛らしさを感じたが、一方で憎らしさも感じた。
「へぇ。家族同伴のバーベキューね」
まさみは会社で貰ったバーベキューのチラシを晴人に見せた。
「晴人が嫌なら断ってくれても全然いいから。ただ返事を早く会社の人にしないといけなくて」
「行く」
「えっ? 」
まさみは晴人がすぐに断ると思ったので大変驚いた。
「お店はどうするの? 」
「さすがに店を丸一日休んでバーベキューには行けないけど、昼休みの時間を使えば行けるでしょ。だってバーベキューする場所って家から車で十分ぐらいだし」
「そうだけど……。晴人めちゃくちゃ人見知りじゃん」
まさみが一番心配していたのはそこだった。晴人は極度の人見知りで、初対面だと目を合わして話すことも出来ないのだ。まさみが晴人と初めて会ったのは大学のゼミだった。その時は彼女は晴人に声を掛けたが、素っ気ない態度を取られたので、まさみは一方的に彼に対してマイナスなイメージを抱いた。
「でもまさみがお世話になってる人達に挨拶したいし」
「うん。分かった。会社の人にもそう言っておくね」
まさみは晴人が自分の会社の人間と話せるのかと心配ではあったが、彼も接客業をしているのでそこまでひどい人見知りしなくなったのだろうと思い、それ以上は止めなかった。
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