第3話 私、ブライダルチェックを受けます
まさみと颯太はまさみの部屋で一冊の結婚情報誌を読んでいた。
「結婚式は教会と神社のどっちがいい? 」
「ウェディングドレス着たいから教会かな。でも神社もいいよね」
「友達が神社で結婚式を挙げたんだけど、すごくよかったよ。あれを見ると神社もいいなって思うよね。まさみならドレスも着物も似合うと思うよ」
「そうかな」
颯太の言葉にまさみは照れ笑いを浮かべた。
「教会と神社の両方で結婚式を挙げる? 」
颯太の大胆な発言にまさみは思わず目を見張った。
「駄目だよ。お金がもったいない」
「だけど一生に一度の結婚式なんだよ。それぐらいお金をかけてもいいと思うけどな」
「確かにそうだけど……。ウェディングドレスと着物の写真を撮ってもらうのはどう? それならどっちも着れるし、お金もそこまでかからないから」
「まさみがそう言うならそれでいいけど」
まさみはお金をそこまでかけたくないという思いがあったが、教会と神社で結婚式を挙げると真理子に話したら、何を言われるのか怖かった。
「まさみどうしたの? 」
「えっ? 」
「顔色がよくなさそうだけど」
「そう? 仕事が忙しいからかな」
「あんまり無理しないでね。両家の挨拶だけど来週の土日で大丈夫だよね? 」
「うん。ちゃんと家族にも伝えてるし平気だよ」
「そっか。まさみのお父さんとお母さんに会えるの楽しみだな。二人とも挨拶に行った時、とても優しくしてもらったから」
颯太が楽しそうにしているのを見て、まさみは真理子に苦手な思いを持っていることに罪悪感を抱いた。
まさみと颯太の家族はレストランで両家の挨拶をした。まさみは真理子が何か言うのではないかと心配していたが、その心配は杞憂に終わった。まさみは真理子に対して神経質になりすぎているのではないかと反省した。
「優しそうなご両親ね。安心した」
まさみの母の妙子は微笑んだ。
「絶対に颯太君を手放すんじゃないぞ。あんないい男はいないぞ」
まさみの父の剛志は酒で赤くなった顔で言った。剛志の目には光るものがあり、まさみに気づかれないように袖で目をごしごしと拭いている。彼は颯太のことを完全に気に入ったようだった。
「うん。分かってる」
妙子と剛志はまさみの幸せを心から喜んでいるようだった。まさみも自分の幸せを喜んでくれている両親を嬉しく思った。
まさみは仕事終わりに真理子から連絡が来た。まさみと真理子は両家の挨拶の時に、連絡先を交換していたのだ。直接会って話したいことがあるので、土日に会えないかということだった。まさみは不思議に思いながらも承諾した。
まさみは颯太の実家に訪れると、リビングに通された。颯太と敦は仕事でいなかった。
「お邪魔します。こちらお土産です。お口に合えばいいんですけど……」
「あら。ありがとう」
まさみは真理子に手土産を渡した。真理子は手土産を貰ったが、ちらりと一瞥しただけで紙袋から出さず、テーブルに置いた。
「あの……。お話って言うのは? 」
「そのことなんだけど。ブライダルチェックを受けてみない? 」
「ブライダルチェック? 」
「結婚前に婦人科検診のことよ」
まさみは血の気が引き、体が急激に冷たくなったように感じた。まさみは震えそうになる声を抑えて聞いた。
「それってどういう意味ですか? 」
「颯太が子供好きなことは知ってるわね? 」
「はい」
「颯太に子供が出来なかったら可哀想でしょう」
「でもそれは私だけの問題じゃないですよね」
「あなた颯太に問題があるって言いたいわけ」
真理子は責めるような言い方だった。
「そういうことじゃなくて」
「それなら問題ないでしょう。それとも自分に問題があることが分かるのが嫌なの? 」
「分かりました。受けます」
まさみは少し時間を置いてから答えた。
「よかった。話せば分かってくれると思ってたわ」
真理子は嬉しそうだったがまさみは強く拳を握っていた。
颯太が家に帰ると紙袋に入った手土産がリビングに置いてあることに気づいた。
「お母さん。今日はお客さんが来たの? 」
「ええ。まさみさんが来てくれたの」
「まさみが? どうして? 」
「大事な話があるからって」
「大事な話って? 」
「ブライダルチェックを受けたいんだって」
「そうなんだ」
「私も受けるから颯太にも受けて欲しいけど、自分は言いづらいからお義母さんが言ってくださいって言われたのよ。私はそれは颯太本人に言ってくださいって言ったけど」
「そうだったんだ」
「お義母さんごめんね。まさみに注意しておくよ」
「そうしてちょうだい」
颯太は自分の部屋に入るとまさみに電話を掛けた。
「もしもし。僕だけど。まさみ今大丈夫? 」
「うん」
「今日、うちに来てくれたんだって? お母さんが変なこと言わなかった? 」
まさみは口籠もりながらも答えた。
「実はブライダルチェックを受けて欲しいって言われたの……」
まさみの言葉に颯太は納得した。
「やっぱりか……。本当にごめん。嫌な思いしたね」
「ううん。大丈夫」
「ブライダルチェックは受けなくていいよ」
「ううん。受けるよ」
「お母さんのことなら気にしなくていいから」
「これで何もなかったらそれでいいし、あったなら考えればいいし」
「本当に大丈夫? 」
颯太はまさみを気遣うような声だった。
「うん。大丈夫」
「分かった。まさみが受けるなら僕も受けるよ」
「本当にありがとう」
まさみは電話を切ると一つため息をついた。真理子は確かに意地悪だ。でも颯太はまさみの味方でいてくれている。まさみは結婚をしても颯太となら乗り越えられると思った。
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