第7話 地方大会・本戦初戦
予選が全て終わり、本戦に出場する4チームが決定した。本戦はその4チームで勝ち抜き戦を行い、その勝者が最後にシード権を持った招待選手(今回はチーム)と戦う事になっている。
その初戦。対戦相手も予選を勝ち抜いてきた猛者ばかり。
……のはずだったのだが。
「う〜ん、エクリアとリーレだとエクリアの方が好戦的だからまず私がエクリアを抑えて……ダメね。今のシャリアではリーレの守りを抜けるとは思えないし、かと言ってエクリアを任せたら押し切られそうだし」
ミリアは考え込みながら首をヒョイと傾ける。そこを氷の塊がものすごい勢いで通り過ぎて行った。
「せめて私1人であの2人を相手にできればいいけど、何とか互角に持ち込むのが精一杯ね」
天を仰ぎつつ2歩ほど後ろに下がると目の前に穿った氷柱が突き上げた。
「やっぱり、エクリアとリーレの取りうる戦略の裏をかかないと。真っ向勝負じゃ勝ち目がないわ」
ガシガシと頭を掻くミリアに対面から――
「もっと真面目に戦わんか!」
顔を怒りで火のように真っ赤にした魔道士の男が、正反対の氷の魔術を連射してきた。
「うるさい! 今考え事をしてるのよ! 邪魔するな!
超が付くほどの理不尽なミリアの言葉。そんな事を言いながら、ドンと足で地面を踏み込んだ。その瞬間ミリアの目の前にミリアの身長程の高さの岩石の壁が出現した。相性の悪い氷の属性魔法ではその壁を撃ち抜く事ができず粉々になって散る。
ならば、と次の術の準備に入った魔道士。
気がつくと目の前に、そして視界いっぱいに無数の拳大の岩石が。
「がががががっ!」
当然避ける事もできずにまともに浴びた魔道士はボロボロになって場外まで吹っ飛んでいった。
一体何が起こったのか。ヨロヨロと顔を起こした魔道士の男は目を剥いて驚愕した。
そこにあったのは自分の氷の魔法を遮断した岩石の壁。そのど真ん中に大穴を穿ち、拳を振り抜いたミリアの姿があった。自分を襲った岩石の嵐はミリアが岩盤を
それを呆然の見つめる相方の戦士。
「が、岩盤を拳で砕くだと!?
ま、魔道士の細腕でそんなバカな」
「そう思いますよね」
真後ろから聞こえた声にギョッとする相手の戦士。油断したつもりはなかったが、余りの光景に意識がそちらに奪われたか。背後を取られたのに全く気づかなかった。そして気づけば身体が宙に浮いていた。背中に鈍い痛み。殴られたか蹴られたか。分からないがこうなってはもはや彼になす術はなかった。そのまま体は流れのまま場外に転落した。
『勝負あり! 勝者、シャリア、ミリアチーム!』
拍手と歓声が降りかかる舞台の上で、ミリアはふとシャリアに問いかける。
「ねえ、シャリア。貴方、気配を消して移動する事って得意なの?」
「えっと、得意と言うか、護衛の人達の目を盗んで屋敷を抜け出す時に自然に身に付いたんです」
なるほど、とミリアは思う。
シャリアの護衛をしていたガリアとベス。あの2人はミリアの目から見てもかなりの腕利きだった。それ以外の屋敷を守る護衛も彼ら2人に劣らない実力者揃いだろう。そんな護衛達の目を欺いて屋敷を抜け出すのは、余程うまく気配を消せないと無理だ。
そして、それを実現できているシャリアは気配の消し方に関しては一級品かもしれない。ミリアはそう考えていた。
(……これは使えるかもしれないわね)
このシャリアの思いがけない能力を知り、ミリアは対エクリア・リーレチームへの勝機が見えた気がした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一方のエクリアとリーレの方はと言うと。
『勝者、エクリア、リーレンティアチーム!』
特に何の問題もなく準決勝へと歩を進めていた。こちらも対戦相手はそれなりに実力者ではあったものの、邪竜ベルゼドを含め数々の死闘を潜り抜けてきた2人には問題になる相手ではなかった。
控室に戻ってきた2人は準決勝を前に作戦会議を行う事にする。
「さて、次がいよいよミリアのチームとの試合だけど。リーレはどう戦えばいいと思う?」
「そうですね。シャリアさんの実力も気になりますけど、何よりミリアちゃんをどうにかしないと」
付き合いの長い2人はミリアの規格外っぷりをよく知っている。
封印が必要なほど馬鹿馬鹿しいレベルの魔力に、見た目詐欺なくらいのパワー。しかも魔力の特性は全属性特化な上に、見様見真似で
「考えれば考えるほど隙がないわね。下手な小細工なんか力技で打ち破られそうだわ」
う〜んと考え込む2人。
「……あれを使うしかないかな」
「あれって……エクリアちゃんが組み立てたあの魔法ですか?」
「あれなら多分ミリアの障壁を打ち砕く事ができると思う。あたしの切り札の
エクリアは少し困ったように眉をひそめた。
「威力は申し分ないけど、発動から完成までに10分近くかかるのが欠点なのよね」
「10分ですか……」
リーレは目を閉じて戦闘をシミュレートする。そして――
「……分かりました、10分ですね。その時間、私がミリアちゃんを抑えます。守りに徹すれば、多分なんとかなると思うので」
「よろしくお願いするわ。ミリアには悪いけど、こちらも勝ちに行くわよ」
リーレは頷く。ただ、まだ不確定要素が残っている事を彼女は理解していた。
(問題はシャリアさんがどうくるか、ですね。とは言え、ミリアちゃんを相手にしてそちらにも気を配るのは難しそうですし。なんとか頑張らないと)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「明日の準決勝。何とも凄まじい方々が勝ち残りましたね」
闘技場の最上段。VIPルームから舞台を見下ろしながら、その剣士の装いをした男はそう言葉を発した。
「何を悠長な事を言っておるのだ。勝てる見込みはあるのだろうな?」
如何にもお金をかけている豪華な服を着込んだ猿人の男がそう問いかける。剣士の男は少し考え、
「容易い話ではありませんね。特にあのミリアと言う少女は明らかに
「何を弱気な。貴様らはそれでもランクAのハンターパーティ『銀光の風』か!」
「私達は今ある情報から見て取れる話をしているだけですわ。もう一方の魔道士2人のチームも明らかに戦い慣れしています。あんなに若いのに、一体どんな経験を積んで来たのか」
感心したように微笑む女魔道士。特徴的なつば広の魔女帽子の縁を指先でクイッと押し上げた。
「そんな事では困るのだ! 今大会で我々が王位を狙うためにわざわざ高い金を払って貴様達を雇ったのだぞ!」
猿人の貴族が怒鳴るが――
「おい、お前。勘違いするなよ」
冷たく刺すような目線に思わず猿人の貴族は黙り込む。
「確かに俺達はお前に雇われたがな。別に俺達はお前に肩入れするわけじゃない。ぶっちゃけ、お前が王位を狙う事がどうこうなんぞ俺達にはこれっぽっちも関係ねぇんだよ」
フンッと鼻を鳴らして踵を返す。
「そんな心配しなくても勝ってきてやるよ。俺達だってクラスAハンターとしての誇りはあるんだしな」
そう言い残し、ハンター『銀光の風』の2人は去って行った。
「おのれ、ハンター風情が。このワシを誰だと思っているか!」
テーブル上のワイングラスを怒りのままに叩き付ける。甲高い音を立てて砕け散ったワイングラス。
その音に反応するように執事が駆け込んでくる。
「どうかされましたか?」
「む、ちょうど良いところに来たな。ガーダスを呼んで来い! 今すぐだ!」
「は、はい、ただいま!」
怒気に押されるように執事は部屋を飛び出して行った。残った猿人の貴族はニヤリと顔を歪ませる。
「ならばこちらはこちらで手を打たせてもらうとしよう。確実に勝ってもらわねば困るのだからな」
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