第39話 瘴気を生み出す魔道具
魔道具。それは魔道の技術を使い、たとえ魔力を扱えないものにも魔法に似た力を扱えるようにした道具の事である。
また、魔道具にもタイプがあり、魔道士の補助をする魔道具の他、遠隔操作で起動するタイプのものもある。
遠隔操作型の魔道具は場合によっては兵器として扱われる事が多い。典型的なのはカイオロス王国の領都バウンズを消し飛ばした
そのため、遠隔操作型魔道具は魔道法院が生産が禁止しており、もし作られる事があるとすれば魔道法院から直接許可を取った王国関係の研究部か、もしくは裏社会の犯罪組織かである。
「魔道具……ですか」
メーディアがそう反芻する。
「私の知ってる限り、瘴気を放つ魔獣に変化させる方法は特殊な薬品によるものしか知らないんだけど、その方法の場合は直接対象となる生物に摂取させないといけない。でもリザードマンがメリッジューヌで行動してたらどう考えても目立つでしょ」
「それに、リザードマンは泳げないから。下手に海に近づけばパクリ」
レミナの意見。あのリザードマンをパクリとは、いったいどんな化け物魚が存在するのか。とにかく、泳げないのでは確かに摂取させようがない。
「それはドラゴニュートやドレイクも同じ?」
「妾の知る限りは同じであろうな。少なくとも海を専門とする海魔族達の前ではどの魔族も海ではまともに動けまい」
「なら、やっぱり魔道具を使った可能性が高いわね」
ふーむと考え込むミリアにメーディアが質問を続けた。
「あの、私達魔族は魔道具には疎いものでして、ぜひお姉さまにお聞かせ願いたいのですが。お姉さまはそのような魔道具をご存知なのでしょうか?」
聞かれて目をパチクリとさせるミリア。そして首を横に張る。
「流石にそんな物騒なもの聞いた事ないわ。でも可能性はあると思ってる。みんなは瘴気を放つ魔獣、つまり上級魔獣がどうやって生まれるか知ってる?」
ミリアの問いに顔を見合わせるシルカやレミナ、および魔族達。そこで返答したのはやはりリーレとエクリアの2人。
「確か、魔獣が一定以上の濃度の瘴気に覆われた環境にいた場合に変質するってどこかで読んだ事がある気がします」
「うん。魔獣がさらなる瘴気を身体に取り込んだ際に、身体の内部に瘴気を生み出す器官を作り上げてしまうって本に書いてあったと思うわ」
2人の返答にミリアは満足げに頷く。
「よくそんな事知ってたな」
賞賛半分呆れ半分のような声色でレイダーが言った。
「まあ、あたし達学園に通う前はエクステリアの街に滞在しててからね。魔道士の街の呼び名通り、あそこには
「おまけにミリアちゃんが受ける依頼事って基本的にすんなり終わりませんし。こう言う知識も必要な場面が多いんです」
「あ〜、それは分かる」
続けたのはシルカだった。
「今回も冒険家のバリアンさんがグローゼンにいるって聞いたから追ってきただけだったのに、気がついたらサーベルジアの動乱に巻き込まれてるし」
「俺達もだよな。デニス先生と修行の旅をしてるだけだったんだけどな」
「なぜかサーベルジアにいると」
ま、これも修行になるけどな、と脳天気に笑うレイダーとカイト。この2人も色々と常識から外れてきたなとミリアは思った。
「話が逸れたけど、あの上級魔獣は瘴気が充満している場所であれば自然発生する可能性があるのよ。その状況を魔道具で再現する方法があれば……」
「瘴気を放つ魔獣を量産できる、か」
「でもそんな魔道具、見たことも聞いたこともないんですけど」
腕を組んで記憶を辿るシルカに、やれやれとミリアはため息ひとつ。
「そりゃそうでしょ。制御できない瘴気を放つ魔獣を生み出すだけの害しかない魔道具なんて作ろうと思う人すらいないわよ。普通は」
「普通は、てすか。つまりは普通じゃない連中が作っていると言うわけですね、師匠」
「そうね、普通じゃない組織。それはつまり……」
「なるほど。こちらもダルタークの仕業という訳か」
そう言いつつ眉を顰めるアニハニータ。
すでに関与する組織ダルタークの事を知っているアニハニータとは違い、メーディア達は首を傾げる。
「ダルターク、ですか?」
「第1次、第2次アーク戦争を引き起こし、封印された
「レゾン・ダルタークと言えばあの……」
「察しの通り、サーベルジア南西部に広がる無の砂漠を生み出したあのレゾン・ダルタークだ」
戦慄で表情が青くなるメーディア達。さらにアニハニータは続ける。
「奴らの手によってロスターグのオルディアが漆黒のグリフォンへと変えられた。北のオグニード内での瘴気を放つ魔獣の大量発生の事もあり、ダルタークはここサーベルジアの裏にかなり深く喰い込んでおるのかもしれぬ」
「そんな事が……」
ミリアはアニハニータの方に目を向ける。メーディアにミリア達の事を話しても良いかどうか。アニハニータは頷いた。
「メーディアさん達は信頼できそうね。だから本当の事を話すわ。
実は私達はヴェラさんからオグニード東部からメリッジューヌにかけて出没している魔獣の調査と討伐を請け負っているの。魔獣化の薬と組織ダルターク。どちらも私達にとって無関係じゃないからね」
「無関係じゃないって、お姉さま達って何者なんですか?」
「別に特別な何かって訳じゃないわ。私もエクリアとリーレもヴァナディールから来た
「え? 魔道士? ヴェラ様と同じ?
冗談ですよね?」
「わはははは! 面白いくらいみんな同じ反応だな! まあ無理ないけどな」
メーディアの反応に腹を抱えて笑い出すレイダー。とりあえずゲンコツ1発で黙らせる。
「……あの、大丈夫?」
顔面から地面にめり込んだレイダーに心配そうに声を掛けるレミナ。対して、「大丈夫ですよ。赤獅子族の男はこの程度なら大した事ありませんから」などと、妹のシャリアが気楽に言った。
「今は敵からヴェラさんとの繋がりが見えたら警戒されると思って魔道士の姿を隠す事にしたの。まあ、私達3人はパパから色々と武術の手解きを受けてるから丁度いいかなって」
「ミリアなど魔道士のくせに魔法抜きでオグニードの元親衛隊長のマグザと良い勝負できるほどの腕前だ。魔道士の姿をしていなければ誰も魔道士だなんて思わぬだろうな」
そんな事言いながらカラカラとアニハニータは笑った。
「まあそういう訳だから。
話を戻すけど、元々ヴァナディール王国は魔道士の国だからね。魔道技術だけじゃなく、自然界の事や魔物魔獣に関する事などいろんな研究が行われているの。だからその辺の資料には事欠かないのよ」
「ではこの瘴気を放つ魔獣についての情報も?」
「そう。資料にあったって訳。
さっきも説明したと思うけど、魔獣が瘴気を放つようになるためにはかなりの濃度の瘴気が充満した環境が必要なの。そんな瘴気の吹き溜まりみたいな場所なんて自然に発生する事はほぼ無いはずなのよね」
本来、瘴気は濃度が高くなる前に空気中に溶けて普通の魔素と同化してしまう。濃度が高くなるには必ず何らかの外的要因が存在するはずなのだ。これまでの歴史の中で濃度の高い瘴気が発生した事案は多くはない。有名どころで言えば、第2次アーク戦争でレゾン・ダルタークの侵略を受けた国があり、王族や民が虐殺され都は廃墟と化した。その人々の怨念が負の魔力となり、漂う魔素を立ちどころに反転させた。そして瘴気と化した魔素が周辺一帯を覆いつくした。
その範囲にいた獣は魔獣となり、魔獣は瘴気を放つ上級魔獣になって周辺国への被害をまき散らしたという。
「魔素は負の魔力を当てれば反転し瘴気になる。もしかしたらそんな効果を持つ魔道具を生み出したのかもしれない」
「のんびりして居る暇はなさそうだな。そんなものもしあれば一大事じゃ。見つけ次第破壊せねば」
方針は決まった。おそらく、オグニードにもどこかに設置されている可能性が高い。瘴気溜まりを見つけ出せばおそらくはそこにその魔道具は存在するはず。ただ、偏にオグニードと言ってもかなり広い。闇雲に探しても簡単には見つかるものではないはずだ。何かしらの目安のようなものが欲しいのだが。
「……ルードは何か知らないかな」
瘴気は基本的に大気に交じって広がっているはず。風を司る竜の上位種である
そう考えたミリアは一度街を出て声をかけてみる事にした。
「ルード。聞こえる?」
ミリアの声に答えるように
『どうした、話し合いは終わったのか?』
「一応ね。ちょっとその件で聞きたいんだけど、ルードって大気中に交じる瘴気って感じ取る事できる?」
『瘴気? それが具体的にどういうものなのかは知らぬが、何となく大気中に不快なものが混じっているのは感じられるな』
「不快なもの?」
『うむ。何というか、汚れた空気というか、何かに汚染されている大気を北の方から感じるのだが、それの事か?』
言いながら北の方の見て顔を
ルードの言う汚染された大気。確証はないものの、ミリアには何となくそれが瘴気なのではないかと思った。他に情報がない以上、まずはそこに向かってみる他はない。
(とにかく北に向かってみて、瘴気を放つ魔獣が増えてくれば当たりってところかな)
明日の予定をそう決めて、ミリアはルードの方を見上げた。
「それじゃあ、明日から瘴気の発生源を調査するから。ルードの鼻頼りだから明日もよろしくね」
『別に臭いで判断しているのではないのだが。まあ良いか』
こうして、ミリア達はまずオグニードの瘴気源から解決する別行動を開始するのだった。
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