第27話 レミナの行方
「ま、まさか……貴方様は、大魔王陛下!」
跪くデクノアとレミアナを前に、意外そうな顔をするアニハニータ。
「ほう。この今の姿を見ても妾本人であると分かるのか?」
「もちろんです。私は陛下の幼少の頃の姿を知る者です。見間違うはずがございません」
「そうか」
「それにしても、一体何があったのですか?
そのお姿といい、メルキャットにいたもう1人の陛下といい」
「うむ、少し長くなるが聞いてくれるか」
そして、アニハニータはミリア達に話した吸血鬼族による謀反の事をデクノアとレミアナにも話して聞かせた。
「……そのような事が。確かにあのメルキャットにいた陛下は何かおかしいとは思っておりました。いきなり他国の侵略を許可するなど、大魔王様らしからぬ言動の数々。やはり偽物であったのですね」
「うむ。おそらく、何者かが作ったホムンクルスに妾から奪った魔力を埋め込んで大魔王を装ってあるのであろう。いくらラーズの奴が権力が欲しいと望んだところでこの国を治めるのはあくまで大魔王だ。妾を廃したところで真に従う者などほとんど居らぬ」
「それで偽物を立てて、それを傀儡にする事で自分の思い通りに権力を振るっている……そう言う事ですか」
「そう言う事だ。妾が再びメルキャットに戻る手助けを頼みたいところなのだが……」
「……申し訳ありません。それはできません」
「で、あろうな」
地面に頭を擦り付けるように謝罪するデクノアとレミアナに、その返答が来るだろうと考えていたアニハニータは目を閉じた。
「原因はお前達の娘、レミナにあるのだろう」
その言葉にデクノア達は顔を上げた。
「レミナを人質に取られ、従わざるを得ない状態に追い込まれている。そう言う事だな」
「知っていたのですか?」
「グローゼンに来ていたお前の配下の兵から聞いた。妾の兄と鉢合わせになったために幾らか負傷はしてあるが、まあ無事ではある。今、別ルートを通ってここに帰還しているところであろう」
「そうですか」
アニハニータの話を聞いて、幾分かホッとしたように見える。自分の配下の兵がやりたくもない戦いで命を落とす事にずっと心を痛めていたのだろう。
「妾はこれよりレミナ嬢を助けに行く。そのための力強い仲間も連れて来たのだ」
アニハニータは目でミリア達を指し示す。デクノアとレミアナの目もそちらに向いた。ミリアはコホンと咳払いをして自己紹介する。
「私はミリア・フォレスティです。レミナさんのクラスメートであり、友達でもあります。だから、レミナさんの危機とあれば、助けない選択肢はありません!」
「ミリア……レミナがよく話していたあの?」
言いながらミリアを見つめるレミアナにミリアは苦笑しながら、
「一体どんな事を話していたのか気になりますが、おそらくそのミリアです」
「そうか……」
デクノアも感慨深い表情でミリアを見た。
「君達には感謝せねばな。
君達も知っていると思うが、あの子の声には大きな魔力が宿っている。元々我々ハーピー族には声に魔力を乗せる事で魔法を発動させる事が可能だ。だが、あの子の言葉に込められる魔力があまりにも大き過ぎた。そのために紡ぐ言葉が全てそのまま魔法となってしまうのだ。
めっきり口数が減り、同時に笑顔まで失っていくあの子にせめて自由に話す事だけはさせてあげたいと思い、魔法技術のないこのサーベルジアで何とか魔力封印の方法を探し出した。
だが、魔力を封じるという事は飛ぶ力を失うと言う事。この槍のような山々が連なるサンタライズ領よりは他の翼のない種族達が多くいるヴァナディール王国の預けた方が良いのではと考えての行動だったのだが、そのためにあの子には本当に辛い思いをさせたと思う」
デクノア卿の独白。
思えば、ハーピーであるにも関わらず、レミナが飛んでいたところを見たことがない事に、カイト達は今更ながら気付いた。ちなみにミリアは会ってすぐにベルモールによってレミナの魔力封印が取り払われたためレミナが飛べなかった事はほとんど知らない。
「だが、最近のあの子は本当に楽しそうに話すようになったよ。落ちこぼれのクラスだと思っていたけど、実はみんな凄い力を持っていたクラスだったとか。
そのキッカケは、やはりミリア君。君がレミナのクラスに来た事だったのだろう。あの子の言葉だ」
『クラスにとんでもない女の子が来た。ミリアって言うんだけど、多分あの人は世の不条理を何もかも吹き飛ばしてくれるんじゃないかって思うの』
「レミナがそんな事を……」
ミリア自身はそんな大袈裟な存在ではないと思っている。自分の両親ならばいざ知らず、自分なんて未だ
だが、どうやらデクノアの考えは違うらしい。
「君が今ここに仲間達や大魔王陛下、さらには
そうして、デクノアとレミアナは深々と頭を下げた。
「どうか、娘を助けてくれ。この通りだ」
その後、屋敷の敵を一掃し、屋敷内の掃除を一通り終わらせた頃には外は完全に夜の帳に覆われていた。幸いにも使用人のハーピーはほぼ全員残っていたおかげで掃除が短時間で終わったとも言える。
「夕食を用意するが出来合いのものになってしまうのだが了承して欲しい。なにぶん、ガルーダ達に食料庫を好き放題に荒らされたせいで食料が少ないのだ」
「構いませんよ」
申し訳なさげに言うデクノアにミリアは笑って答える。
外は槍のような山ばかりでとても動物が住めそうに見えない。少し食料について考えておいた方が良さそうだとミリアは考えた。と、そんな時アニハニータが、
「食料なら妾が出すぞ。ほれ」
などと言い、突然異空間を開いたかと思うと中からドサドサドサと大量の肉を出した。その量にデクノア達も目を丸くする。
それにしても流石は大魔王。異空間に収納する魔法も使えたのかとミリアは感心した。
「それにしても、いつの間にこんなに肉を? て言うかそもそも何の肉なんですか?」
「ワイバーンの肉だが」
「は? ワイバーン?」
「風竜峡谷でお前達が狩りまくっていただろう。あのまま朽ちるのは勿体無いから妾が解体して持って来たのだ」
あー、そう言えば確かに姿が見えなかったな、とミリアは頬を掻いた。どこに行っていたのかと思ったらまさかワイバーンの解体作業を行っていたとは。
「肉質が少し硬いのと雑食ゆえに少し臭みがあるのが難点だがな。それさえどうにかすれば美味い肉になるぞ」
ケラケラ笑うアニハニータ。
それを見てそっとエクリアがミリアに尋ねる。
「ワイバーンって食べれたの?」
「う〜ん、確かにママが高級肉の1つとしてワイバーンの肉を挙げてたと思うんだけど」
何はともあれ、大量の食料が援助されたおかげで夕食はかなり豪勢なものとなった。初めて食べたワイバーンの肉も、セリアラが高級品と言うだけある味だった。そして、ミリアはワイバーンの調理方法を教えてもらわなくてはと決意するのだった。
食事後、改めてレミナ救出のための作戦会議を開く事になった。まず、肝心のレミナの行方なのだが、
「あの子はおそらく、このロスターグの北にあるダンドール城塞にいると推測されます」
「ダンドール城塞か。厄介な所だが、まあレミナ嬢を幽閉するならそこが確実であろうな」
デクノアの言葉にアニハニータは頷く。
しかし、サーベルジアの地理など全く分からないミリア達は頭に?を浮かべるだけだった。
「ダンドール城塞って何? 知ってるの?」
「そりゃな。妾は大魔王だぞ? このサーベルジアにある城には大体行った事がある。
ダンドール城塞はこの辺りの山脈で最も高いダンドール山に作られた城塞で、このロスターグを治める王が住む場所だ」
「天然の要塞って奴ですね」
グローゼンからついて来ていたシャリアがそう呟いた。
「あの城塞、何が厄介と言うと、まず城塞に繋がる道がない。翼を持つ比翼族のみが自由に出入りできるのが特徴だ。妾とてあの城塞に行く時は比翼族に迎えを寄越させなければ入れないほどだ」
「つまり行くには
道がないとなればまた
「幸い、奴らにはドラゴン達が我らの味方についている事を知らんだろう。ここは
「なるほど。確かに注意を引くならあのドラゴンの巨体も役に立ちますね」
アニハニータの作戦に一同頷く。おそらく、これが一番勝率が高いだろう。
「ただし、前にも言ったがダンドール城塞はここロスターグの王が住む城でもある。当然ロスターグの精鋭が守っていると言っても過言ではない。だから潜入メンバーも戦力重視で選ぶ必要がある。
そしてもう1つ。ここの守りも必要だ」
「ここも?」
「ここにいたガルーダの兵達を軒並み倒してしまったからな。連絡が途絶えた事に気付いたら確認のための兵を送ってくるやもしれん。其奴らへの対策も必要となろう」
確かに、連絡が途絶えれば何かあったのかと確認しに来るだろう事は考えるまでもない事だ。デクノアが裏切った事が知られるとレミナの身が危なくなる。
となるとここに何人かの置いておく必要がある。
「シルカ。ここくらいの標高で呼べる魔蟲ってどれくらいいる?」
「ここなら多分討伐ランクA以上なら問題なく動けると思うけど。今だと
「なるほどね。じゃあ、シルカはここに残って魔蟲達でここの守りをお願いするわ。カイトとレイダー、シャリアもシルカのサポートをお願い」
近接戦闘がメインとなるカイトやレイダーは比翼族を相手にするには相性が悪い。それを理解していたか、特に文句もなく3人は了解した。
「ではダンドール城塞に向かうのは妾とミリア。それにエクリアとリーレの4人で潜入する。それで良いな?」
「うん、それでいいよ」
「では、明日の夜明け前くらいに決行するぞ。各自体を休めておくようにな」
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