第29話 レミナ救出
「ええい、何をやっている!
あんな
ダンドール城塞内に怒号が響き渡る。
「し、しかし相手の
「奴らが空の覇者だったのは過去の話だろう!
今の我々には魔導兵器がある! あの力をもってすればドラゴンなどたやすく撃ち落とせる。そんな話ではなかったのか!」
「ですが、実際に
(くそっ、どうなっておるのだ)
玉座に腰かけたガルーダの王は手すりに拳を叩きつける。
(あの魔導砲を持ってきた奴は確かにドラゴンすらも撃墜できる武器だと言っていたではないか。なのに
当てられすらせんとは……)
「ふふふ、当てが外れたようで残念な事だな、オルディアよ」
「だ、誰だ!?」
その声の主は部屋の入り口に立っていた。
倒れた門番の兵士を踏みつけながら。
「あなたには分からないの? この方がどなたなのか」
その声の主は続けて扉の影から姿を現した。
「な、なに? 貴様、どうしてここに……」
そのいるはずのない人物の姿を見て呆然とするオルディアに向かい、
「妾の名はアニハニータ。サーベルジア連邦を統べる大魔王アニハニータじゃ」
アニハニータはそう告げ、部屋の中に踏み込んだ。
それに続いてミリア達も室内に雪崩れ込む。
「貴様……愚かしくも大魔王様を詐称するとは」
「詐称だと?」
「大魔王様は今も昔もメルキャットにおられる陛下だけだ!
貴様のようなちんちくりんな子供ではない!」
ピシッと空気が凍り付いた気がしたミリア。
それはほかのメンバーも同じだったのだろう。
ガルーダの兵士達も何だか顔が引きつっているようにも見えた。
「ほう……ちんちくりんとな」
ぴくぴくと口元が引くついているように見える。
「貴様のような子供が陛下を名乗るなど不敬にもほどがある!
この場でひっ捕らえてメルキャットの陛下の前に引き出してくれる!」
その一言は彼女の堪忍袋の緒を引きちぎるには十分だった。
「無礼者!
ドシャァッ
目の前にいたガルーダ全員が地面に押し潰されるようにひれ伏した。
「な、何だ今のは……」
地面に顔を押し付けたまま呻くオルディア。
「いや~、いつ見てもすごいわね。レミナの
「早めに助け出せて良かったわ。悪用されたら溜まったものじゃなかったし」
笑顔で言うミリアやエクリアに、同じようにほほ笑むレミナだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
30分ほど前の話。
東の尖塔から突入したミリア達は捕獲したガルーダの兵士の案内の元城塞の中を進む。
当然、その道中で敵兵と遭遇するのだが、
「ぐわああぁぁぁぁっ」
轟音と絶叫を上げて壁をぶち抜く敵兵。対して拳を振りぬいたミリア。
「こいつはおまけよ!」
追撃とばかりにその壁の穴に火球を投げつける。奥から轟音が鳴り響き穴からは炎が吹き出した。室内にいた者は漏れなく真っ黒コゲになっているだろう。
見た目華奢な17歳の女魔道士なのに物理攻撃でこの威力。さらに魔法の力も相当なものだ。それを見た案内役のガルーダ兵は顔を蒼白にしていた。
「な、何なんですか、あの人は……」
「妾の甥っ子じゃ」
「だ、大魔王様の……甥っ子!?」
「正確に言うと我が兄デニスの娘だな。お前は知らんか? 元大魔王候補筆頭だった兄の名を」
それを聞いてガクガクと震え出す。
「ま、魔界最強と噂された、暴れた後には草木1本も残さない『破壊王デニス』の娘!?」
「破壊王って……パパ、一体何をやったのよ」
「まあ、兄も若い頃は色々あったと言う事じゃな」
そんな調子でミリア達は進む。
案内役のガルーダ兵が言うには、レミナを幽閉しているのは城塞5階の一番奥との事。外を飛び回る
「ここの一番奥の部屋にレミナ嬢はいます」
廊下の一番奥には豪華な装飾ではあるものの一際頑丈そうな扉。
その前にはガルーダの兵士が6人。扉の左右に門番さながらに2人、そして2人1組で巡回しているのが4人。流石に見つからずに進むのは無理そうだ。と言うか、結構派手に蹴散らしてきた以上今更な気もした。
「敵は6人。こっちは4人。
あの巡回してるのはエクリアとリーレに任せていい?」
「大丈夫よ」
「何とかします」
はっきりと答える2人。実に頼もしい。これまでベルモールの無茶振り依頼と必要以上に大事化するミリアの大惨事トラブル体質に付き合わされていただけあって、こう言う経験だけは見た目よりも豊富だ。
「リーレ」
「オッケーです、エクリアちゃん」
目くばせだけで意思疎通を図る2人。同時に飛び出し一気に巡回する兵士達に迫る。
反対に巡回しているくせに全く予想もしていなかったのか、一瞬固まる巡回兵達。そこから声を上げる暇もなく飛んできた火炎弾と冷気を纏った氷の槍が巡回兵達の身体を直撃した。爆風で壁まで飛ばされ、方や氷の槍が直撃したところから瞬く間に全身が凍結する巡回兵達。
そしてそのあまりの光景にあっけにとられた門番の元へミリアとアニハニータが一息で飛び込んだ。
それはわずか数秒の出来事だった。
「あとはこの扉だけど」
「……やはり魔錠が掛かっているな」
「魔錠?」
「魔力による鍵のようなものだ。複雑な暗号のようになっていて、開錠するのにかなり面倒な手順が必要になるのだ」
アニハニータがああでもないこうでもないと呟きながら開錠を試みているが、ミリアはそんなまどろっこしい事をする気はなかった。
「アニーさん、ちょっと離れて」
「ん?」
振り向いたアニハニータの目の前には、全身から白銀色の
そのまま大きく深呼吸すると、
「でりゃああぁぁぁっ!」
それはまさに咆哮のようだったとのちにアニハニータは語る。
獰猛な獣が咆哮と共に、魔錠が掛けられた扉へと襲い掛かる。ミリアの行動はまさにそのように見えた。
繰り出された
轟音と共に壁の蝶番が壁ごと砕け散り、扉が奥に向かって吹き飛んだ。無茶苦茶な力技だった。
その扉の奥、左の窓際に設置されたベッドの上に座っていたハーピーが目を丸くしている。吹っ飛んだ扉はそのまま壁に大穴を空けて外まで飛び出していた。当たらなくて良かったとアニハニータは思った。
「レミナ! 助けにきたよ!」
「え? ミリア?」
まさかミリア達が来るなんて思っていなかったのだろう。レミナもまだ理解が追い付いていないようだった。
「どうしてミリアがサーベルジアに?」
「う~ん、話せばちょっと長くなるんだけど」
とりあえずミリアはこれまでの出来事を掻い摘んで説明した。
世界樹の情報を持つ冒険者を追ってグローゼン王国に来た事。王女のシャリアに頼まれて闘技大会に参加した事。本大会まで進んだものの、そこで合流したデニスからグローゼンの首都ローゼンに向かってハーピーの兵士が飛んできていた事。そして、その兵士からレミナが捕まったと聞かされた事など。
「……そう。何と言うか、大変だったね」
レミナは同情的な目をエクリアとリーレに向けた。
先ほども語ったが、ミリアは行く先々でトラブルに巻き込まれるトラブル体質。しかもそれが
「とにかく、脱出するよ。と、その前に……」
ミリアはナイフを取り出すと、レミナの首に巻かれているチョーカーを切断した。毎度おなじみの魔力霧散の紋章陣が刻まれたチョーカーだった。
「ありがとう。これで、私も戦える」
ベルモールに貰った真言魔法用のペンダントを握りしめてレミナが言った。
「うむ、募る話もあろうが、今はまずこのロスターグを平定するぞ」
「……えっと。あなたは」
「妾か? 何を隠そう妾は」
「大魔王様ですか?」
「そう、妾こそが大魔王の……ってなぜ分かった!?」
言い当てられて目を見開くアニハニータに対し、レミナは笑って言った。
「私はハーピー。魔力を見るのは得意です。
見た目は子供だけど、この魔力は間違いなく大魔王様のもの。私には分かりました」
それに、とレミナは続ける。
「ミリアの魔力。初めて会った時から何かに似ていると思っていたけど、大魔王様とよく似た魔力だった。
大魔王様と関係が?」
それに対し、ミリアは頭を掻きながら少し照れたように答えた。
「どうやら、アニーさんはパパの妹らしいの。つまり私の叔母ってわけ」
「なるほど。納得」
うんうんとレミナは頷いた。
「……破天荒さもよく似ているのは叔母さんだったからか」
「破天荒言うな」
こうして、ミリア達は無事レミナの救出に成功した。
次はアニハニータの言うように、ロスターグを平定するためにガルーダの王オルディアを目指して進む事になった。
そして話は冒頭に続くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます