第32話 魔界に侵食する組織の影
漆黒のグリフォンを倒したミリア達は、一先ずレミナを連れてサンタライズ卿の屋敷まで戻る事にした。
狂っていたガルーダ兵達も瘴気が無くなると憑き物が落ちたように大人しくなっていた。
「わ、私達は、一体何を?」
どうやら瘴気で狂っていた時の記憶が抜け落ちているらしい。部隊長らしき兵士にアニハニータが説明する。
「貴様らは魔獣の放っていた瘴気に駆られて暴走しておったのだ。オルディアが変貌した漆黒のグリフォンのな」
「な、オルディア様が……」
その部隊長は信じられないように首を振る。か、その後ろから別の兵士が口を開いた。
「……わ、私も見ました。少しですが、オルディア様が真っ黒なグリフォンに変わり、全身から瘴気が噴き出していたのを……」
「そんな……」
アニハニータは少し考え、
「お前はロスターグ軍の中ではどのくらいの階級にいる?」
「わ、私はロスターグ軍ガルーダ隊の総指揮を任されておりました、タイランド大佐です」
「大佐か。一応自己紹介しておこう。
妾はメルキャットとこのサーベルジア連邦を統率する大魔王アニハニータである。まあ、今はこんな姿ではあるがな」
「え? しかし陛下は……」
「いろいろ訳ありでな。それよりも話を聞きたい。
お前は妾達と共にサンタライズ卿の屋敷に来てもらう」
「……拒否権はなさそうですね。分かりました、同行します」
タイランドは部下にいくつか指示を出すと、
「いつ頃出発しますか?」
「あまり時間は取りたくはない。すぐに出発するぞ。
ミリア」
「は~い」
ミリアは屋上に出ると声を張り上げた。
「ルード!」
その瞬間、嵐を思わせる緑の鱗を持つ巨大な竜が城塞の下から急上昇。バサッと巨大な翼を広げて咆哮を上げた。
『呼んだか、ミリアよ!』
「ここでの仕事は終わったからまたサンタライズ卿の屋敷まで運んでくれる?」
『よかろう』
さらに
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そうですか。オルディア様がそのような事に……」
鎮痛な表情をするデクノア。
「うむ。レミナ嬢は無事に救い出す事ができたものの、ダンドール城塞は半壊。ただ、オルディアが変貌した漆黒のグリフォンはミリアと
「そうですね。
レミナよ、無事に戻ってきてくれてよかった」
「お父様……」
「レミアナも心配していた。今寝室にいるはずだ。会ってくると良い」
「はい。大魔王様、これで失礼します」
「うむ、レミアナにもよろしくな」
レミナは一礼をし、ミリア達に「また後で」と告げると部屋を出て行った。
「……レミナとはもう会えぬのではないかと覚悟しておりました。陛下やレミナの友人達には感謝の言葉もありません」
「そうじゃな。ミリア達の手助けがなければそもそもここにすら戻ってこれなかっただろうな。
王無きこのロスターグをどうするか。一先ずは其方が纏める形を取ってくれ。その後先代を復帰させるか、もしくはそのままデクノアにこの国を治めてもらうか決めるとしよう」
「畏まりました」
「さて、それよりもさっそく本題に入ろうかと思う」
「オルディア様が魔獣に変貌する原因となった薬の事ですね」
「うむ、あんな物騒なもの、このサーベルジア連邦にすら出回っておらぬ。
ミリアよ。お前はあの薬について何か知っているのだったな」
アニハニータの問いにミリアは頷いた。
「あの薬はヴァナディール王国で3回ほど使われたのよ。
初めて見たのはヴァナディール魔法学園で、2回目は王都ヴァナディの広場でね。あと1回は私が見たわけじゃないんだけど、ベルモールさんが追っていた男が薬を使って魔獣化したらしいわ」
「そんな薬が一般的に制作されるとは思えんな」
アニハニータのボヤキにミリアも同意する。
「確かに、あんな薬が一般に作られるはずがないわ。
ヴァナディール王国での人を魔獣に変化させる薬は全て組織ダルタークが関与していたのよ」
「前に話していたレゾン・ダルタークを復活させようと目論む組織の事だったな。つまり、奴らがこのサーベルジアにも手を伸ばしてきていると言う事か。一体何のために……」
沈黙する一同。
あの組織が何の意味もなくこのサーベルジア連邦に手を出すとは思えない。必ず何らかの理由があるはずだ。例えば、レゾン・ダルタークに何かしら関係のある物とか。
そう考えたミリアはアニハニータに1つ問いを投げかけた。
「このサーベルジア連邦でレゾン・ダルタークに関係ありそうなものって何かあるの?」
「ううむ、いくら妾でもさすがに700年前に封印された古の大魔道士ゆかりの物があるかまでは知らぬ。
強いて言えば、今ラーズが持っているメディスンの杖くらいか」
「アニーさんの魔力を半分奪い取ったと言う例の?」
「うむ。あの杖はレゾン・ダルタークとの決戦の際に使われていたとされるものだ。その後何らかの理由である遺跡に封印したと言うが。あの杖に何か秘密があるのかもしれんな」
「となると、ラーズを直接問い詰めるしかないと言う訳か。今ラーズはどこに?」
「それはもちろん、このサーベルジア連邦の中心であり、妾の治めるメルキャットの王城じゃ」
なるほど、とミリアは頷く。
こうなればやはりアニハニータと共にメルキャットまで向かう必要があると言う訳だ。
そんな中、デクノアが質問を投げかける。
「すいませんちょっとよろしいでしょうか? メディスンの杖は遺跡に封印されていたという話。
こう言ってはあれなのですが、我々魔族は遺跡探索に関してはほぼ経験もなく、言い方を変えればまさにド素人。そんな我々で封印を施すほどの遺跡を探索できるものでしょうか?」
「むむ、それは確かにその通りだが……ラーズめはもしや外部から冒険者でも雇ったのではないか?
デクノアよ。その辺りの情報は何か掴んではおらんか?」
問われたデクノアは少し困った顔をする。
「申し訳ありません。我々はレミナを人質に取られ、こうして館に軟禁状態でしたので、外部の情報はほとんど入ってこなかったのです」
「それもそうか」
と、そこで声を上げたのはレミナだった。
「陛下。その冒険者は私が知っているかもしれません」
「なに?」
「ダンドール城塞に幽閉されている時に敵の兵士が噂していた中に、現在メルキャットに捕らえられている人族の冒険者の話がありました。おそらくその人が封印を解いたのかも」
「むぅ、只者ではなさそうだな。名前は聞いておらぬか?」
「確か名前は……」
その名前を聞いた時、正直ミリアにはここに来たのはまさに運命だったのではないかと思ってしまっていた。
「……バリアン・ザックストンだったかと」
これは何をしてでも自分もメルキャットまでついて行く必要がある。ミリアはそう決心した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その数日後、グローゼンに向かっていたハーピーの兵士達が帰還するのを待ってミリア達はロスターグを出た。引き続きドラゴン達に頼んで空からの行程となっている。
そのメンバーはアニハニータとミリア達にレミナを追加して9人になっていた。そしてここからは
向かうのはサーベルジア連邦東部に広がる国ノリッジューム。スキュラなどの海魔族達が治める場所だ。その国はサーベルジア連邦では唯一海に面しており、半島といくつかの島によって成り立っているらしい。
「ノリッジュームはラーズが遠征を決めた際にロスターグ同様に反対を唱えていたの。だからあの国なら陛下の話も聞いてくれるかもしれない」
「ふ~む、地理的には面倒な形だな。サーベルジアの南北の国が強硬派。東西の国が穏健派と言う訳だ。
となると、ノリッジュームに向かう場合はどうやっても北のオクニードか中央のメルキャットを横切らないといけないわけだ」
レミナの話に顔をしかめるアニハニータ。
「北のオクニードは竜人族の国だ。奴らも比翼族ほどではないが自由に空を飛べる者達もいる。
特に、あの国を纏める
『ほう、竜に変身する能力か。我々と比べると如何程の力を持っているのか。興味があるな』
「流石に純粋な竜族ほどの力は持っておらぬよ。ただ、あの国の王族貴族はかなり力を持っている。一般的な
『
「機会があればな」
そう言ったものの、そんな機会など無い方がいいとアニハニータは思った。
強硬派とは言えサーベルジア連邦を構成する北の国オクニートを治める王なのだ。王を潰して回っては連邦が崩壊しかねない。今回やむを得ずオルディアを倒してしまったが、今後できれば倒すのは首謀者のラーズのみにしておきたいと考えるアニハニータなのであった。
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