第6話 地方大会・予選


「ギルガン領の領都。流石に予選会が開かれるだけあって賑わってるわねぇ」


 猿型の獣人が治る領地ギルガン。その同名の領都ギルガンにミリア達はやって来ていた。

 レイダーの妹シャリアから体術の手解き、と言うよりも猛特訓を行ってからはや1週間。明日が大闘技会地方大会の予選が行われる日である。


「み、ミリアさんは何でそんなに余裕なんですか?」


 振り返ると、シャリアが緊張でガチガチになっていた。そのさまはまるで糸で操られる人形のようである。


「別に余裕って訳じゃないけど。

 でも、シャリアには予選なんか勝ち抜けるだけの力量を身に付けさせたはずだけど」


 この1週間、ミリアは体力作りから自分の持つ武術の体捌きまであらゆる事を叩き込んだ。

 その特訓で分かった事。

 元々魔力の少ない獣人にしてはシャリアはかなり保有魔力が高いと言う事だった。固有能力ユニークスキルこそ持ってはいないものの、彼女の魔力はレイダーの倍以上。これを使わない手はないと、ミリアは彼女に魔光オーラの扱いを教える事にした。

 魔光オーラの有る無しでは戦闘能力はまさに雲泥の差。ミリアが思うには、おそらく魔光オーラさえ使えれば予選突破は問題ないだろうと思っていた。

 それに、今回の大会は何でも2人1組のチーム戦らしい。なので、シャリアの頼みでチームメイトとしてミリアも出場する事になっていた。


「予選は10時からか。シャリア、私達は何組目だっけ?」

「えっと……」


 シャリアは自らの参加証に目を落とす。


「B組だから、第2試合です」

「そっか。なら控室待機かな」


 ミリアとシャリアは2人で窓から外に目を向ける。この闘技場の選手控室は客席のある2階の下、闘技台のある1階との間に造られており、そこの窓から現在行われている予選B組第1試合の様子が見れるようになっている。

 そこには8組合計16人の屈強な戦士達が入り乱れて戦っていた。


「予選は8組によるサバイバル戦。最後まで残った1組が本戦に進出って訳か」

「大丈夫でしょうか……」


 何やら不安げなシャリアにミリアは能天気に答える。


「ま、大丈夫じゃないかな。見たところ、予選に出る連中は総じてレイダーより実力が下っぽいし」


 デニスから特訓を受けている以上、ここにいる連中よりも下などあり得ないとミリアは断じた。




 そして、ミリア達の番がやってきた。やはり相手は見た目屈強な8組の選手達。魔道士も数人混ざっているが、やはり獣人が多いせいか戦士系が大部分を占めている。

 それを見て、「あわわわわ」と声を振るわせているシャリアに対しミリアは言った。


「さてと、サバイバル戦となると、パターンは大体決まってくるわ。見た目弱そうなチームから順に蹴落としていくって感じね。

 で、この中で一番見た目弱そうなのは……」


 試合開始の合図と共に、全ての敵チームが一斉に襲いかかる。言うまでもなくミリア達2人に向かって。


「ま、やっぱり私達よね。小柄な女の子2人だし」

「あわわわわ、ど、どうしましょう!」

「ひとまず私に捕まってて。振り落とされないように気をつけて」


 シャリアがしっかりと背中にしがみついたのを確認して、ミリアはその手に魔力を集中させる。そして、シャリア諸共闘技場の上空へと飛び上がった。


「さて、何人残るかしら。

 まとめて吹っ飛べ! 旋風の炸裂弾ウインドバースト!」


 シャリアを背負いながら襲い来る戦士達を軽々と飛び越えたミリアは、舞台の真ん中目掛けて風の魔法を叩き付けた。その瞬間、着弾点で強烈な突風が辺りに解き放たれ、まともに喰らった選手達を悉く舞台外まで吹き飛ばす。それは相手の魔道士達も例外ではない。魔法障壁を張ったとしても突風の圧力だけは抑えようがなく、まるで強風に帆を煽られて転覆する船のように、魔法障壁ごと場外まで吹き飛ばされる。

 舞台上に残ったのは中心から離れていたお陰で被害が最小限に済んだ戦士と障壁を斜めに張って風の影響を受け流した魔道士の4人だけ。魔法一撃で実に10人もの選手が脱落した。


「残りは戦士と魔道士合わせて4人か。よし、残りは接近戦で片付けるわよ。シャリア、2人任せるわ。対魔道士戦の特訓を思い出すのよ」

「は、はい!」


 足に力を込めて、一気に地を蹴るシャリア。その瞬発力は凄まじく、その魔道士が気付いた時にはすでにその姿は懐にあった。ミリアの風の魔法に耐えたとは言え、その位置は舞台の端。拳は必要ない。シャリアはその勢いを利用して魔道士に肩から体当たり。それでまず1人が場外まで吹っ飛ぶ。

 それを見たもう1人がシャリアの足を止めるべく火炎弾を連射してきた。しかしそれを高速でジグザグに動く事で接近しながらも射線を散らす。そして一足飛びに魔道士に跳び掛かると拳を振りかざす。魔道士はすかさず対物理障壁を展開。しかし、その次の瞬間、その魔道士は目を見張る事になる。その拳から銀色の光、すなわち魔光オーラが溢れ出し拳を包み込んだ。


魔光の一撃オーラストライク!」


 振り抜いた拳は対物理障壁を容易く打ち砕き、魔道士の胴に打ち込まれた。そのまま魔道士は派手に吹き飛ばされ、場外で3回ほど跳ねて倒れ伏す。すでにその意識は無かった。


 ふうっ、と一息つきミリアの方に目を向けるシャリア。そこには上出来上出来と拍手しているミリアの姿があった。すでにミリアの担当していた戦士達は場外に転がっていた。



    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 何の問題もなく予選を突破したミリアとシャリアの2人はエクリア達がいる観客席へと向かう。

 観客席は種族問わず大勢の人達で賑わっていた。やはり、こう言うお祭り騒ぎはどこの国でも大人気らしい。ミリアがその客席を見回すと、特徴的な緑色の髪が見えた。


「あ、いたいた。シルカの緑色の髪も結構目立つものね」


 そう言いながらシルカの元までやってきたところでふと気付く。普段から見慣れている赤のポニーテールと青のセミロングの髪が見当たらない。


「予選突破おめでとう。まあ、全く心配してなかったけどね」

「うん、ありがとう。それは良いとして、エクリアとリーレは?」


 問いかけられたシルカはやや困ったような顔をして目線を舞台の方に向ける。ミリアとシャリアもその方向に目を向けると――



 どぐぁあああああぁぁぉぁぁん!



 轟音が闘技場に鳴り響き、爆風と爆炎が周囲に撒き散らされる。その衝撃に闘技場の舞台と客席の間に張り巡らされた魔法障壁がミシミシと音を立てる。

 粉塵が吹き込む風に流されると、そこには拳を突き上げたエクリアの姿があった。


「ふっ、勝利ね!」

「……エクリアちゃんもミリアちゃんに似てきましたよね」


 水の魔力障壁で身を守ったままリーレはそう呟くのだった。




「ちょっと! 何で2人とも参加してるのよ!

 聞いてないわよ!」


 試合後に戻ってきた2人に詰め寄るミリアにリーレとエクリアはさも当然のように答える。


「だって、大闘技会なんて面白そうなイベント、ミリアちゃん達だけ参加するなんてずるいじゃないですか」

「そうよ。それにあたし達だってたまには自分がどこまでできるのか試す機会があっても良いじゃない?」


 正論にうぐぐと唸るしかできないミリア。


「あの。私はエクリアさんとリーレさんの実力を知らないんですが、やっぱり凄いんですか?」


 シャリアの問いに「そうね」とため息混じりに答える。


「私とエクリアとリーレって結構付き合いが長いからね。自ずと戦い方もやや似てるところがあるのよ。だから当然、私同様に2人も魔法と武術の両方を使ってくるわ。まあ、扱う武器は違うけど」

「あたしはどちらかと言えば剣術が得意ね」

「私は杖術じょうじゅつです」

「あ、確かにエクリアの腰には剣が差してある。それにリーレの杖ってなんか凄く長いと思ってたけど、杖術を使うからだったのね」


 今気づいたわ、とシルカは能天気に笑った。

 とは言え、ミリアにとってみれば想定外の強敵が出現したと言うことになる。しかも、先程の予選ではまさにエクリアの魔法一撃で片付いた感じだった。つまりはエクリアの実力も相応に上がっているのは間違いない。船上で見たリーレの実力は言うまでもない。


(……流石に2人の相手はシャリアには荷が重すぎるかな)


 そうは考えたが、いくらミリアでもエクリアとリーレの2人相手に単独で勝てるなんて自惚れてはいない。さらに言うと、予選ではエクリアが1人で終わらせてしまったために分からなかったが、この2人のコンビネーションはかなり高い。付き合いの長さがそのまま連携力に繋がっているためだ。果たして即席のミリアとシャリアのコンビがどこまで通じるか。


(……当たるとすれば決勝なのがまだ救いか。それまでに対策を考えておかないと)



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