第8話 リーレの防衛戦術
『さあ、いよいよやって参りました!
大闘技会
決勝はギルガン領主様が招待した戦士との戦いなので、実質大会自体はこの準決勝こそが決勝戦!
果たして、ここまで勝ち進んできた強者達はどのような戦いを見せてくれるのか!』
清々しいほどの青空の下、領都ギルガンの闘技場に実況者の声が響き渡る。それにも負けない歓声と熱気が闘技場の内部で沸き立っていた。
『今大会の準決勝進出チームは何と!
どちらのチームもまだうら若い乙女達!
だが、その見た目に反して実力は一級品!
さあ、それでは入場してもらいましょう!
虎の門より入場するのは、海を隔てた向こうの大陸にある国。ヴァナディール王国より現れた赤と青の魔法使い!
エクリア・フレイヤード、リーレンティア・アクアリウスチームだ!』
大きな虎の彫り物がされた門からエクリアとリーレがその姿を現す。エクリアの腰には柄にルビーが嵌め込まれた剣が下げられ、リーレの手には彼女の身長ほどもある杖が握られていた。共にこれが彼女達の戦闘フォームである。
『対する竜の門より入場するのはやはり2人の少女。片や赤獅子族の少女。その血筋は何とこのグローゼン王国の王バジルノード様の次女!
第2王女、シャリア・ウィル・グローゼン!
その相方は、予選から本戦まで誰一人寄せ付けず圧倒的な力で一蹴してきた恐るべき少女!
ミリア・フォレスティ!』
歓声の中歩を進めるミリアとシャリア。
ふと、気になる事をシャリアに尋ねてみた。
「そう言えば、レイダーって自分の姓をガルバンテスって名乗ってたんだけど。あれって偽名なの?」
「お兄ちゃん、そっちの姓を名乗っていたんですか。ガルバンテスは私達の元々の族名です。今のグローゼンの名はあくまでグローゼンの王族となって初めて名乗れる姓名なんです」
「なるほどね」
「この国は基本的に強者が王となる国です。なので歴代の王に血の繋がりはありません。唯一の繋がりはこのグローゼンの姓のみなんです」
「王家の名ね。それじゃあ、それに恥じない戦いを見せましょうか」
ミリアとシャリアが舞台の真ん中に到着。目の前にはミリアの親友の2人が、すでに戦闘態勢万全で待ち構えていた。
「ふふふ、ミリア。悪いけど今日は勝たせてもらうわよ」
「ミリアちゃん、お覚悟!」
何だか妙にやる気満々な2人。エクリアは兎も角リーレまで。何かしらの必勝の策でもあるのか。ミリアは警戒心を高める。
「それじゃあシャリア。打ち合わせ通りに頼むわね」
「は、はい」
ミリアの言葉に緊張感溢れる声で返答するシャリア。この試合の勝利の鍵はシャリアにある。ミリアからそう聞いていたシャリアはプレッシャーで押し潰されそうだった。
だが、ここを乗り越えられなければ、自分の願いを叶える事はできない。
シャリアは顔を左右に振り、そしてパチンと両頬を叩いた。
「よし! やります!」
その姿を見て、ミリアは満足げに頷く。彼女なら作戦通りにやってくれるだろう。
そして――
『試合開始!』
開始を告げる銅羅の音が鳴り響いた。
ミリアとしては、エクリア達の戦術はおそらく積極性の高いエクリアが前に出てくるだろうと考えていた。そしてそれをリーレが多彩な氷の魔法で援護してくる、そう考えていた。
ところが。
「えっ?」
思わずミリアは目を見開いた。
前線にはリーレが立ち、エクリアは後ろに下がったのである。
「ミリア。船上であたしに尋ねていたわよね。あたしにもリーレみたいな
これから見せてあげるわ。あたしの
「エクリアの
確かに船上でミリアはエクリアに尋ねていた。だが、それを自分に使われるなど冗談じゃない。何としても食い止めなければ。
ミリアがエクリアに向かって駆け出そうとしたその瞬間、突然目の前に巨大な氷の壁が出現した。急ストップするミリア。
「エクリアちゃんの元には行かせませんよ、ミリアちゃん!
リーレの氷の魔法。それが何と氷の壁から発動し、壁から生み出された無数の氷塊がミリアに襲いかかる。ミリアは慌てて身を投げ出すように転がってその魔法を回避する。
「ビックリした。まさか氷の壁から魔法が飛んでくるなんて」
「私としては今のを避けられるミリアちゃんの反射神経が信じられません」
跳ね起きたミリアの前、リーレは再び氷の魔法を発動させる。
「簡単にはエクリアちゃんの元には行かせませんよ。
さらに続けて氷の壁がせり上がり、壁同士が接合。やがてミリアの目の前にまるで城壁を思わせる巨大な壁が完成した。
「と、とんでもないものを作ってきたわね」
見上げるほど巨大な氷の城壁。だが、それでも氷の壁には違いない。ならばそれを砕くには相性有利の地属性魔法。
「
生み出したのはミリアの頭ほどの大きさの岩石でできた弾丸。これ1発でもあの壁に穴を開ける事はできるはず。そうミリアは考えていた。
ところが――
「嘘っ!?」
岩石の炸裂弾が城壁に直撃し、破裂した岩石が礫となって周囲を抉る。それで城壁の一部を崩壊させる予定だった。ところが、そんなミリアの魔法を持ってしても、その成果は城壁の表面を少し抉っただけ。破壊するには程遠い結果だった。
と、次の瞬間、城壁の表面に無数の青い魔法陣が浮かび上がる。
「は? 紋章術?」
考えがまとまらないミリアに反撃とばかりに魔法陣から大量の氷の弾丸がばら撒かれた。
「す、
ミリアは咄嗟に目の前に岩の壁を生み出す。無数の氷の弾丸が壁に直撃し表面をガリガリと削り取る。治る頃には岩の壁がボロボロの惨状を晒していた。
(ど、どう言う事?
水・氷の属性に有利なはずの地属性魔法がここまで圧倒されるなんて……)
「ふふふ、ミリアちゃん。言ったでしょう。簡単には行かせないって」
城壁の奥からリーレの声が聞こえてきた。
「これならどうだ!
床に手をつき、再び地属性魔法を発動。舞台から巨大な石柱が突き上がり、それが空中で拳の形に変形する。
「行けっ! 岩だけど岩石の鉄拳!」
ミリアが振り下ろす拳と同じように、その巨大な岩石の拳が城壁へと打ち込まれた。流石にこれには耐えられないだろうとそう考えたが、そんな予想を嘲笑うかのように城壁はやはり少し抉れただけ。それどころか逆に岩石の拳の方が砕け散っていた。
「そ、そんなバカな!」
驚いている暇はないとばかりに再び青い魔法陣が城壁に無数に出現し、大量の氷の弾丸を撒き散らす。今回は事前に見ていただけにミリアも素早くその場を離れ回避していた。
(あの紋章術はこちらの攻撃に反応してあらかじめセットしていた氷の魔法をばら撒くみたいね。見たところ狙いは術者がいた場所みたいだから、攻撃してすぐに離れれば当たらないみたいだけど。
それにしてもリーレがここまで紋章術にも精通していたなんて、驚きだわ)
とりあえず攻撃しなければ何も起こらないようなので、ミリアはそっと城壁に近づいて様子を伺う事にした。
(一番の謎は、やっぱり相性有利なはずの地属性魔法が打ち負けた事よね。その謎を解かないとリーレの守りを抜く事はできないわ)
ミリアはそっと城壁に手を触れる。ひんやりとした感触が手を伝って身体にまで届いた。
(カイトみたいに属性を見る事はできないけど、触れたものから感じ取るくらいなら何とかできるかも)
目を閉じて手に意識を集中させる。氷の城壁とは言え、これは魔法によって生み出されたもの。必ず魔力が感じられるはず。
手から感じられる魔力を己の身体に取り込み、その詳細を解析する。
その色は一面の青。これは水の属性。
そして気付く。その中に薄らと緑色の魔力が混ざっている事に。
「ハッ!」
嫌な気配を感じ上を見上げると大量の氷の槍が浮かんでいた。直ぐにその場から後ろに飛び退くミリア。その目の前に合計10本の氷の槍が突き刺さった。
「ちょ、リーレ! 殺す気!?」
「大丈夫です。ミリアちゃんなら避けると思ってましたから」
全然大丈夫じゃない。避けなかったらどうするつもりだったのだろうか。
だがとにかく、リーレの城壁の謎は解けた。ここからが反撃の時。
ミリアはビシッと指を突き付けて声を上げた。
「リーレ! その氷の魔法の謎は解けたわよ!
今度はこっちの番だからね!」
ミリアは自らの魔力を練り上げる。
「
ゴゴゴゴゴとミリアの側に石柱の拳が出現する。そこまでならこれまでと同じ。だがここからが違う。ミリアがその岩の拳に触れた瞬間、突然岩の拳が真っ赤に染まった。
「リーレ、その氷の魔法。見た目で分からないように絶妙な量の風の魔力を混ぜ込んでたわね。だから私の地属性魔法が打ち負けてたんだ」
「あらら、もうバレちゃいましたか」
「だからこっちも火属性の魔力を混ぜ込んでやったわ。これならその城壁も打ち砕けるでしょ」
ミリアが拳を振りかぶると、同じようにその真紅に染まった岩石の拳も大きく振りかぶった。
「貫けぇぇぇぇ!」
赤い拳が大気を引き裂くように一直線に氷の城壁に打ち込まれた。轟音と同時に岩の拳は粉々になって散る。だが、今回は前とは違う。打ち込まれた城壁の方も同じように粉々となって崩れ落ち大穴が穿たれていた。
「よし、砕けた!」
「流石はミリアちゃんですね。ですがこちらもまだ終わりませんよ!」
リーレは間髪入れずに
「速度も強度も申し分なし。流石はリーレね。
ならばここからは速さと持続力勝負よ!
さあ、ついて来れるかしら?」
ミリアは魔力を解放。その瞬間にミリアの周りから一斉に岩石の拳が地面から突き上がる。
その数はなんと20。
それを見て一瞬にして血の気が引くリーレ。
「うりゃあぁぁぁぁっ!」
その20本の拳が嵐のように城壁に襲いかかる。それはまさに岩の拳による
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