第49話 決戦、キメラスライム(後編)
黄金色の
それを踏まえて今目の前でキメラスライムと戦っている面々。
双剣使いの女性剣士サラジーン。ハルバートを振り回す巨漢の戦士カラディア。光り輝く
そして、その3人に比べさらにレベルが違ったのが一撃でキメラスライムの巨体を真っ二つに断ち切る、カイオロス王ブリアス。
ちなみに、
ブリアス王が魔光の斬撃を幾度となく打ち込み、彼を襲うキメラスライムの触手を配下の3人とライエルが打ち払う。そんな光景が続くが、キメラスライムには一向に衰えは見えない。
それも当然のこと。
ただ、それでも全く進展がないわけでもない。
魔力の流れを視るミリアには分かる。ブリアス王の斬撃は確実にキメラスライムの核に近づいている。繰り出される
ザンッ
ブリアス王の放つ
だが、今回は違った。
断ち切られた直後、もう片方から太い触手のようなものが素早く伸び、断ち切られたもう片方に連結。その瞬間、魔力の流れを追っていたミリアは視た。連結部分から放射線状に魔力線が伸びたのを。
しかもそれだけではない。
その断ち切られたキメラスライムの体は見る見る内に形を変え、とある形状を形取る。トカゲのように長く伸び、大きく裂けた口。その口から覗く多数の牙。そして頭上から伸びる2
そう、それは紛う事なき
「拙い!」
ブリアス王は大剣を振り抜いた直後で体勢が整っていない。アレでは避けられない。
そう思ったミリアは片手に風の魔力を紡ぎ、風の塊を生み出した。
「
「おわっ!」
ミリアの風の魔法はブリアス王を大きく前方に吹っ飛ばした。
その直後、キメラスライムのドラゴンヘッドから放たれた火焔のブレスが先ほどまでブリアス王がいた場所を打ち抜き、その背後にあった大きなプロスト要塞の城壁に直撃した。轟音が鳴り響き、爆風が粉塵を巻き上げて視界を塞ぐ。その粉塵が消えた後にあったのは、パラパラと瓦礫のカケラが降り積もる城壁に開いた大穴だった。
「すまぬな、助かった。アレを喰らえば流石の余でも一溜まりも無かった」
ブリアス王は跳ね起きると、再び大剣を構える。
その眼前で、キメラスライムはさらなる変化を遂げようとしていた。四方に散らばった自らの体の粘液を取り込むと、さらに4つの巨大な竜の頭を作り出した。最初の1つと合わせ、合計5つの首を持つスライム。その姿はさながら粘液で作られた
キメラスライムの5つのドラゴンヘッドが同時にその口を開けた。
「いかん、皆散開しろ!」
そのブリアス王の声に反応できたのは何人いただろうか。
5つのドラゴンヘッドが放ったまるで閃光のようなドラゴンブレスが辺りを薙ぎ払い、避け損なった兵士達がまるで木の葉のように舞い散った。
「おのれ、よくも我が国の兵達を!」
「許さん!」
サラジーンとカラディアがそれぞれの武器を手に肉薄する。吹きつけてくるブレスを左右に避けながらサラジーンはキメラスライムの目の前まで踏み込んだ。そこを狙い撃とうとする頭が1つ。
「させるか!」
すかさずカラディアがその首目掛けてハルバートを振り下ろす。バッサリとその首は刎ね飛ばされた。
が、想定外だったのはこの後。刎ね飛ばされた首に宿っていたブレスの魔力は突然膨れ上がり、その場で大爆発。サラジーンとカラディアはその爆発に巻き込まれて数メートル先にまで吹き飛ばされた。
「サラジーン、カラディア! 大丈夫か!?」
「うぐ……な、何とか」
「ちくしょう。腕が……」
サラジーンはカラディアが盾となったためか、まだ軽傷で済んだようだが、至近距離で爆発を喰らったカラディアはそうもいかなかった。全身に爆風を浴びて火傷を負っており、中でも左腕は酷く焼け爛れていて、戦闘など不可能である事は誰の目から見ても明らかだった。
「誰か、カラディアを要塞まで連れて行き治療を受けさせよ!」
「へ、陛下……」
「貴様を喪う訳にはいかぬ。後は我らに任せ、今は治療に専念せよ」
「……申し訳ありません」
カラディアは衛生兵によって要塞へと運ばれて行った。
それを見届けて再びキメラスライムに目を移す。
キメラスライムの方も先ほど爆発したドラゴンヘッドと全く同じものが本体から生えてきていた。やはり、見た目もブレスの威力もドラゴン並みだが、それでもやはり奴はスライムなのだと、戦場にいる全員が改めて思い知った。
近接戦闘を行える人がまた1人減り、状況はさらに厳しくなった。こうなったら、
「ブリアス陛下。まだ未熟ですが、私も
そうミリアはブリアス王に告げた。この状況なのだ、小さくても戦力は喉から手が出るほど欲しいはず。
しかし、ブリアス王は首を横に振った。
「残念だが、それは許可できん。あのキメラスライムが相手だ。生半可な
「……やはり、学生の身では力になりませんか?」
悔し気に呻くように口にするミリアに対し、
「そうは言うてはおらん。ミリアと言ったか。其方は魔道士であろう? 余がむしろ助力を願うのはミリアと言う魔道士の力だ」
「魔法、ですか?」
「そうだ。確かに奴はマナスライムの特性を持っているが故、魔法は奴に餌を与える行為にすぎん。だが、其方の魔法であれば話は別だ。
其方が先ほど奴の体を貫いた火属性魔法。
今となっては、アレでしかキメラスライムを倒す事はできぬだろう」
「!」
――
ミリアの瞳に闘志の炎が灯った。それを見て、ブリアス王はニッと笑う。
「余が奴の核周辺を逃げ道が無くなる大きさまで削る。後は其方に任せるぞ!」
そう言うと、ブリアス王はマントを翻してキメラスライムに向かった。
「ノーダム、余の邪魔をする頭を悉く潰せ! これが最後の攻撃だ!」
そして最後にチラッとミリアの方に目を向け、
「頼んだぞ!」
ミリアは杖を握り締める。
(……私とした事が、何を弱気になっていたのかしらね。私が自分の魔法の力を信じなくて誰が信じると言うのよ。
私の名は、ミリア・フォレスティ。
後ろで佇む親友2人に振り返り、
「エクリア、リーレ! この際出し惜しみは無しにするわ。ベルゼドと戦った時以来だけど……アレ、やるわよ!」
襲い来る触手やドラゴンのブレスを掻い潜り、もしくはノーダムが放つ
極力余計な
触手が身体を擦り、装束が千切れ飛ぶ。吹き出し流れ出る鮮血が身体を濡らす。頭に着けていたサークレットが砕けて散った。被害は多かったが、それでもブリアス王はキメラスライムの前まで到達した。
「見るが良い! これが余の、俺の全力全霊!
燃え上がれ、
ブリアス王は大剣を両手で握り、腰を落とす。そしてこの時のために溜め込んだ
「
――瞬間六連撃。繰り出された6つの黄金色の閃光は三角形を2つ組み合わせた六芒星を形どり、一瞬にしてキメラスライムはその形に分断された。そして最後の一撃である7撃目は中央を撃ち抜く
ドンッ!
黄金色の光がキメラスライムの中央部を打ち抜く。だが、やはりキメラスライムの体をバラバラに断ち切ったとは言え、避けるスペースはまだあった。核は素早く粘液内を移動して突きを回避して見せていた。
勝った!
キメラスライムもそう思ったのだろう。
とどめを刺すべく中央の体をドラゴンの頭に変化させようとした、その時だった。
力を使い果たし前のめりに倒れるブリアス王の大きな身体のその後ろから銀色の髪が溢れ出した。その赤い瞳はまるで炎のよう。
「みんなが身体を張って作ってくれたチャンス。逃すわけにはいかないわ!」
ミリアの手にある宝石の杖は火を司るルビーが眩い光を放っている。その強さは先ほどキメラスライムの体を撃ち抜いた時の数十倍にも及ぶ。
そう、ミリア達が使ったのは、邪竜ベルゼドとの戦いで使った魔法技術『魔力収束』。ミリアの魔力にエクリアとリーレの魔力を上乗せするブーストの魔法だ。今回はミリアの魔力は失われていない。故にその威力はあの時のベルゼド戦以上。
それに気づいたキメラスライムは慌てて周囲の断ち切られた粘液のパーツに触手を伸ばす。接続できたのは5つ。これで5本の脱出口ができた。
すぐに核が脱出しようと動くが、そうは問屋が卸さない。
「逃げるんじゃねぇよ!」
飛び出したライエルが
これで4本。残り1本は――
「だあぁぁぁぁ!」
気合一撃の
これでもうキメラスライムの核はどこにも逃げられない。キメラスライムの核が大きく目を見開いた、気がした。ミリアは一思いに全力で魔法を発動した。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます