第28話 悪魔のミリア、再び
翌日。
まだ太陽が昇る前の薄暗い空をミリア達を乗せた
他の
「ねえ、アニーさん。今のロスターグの王の……何だっけ?」
「オルディア」
「そうそう、そのオルディアなんだけど、比翼族の王って事は結構強いのかな」
何となくではなくあからさまにワクワクしているミリアに、残念そうにアニハニータが言う。
「いや、実はオルディアはそこまで強くない。確かに他の兵士達よりは強いが、正直他の
「へ? 何で? 王なんでしょ?」
「だからこそと言うかな。よくあるだろう。権力にうつつを抜かし、努力を怠ると言う事が。
オルディアはその典型でな。飛ぶ速さはそこそこあるもののそれだけだ。槍の武術も凡庸だし、魔法が使えるわけでもない。先代ロスターグ王のメディアス殿は文句なく強かったのだがなぁ」
「……もしかして、接近戦になるとミリアちゃんよりも?」
恐る恐るリーレが尋ねると、アニハニータは頷く。
「間違いなくミリアの方が強いな。魔法ありとなればもはや勝負にならんだろう。
おそらくだが、接近戦ではエクリアやリーレにも及ばんだろうな」
アニハニータはミリアと実戦形式で訓練するエクリアとリーレの戦い方を見ていた。初めて見た時は正直目を疑ったものだ。ミリア以外にもここまでとんでもない実力のものがいるとは。自分にはまだ及ばないまでもサーベルジア連邦を構成する各国の王達に匹敵するくらいにはありそうだと感じた。
全く世界は広いな。アニハニータは心底そう思った。
(この2人の戦い方にも兄さんの影が見える。兄さんに鍛えられたのであればこの強さも納得か)
アニハニータは再び視線を前方に戻す。
鋭い山々の隙間から一際巨大な山が見えてきた。
ダンドール山。
ロスターグのある山脈で最も高い山で、その標高は5000メトル以上はある。その中腹よりもやや上くらいのところに、埋め込まれるように作られた巨大な城塞が見えてきた。城塞の東西に建てられた見張り台にも使われる高い尖塔。城塞らしく、その周囲にはいくつもの壁が何重にも作られており、それぞれの壁には空中を飛んでくる敵に対する備えとして多数の砲門が用意されていた。
「あの砲台は?」
「魔力を圧縮して放つ魔導砲みたいなものだ。我ら魔族は魔法の補助や応用する魔道具の発展が遅れている代わりに、あのような魔力そのものを使った兵器の開発だけは重点的に行われていたのだ」
見上げるミリア達の上空で
「よし、妾達はこのまま低空から東側の尖塔に向かおう。そこから城塞に突入する」
「分かった」
チラッとミリアはもう一度上空の様子を確認する。
特に問題なさそうなのでミリア達は自分の役割に集中する。
「低空であの尖塔の真下まで行ってから急上昇。あの先端だけブレスで吹っ飛ばして。できるよね?」
『侮るな。これでも竜王様に仕える親衛隊の一角。その程度造作もない!』
「よし、降りるよ!」
「アニーさん、レミナがいそうな場所ってどの辺りか分かる?」
「いや、流石にこの城塞の中までは詳しく分からん。敵兵を捕らえて聞き出すしかないな」
「了解。エクリアとリーレも良いわね」
「任せて」
「捕えるのは得意です!」
そう言いつつ、尖塔の異変を聞きつけたガルーダの兵士が慌てて駆け上がってくる。
「な、何だ貴様ら! ここをどこだと――」
「
問答無用とばかりに放たれたリーレの氷の蔦にたちまち絡みつかれ頭残して氷に閉ざされた敵の兵士達。階段から来た兵士はあっという間に全部リーレの魔法の餌食となった。
「階段から駆け上がって来たわね。羽があるのに何で飛ばないのかしら」
当然の疑問をミリアが発するが、それにアニハニータが答える。
「ガルーダはハーピーとは違って
「何それ。これまでどうやって活動したたのかしら」
呆れたように言うミリアにアニハニータは、
「本来はガルーダとハーピーはチームで行動するはずなのだがな。今の状況ではチームでなんかやってられんだろう」
魔法が苦手ゆえに上昇気流を生み出す魔法が使えない。つまりは地上からは離陸できないと言う事。このダンドール城塞が高所に作られているのも、ガルーダはここからしか飛ぶ事ができないためなのだろう。
「何と言うか、今の王オルディアだっけ?
あまり頭良さそうじゃないね」
「……どうせ奴が王なのも今日までだ」
さて、次は尋問か。ミリアは氷漬けになっているガルーダの兵士達総勢10人をまとめて塔の屋上まで引きずっていき、凍ったまま尖塔の屋上から吊り下げた。兵士達の怯えた声が聞こえるが、ミリアは気にしない事にした。
ミリアとアニハニータは
「さて、あなた達に聞きたい事があるわ。素直に喋ってくれれば手荒な事はしない。ただし、関係ない事を勝手に口にするようなら……」
「貴様、こんな事をしてタダで済むとでも」
「
ミリアは指先から熱線を放った。その兵士を屋上から吊り下げていた氷の蔦に。その兵士はそのまま真っ逆様に落下して行った。そして下の方でガッシャーンと何かが砕けた音がした。
「ちょうど1人くらい見せしめが必要かと思ったたから助かったわ。
あんた達は翼を含め頭以外全身が凍結してる。その状態で落とされたら……言わなくても分かるわよね?」
ミリアはにっこりと微笑みながらそう告げてやる。
拘束されたガルーダ兵達の喉がごくりとなった。
「さて、それじゃあ質問。ここにサンタライズ卿の娘が捕まっているはずなんだけど、どこにいるか知らない?」
「や、やはりお前らサンタライズ卿の手先か!」
「お、おい」
ジュッ
ガッシャーン
2人目落下。
「同じ事言わせないでくれる?
この際だから、返答はハイかイイエで答えなさい。それ以外の声を発したら容赦なく落とすから。
言っておくけど、別にあんた達が何も喋らなくても一向に構わないからね。どうせまたおかわりが来るだろうし」
その直後、自分達の真後ろ、つまり尖塔屋上の下の階層からガルーダ兵達の悲鳴が聞こえた。もちろんリーレの仕業である。自分達が何も喋らなくても、次に捕まった兵達に聞けば良い。そう言う事なのだろう。
「あ、悪魔め」
「褒め言葉として受け取っておくわ。
じゃあ再度質問。サンタライズ卿の娘、レミナが捕まっている場所を知っている人はハイと答えなさい」
静まり返る中、小さく「ハイ」と言う声が聞こえた。
全員がその方を向く。
それは、左から3人めの兵士だった。
「ふ〜ん、あんたは知ってるの?」
「前に一度、レミナ嬢に食事を届けた事がある。今もそこにいるなら、場所は分かっている」
「なるほど、食事の当番だったわけね。
いいわ、あんたは助けてあげる。案内しなさい」
ミリアがそう言うと
「お、俺達はどうなるんだ?」
下からざわざわとした声が聞こえてくるが、ミリアはにっこりと笑いながら告げる。
「そのままそこにいなさい。その氷の蔦は多分リーレの事だから最低でも今日1日は溶けないから、無駄に動かなければ落下しなくて済むわ。こちらの用事が済んだら引き上げてあげる」
「ほ、本当か?」
「別にこっちはあんた達ガルーダを全滅させるために来たわけじゃないし。私達の目的は親友のレミナを無事に助ける事だから」
それを聞いて、幾分か安堵したように見える兵士達。
が、次の瞬間、その表情も凍りつく事になる。
「あ、そうそう。折角だからさっき捕まえたおかわり分も追加しておくわ」
そんな声が聞こえたと思ったら、さらに10人以上の氷漬けガルーダが屋上から放り投げられて来た。蔦で拘束された新しいガルーダ達が同じように吊り下げられてぶらぶら揺れている。
「な、何でこんな事に……」
そんな事を呟くが、どうにもならないのが現実だった。
「……なあ、ミリアよ」
「何?」
「今の一連の行動も兄さんに教えられたものなのか?」
「う〜ん、確かにパパやママからは『悪人に人権はない』とは教わってるかな。尋問のやり方はどちらかと言うとベルモールさんに色々教わった方ね」
「……」
アニハニータは溜め息1つ。
「いつの間にか甥っ子が悪魔になっていたとは……」
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