第46話 迷宮攻略〜合流〜

 瘴気を取り込んで変質したミノタウロスが消滅するのを確認。すると、ボス部屋を取り巻いていた瘴気も晴れるように消滅した。これにより、湧いて出てきた魔獣達も打ち止めとなる。


鎧百足アーマーセンチピード達は地面の下から撹乱を! 軍隊蟻アーミーアント達は部隊をいくつかに分けて魔獣達を分断して押し込んで!」


 龍蜻蛉ドラゴンフライに乗って空中から指揮を取るシルカ。流石に百足龍虫ドラゴンセンチピードは巨体過ぎるため呼んでいない。シルカの指揮下にある魔蟲達はまさに軍隊のように縦横無尽に動きながら魔獣を追い詰めていく。そして分断した魔獣達をレミナ、シャリア、マグザに地竜兵団達が各個撃破して行った。


「これで終わりっ!」


 魔光オーラを纏ったシャリアの刃が最後のダークオーガを斬り裂き、戦いが終わった。地竜兵団も被害ゼロとは行かなかったものの、これまでに比べれば格段に少なかったらしい。少なくとも死者が出なかった事は僥倖と言える。


「あの方達がいるとここまで被害が減らせるものなのですね。まだ若いのに、どうやったらあそこまで……」

「あいつらは例外じゃ。アレが普通だと思わん方が良い」


 固有能力ユニークスキル持ちに魔光オーラ使い。そしてランク詐欺とも言える魔道士達。アレが普通だと普通の概念が根底から覆る。


「よし、先に進みましょう!」


 そんな事を言われている事はつゆ知らず、先陣切って上への階段を駆け上がって行くミリアだった。





    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




灼熱の砲弾ブレイズボール!」


 爆炎と共に立ち昇る火柱。焼き尽くされた漆黒の魔獣達が塵となって宙に舞う。その後ろから押し寄せてくる沢山の魔獣達。


「はぁ、はぁ、キリがねぇな」


 荒い息を吐きながらヴェラはぼやいた。

 目線を目の前の魔獣たち。その先にいる存在に目を向ける。

 そこにいたのは豪華な装飾のローブを身に纏った大柄な人影。しかし足はなく闇に溶け込むようにして消えている。フードの下に隠れたドクロがカタカタと笑うように音を立てた。


「何とかここまで来たのに、出てきたボスがデス・ネクロフィリアかよ」


 デス・ネクロフィリア。

 死した魔道士でありながら死体を愛すると言う異常な精神によって変貌した死霊術師ネクロマンサー亡霊魔道士リッチである。


「くそっ、今のオレの魔力だとこの亡者どもの壁を超えて奴に魔法を届かせる事はできねぇ。かと言ってこのままじゃジリ貧だ」


 そうぼやいて唇を噛む。

 実は、たった1つだけこの状況を高いできるすべがヴェラには存在していた。ただ、それはヴェラにとってはあまり取りたい手段ではなかった。


「……仕方ねぇ。今なら誰も見てねぇだろうし、やってやるよ!」


 その瞬間、ヴェラから強烈な光と激しい衝撃波が放たれた。周囲の亡者達はそれだけで粉々になって舞い散った。

 そして、光の中に浮かぶヴェラのシルエットは瞬く間に大きく膨れ上がり、それは巨大な竜の姿へと変化していく。しかも、彼女の姿は――


『消え失せやがれ、亡者ども!』


 その口から放たれた閃光にも似た蒼炎は瞬時に亡者達を焼き尽くしデス・ネクロフィリアを飲み込んだ。超高熱の蒼炎を浴びたデス・ネクロフィリアは声を上げる事もなく骨一本も残さず灰となって舞い散った。


『思い知ったか!』


 広場に1人勝利の雄叫びを上げているところに、


「え? 三つ首の竜?」


 そう後ろから声が聞こえてきた。振り返るとそこには嬉々とした笑みを浮かべたミリアと、その仲間達。アニハニータに執事のマグザ、そして地竜兵団の面々の姿があった。


「うおおぉぉぉ! こいつがこのフロアのボスか!」

「頭が3つある竜なんて初めて知った。希少種か?」


 強敵感に獰猛な笑みを浮かべるレイダーに、物珍しさに目をキラキラさせているカイト。そんな3人の様子にレミナがぼそりと呟いた。


「あ……そのドラゴン」

「先手必勝だオラァ!」

「首一本は俺が貰うぞ!」


 レミナの声は届かなかったようで、レイダーとカイトがミリアよりも先に飛び出して行った。

 唸りをあげて繰り出される鉤爪と空気を切り裂いて振り下ろされる刃。その速度は通常の魔物ならば回避不能なものだった。


『うおっ、危ないだろーが!』


 器用に首を動かして2人の攻撃を避けると、その遠心力を利用して頭と尻尾を叩きつけた。


「うおぉぉぉっ!」

「わあぁぁぁっ!」


 揃って吹っ飛ばされた2人に、ミリアは目線だけを向ける。


「やるじゃない。相手にとって不足無し!」


 その瞬間ミリアの全身から魔光オーラが溢れ出した。それが流れるようにミリアの両腕に巻き付いていく。


(し、真紅の魔光オーラだと!?)


 初めて見る魔光術スペルオーラに動揺したヴェラは反応が遅れた。気がつけばミリアの姿はヴェラの懐に現れていた。組んだ両手が竜の口のように開かれる。


『や、ヤバい!』

「喰らえーーーい!

 火焔竜の砲インフェルノカノ真言リルワーズ『ミリアが』『仰向けに』『転ぶ』」ンンン!?」


 真言魔法が先に発動、ミリアは派手にすっ転ぶ。その瞬間、ミリアの魔法が発動し、爆発的な魔力を帯びた緋色の閃光が天井を貫き大空の雲に大穴を開けた。


『あ。直撃したら死んでたな』


 大穴から青空が見えるその惨状に、顔色が空と同じく青くなるヴェラだった。



    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「「「申し訳ありませんでした!」」」

「お、おう。お前らにはオレの竜形態の姿を見せてなかったからな。まあ仕方ねぇさ」


 目の前で地面に額を擦り付けるミリア、レイダー、カイトの3人に苦笑いを浮かべるヴェラ。すでに竜変身は解除して元の姿に戻っている。


「師匠に兄さん、いきなり襲いかかるなんて戦闘狂が過ぎますよ! 師匠に兄さんだけならともかくカイトさんまで!」

「竜の色を見れば瘴気に侵されたこの迷宮のモンスターではない事はすぐに分かったであろうに」

「何か、カイトが良くない方向に突き進んでる気がするわ」


 説教するシャリアに呆れるアニハニータ。そして自分がどうにかしないと、と決意を新たにするシルカに、正座させられた3人は小さくなるだけだった。


「……しかも使った魔法が創作魔法オリジナルスペルだなんて。あれ、前に使った滅風の息吹ブラストブレスを模したのと同じ系統よね?」


 エクリアがそう問いかけると、ミリアはキラキラした顔で答えた。


「そう! 前に戦ったベルゼドのブレスを参考にして作ったの。火焔竜の火焔の息吹インフェルノブレス。名付けて『火焔竜の砲撃インフェルノカノン』! どう? 大した威力だったでしょう」


 自慢げなミリア。

 どう見ても火焔竜の放つブレスより威力があったが、ミリアが調子にのりそうなので黙っている事にしたエクリアだった。


「……火焔竜フレアドラゴンのブレスを再現するとか。アニハニータ、お前の孫はどうなってるんだ?」

「親の血かなぁ。流石に妾の孫だとしてもはちゃめちゃすぎる気がしてきたのだ」

「それにしても、火焔竜フレアドラゴンのブレスを模した魔術を作れると言う事は、ミリアは火焔竜フレアドラゴンを見た事があるのか?」


 ミリアは頬を掻きながら苦笑い。


「見たと言うか、戦った事があるって言った方がいいかも」


 その返答にヴェラやアニハニータ、シルカ達も目を丸くする。


「正しくは具現化の魔法で蘇った火竜王フレアドラゴンロードなんだけどね」

「ちょっと待って。それってまさかあのフレイシアの街で大暴れしたって言う邪竜ベルゼド?」


 呆然と問いかけるシルカにミリアは頷いて返した。


「さっきベルゼドとか聞こえた。気のせいかと思ってたんだけど……」


 なんだか頭痛がしてきた、と頭を抑えるレミナ。


「で、何でそんなのと戦う羽目になったのよ」


 ジト目で問いを投げつけてくるシルカ。もう見た目尋問官とほとんど変わらない。え〜っと、と困ったように言い淀み、とりあえず当たり障りのないところだけ話す事にした。


「……あの時請け負っていた依頼が行方不明者の捜索だったんだけど、そこから成り行きでベルゼド復活に関わっちゃったのよ。

 しかも目の前で復活されたもんだから逃げられそうになかったし。逃げられないなら戦うしかないでしょ」


 エクリアの家族が関わっていた事は伏せておいた。無理に蒸し返す必要はない。


「よく生きてたね。ただの竜でも問題。なのに竜王ともなると論外」


 レミナが感心と呆れが混ざったような表情で言った。


「私達だけだと死んでたわよ。ベルモールさんが助けに来てくれたから生き残れたの」

「そうよね。流石にあの時はもう終わりだと絶望したわ」

「いくら何でも見習いマージが戦う相手じゃなかったです」


 リーレが言い放ったその言葉に全員が耳を疑った。


「は? 見習いマージ?」

「うん。私とエクリア、リーレの3人はベルゼドとの戦いで生き残ったから正魔道士セイジに昇格できたと言っても過言ではないわね」


 呆然を通り越して唖然とすら一同。

 正魔道士セイジへの昇格条件が竜王と戦って生き残る事など無茶苦茶すぎる。普通なら挫折する事間違いなしだ。

 だが、その茫然とした全員の反応を何を勘違いしたか、ミリアはこう言い放った。


「べ、別に何もできなかった訳じゃないわよ!

 私とエクリアとリーレのほとんどの魔力を注ぎ込んだ『魔力収束』灼熱の爆裂弾ブレイズフレアでベルゼドの上半身を吹き飛ばす事ができたんだから!」


 気を落ち着かせるために水を飲んでいたヴェラが吹き出した。


「でもあのベルゼドの奴、『記憶解析』と『具現化』で再現し続けているせいで上半身を吹っ飛ばしても倒せなかったのよね」

「ちちちちょっと待て!」

「えっ?」

「お前、見習いマージの時点で竜王を一度は倒せたのか!?」

「いや、倒せてないけど」

「一度でもダウンを奪えれば十分過ぎる!」


 改めてこの3人だけは普通に考えてはいけないと思ったヴェラだった。



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