第14話 盗賊らしきものの襲撃
ミリアがライエル達
その3日間、ミリア達はシルカを交えて結婚破談計画について色々と話し合ったが、あまり良いアイディアは出てこなかった。
とりあえず決まった事と言えば、ヴァナディール王国の国内で問題は起こせないため一先ず護衛と称してカイオロス王国内までついて行くと言う事。
だが、それすらも邪魔が入った。
「シルカ様の護衛は我々がする。貴様らのような何処の馬の骨だか知れん奴らには任せられん」
おそらくはサージリア家の私兵の一部隊なのだろう。
確かにミリア達の着ている服は冒険者装束だし、第3軍の兵士達なんかどう見たってマトモな連中には見えない。それはミリアにもよく分かる。
だが、ミリアからしてみれば、この一団も大概であった。
多少は鍛えられてはいるようだが、纏った雰囲気は明らかに後ろに控える第3軍の兵士以下。一応
さらに言えば、傷1つない甲冑と言うのも頂けない。実戦経験が皆無と言っているようなものだ。本来ならば、防具である甲冑には大小多少なりとも傷があって然るべきもののはず。
『戦士にとって背中の傷は恥だが鎧の傷は名誉である』
ミリアの父、デニスの言である。
盗賊や山賊退治でも魔獣討伐でも良い。そう言った戦場をくぐり抜けていれば鎧には傷がついて当たり前なのだ。
なのにそれがないと言う事は、自分達は戦場を経験した事もない
こんな奴らに任せて本当に大丈夫かと不安になったが、ここで無用のトラブルを起こす訳にもいかない。シルカとも相談した結果、少しだけ距離を開けてついて行く事になった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
領都サルベリンを出発してから2日。
意外にも魔獣の襲撃もなく、シルカの一行はヴァナディール王国とカイオロス王国の国境を越えた。リュート達
そしてカイオロス王国のバルディッシュ侯爵領に入ってから2日。国境で私兵1小隊と交代したバルディッシュ侯爵家の護衛1小隊と共に、シルカの乗せた馬車はバルディッシュ侯爵領の領都バウンズへの街道を進んでいた。ミリア達は相変わらずやや距離を開けてその後に続いている。
「なんか平和だな」
レイダーがボヤく。
「せめて魔獣か盗賊でも出てくりゃ良いのによ」
「余計なトラブルなんか無い方が良いわよ」
「でもよう、退屈なんだよなぁ。たまにで良いから魔獣でも出てぐわ〜っと大暴れしてえよなぁ」
「相変わらず、レイダーは戦闘狂」
レイダー、ヴィルナ、レミナがそんな軽口を叩いている。そんな中、リーレがミリアの外套をクイッと引っ張った。
「どうしたのリーレ?」
「ちょっと気になる事があって。
ミリアちゃん、今魔力感知使ってます?」
「うん、一応」
護衛である以上、常にミリアは警戒を怠らない。当然今もミリアは魔力感知で周囲の状況を探っていた。
街道の左右には森が広がっており、襲撃するには絶好の立地だろう。
しかし、その周囲から感じられる魔力は獣か最低クラスの弱い魔獣のような小さなものばかり。
「そんなに危険な魔力は感じないけど」
ミリアはそう言うが、リーレは細い眉をひそめたまま。
「どうしたの?」
そこへエクリアもやってきた。
「リーレが気になる事があるって」
「気になる事?」
エクリアも首を傾げる。
「見たところ、小動物みたいな魔力しか感じられないけど」
周囲を見渡しながらそう話すエクリア。それを聞いて、リーレも口を開いた。
「ミリアちゃん、エクリアちゃん。おかしいと思いませんか?
確かに小動物みたいな魔力しか感じられませんが、小動物にしては動きがなさ過ぎます。それに動物がいるにしては静か過ぎる」
「動物じゃないって事?」
「そう言えば、お父様から聞いた事があるわ。上位の魔道士ほど魔力を隠すのが上手くなるって」
そう、エクリアの言う通り、魔道士として上位の腕前になればなるほど魔力を隠すのが上手くなる。魔力感知で引っかからないようにする技の1つと言う訳だ。
「じゃあ、今周りにいるのって」
ミリアがそう言った直後だった。
ミシミシと言う音と共にシルカの馬車の前に何本もの木が倒れて来た。馬車の行く手を遮るように。
「て、敵襲!」
護衛部隊の隊長が剣を引き抜き指示を出す。馬車を守るように展開する騎士達。少し遅れてサージリアの私兵も戦闘態勢をとる。この差はやはり練度の違いか。
次の瞬間、周囲の森の中から大量の矢が飛んでくる。盾と甲冑で矢の雨から身を守るものの、運悪く射抜かれて倒れるもの数名。やはり被害はサージリアの私兵が多い。
そして、矢が止んだと思いホッと一息。つく暇もなく雄叫びを上げながら盗賊のような格好の一団が襲い掛かってきた。隊長を先頭に迎え撃つ護衛騎士。
ちなみにミリア達は少し離れたところにいるため戦闘には加わっていない。お手並み拝見と言ったところだ。
盗賊団と護衛部隊が戦闘に入ってからもうすぐ30分ほどになる。人数は盗賊団の方がやや多いくらい。それが2部隊に分かれて波状攻撃を仕掛けてくる。その入れ替わりのタイミングを埋めるように矢の斉射。
「なんだか盗賊らしくないわね」
エクリアが呟く。ミリアもそれには同意だった。やけに統率の取れた動きをしている。前に潰した山賊団とは大違いだ。どう考えても盗賊の動きじゃない。
やがて盗賊団はざっと森へと駆け出した。悲鳴を上げているが、あの統率の取れた動きを見てからだと誘いにしか見えない。
だと言うのに護衛兵達は半分を残して盗賊団を追って行ってしまった。サージリアから来た私兵隊も同様に。馬車の護衛はどうするつもりなのか。
そんな不安を現実のものにするかのように、周囲の森の中にあったいくつもの小さな魔力が一斉に大きく膨れ上がる。その魔力量は明らかに正規の魔道士、それもランクは間違いなく
ゴウッ
強力な風の砲弾が森の木々の間から飛び出し、護衛部隊の騎士達を吹き飛ばして馬車に直撃する。その衝撃で馬車は横倒しになり、上に乗っていた御者も投げ出された。
「な、何なのよ!」
たまらず馬車からシルカが飛び出してくる。
それと同じくらいのタイミングでわらわらと森から現れる盗賊達。その数20。対する護衛騎士は転倒しているものも含めるとわずかに5人。勝負にならない。
「みんな、私達も行くよ!」
流石に見ていられなくなったミリアは先陣を切って飛び出す。
「おっしゃあ! 待ってたぜ!」
鼻息荒く興奮した状態のレイダーが後に続く。さらにその後をカイトと兄のライエル、そして第3軍の兵士達が駆け出した。
エクリアとリーレは護衛部隊が追って行った先を警戒している。あの盗賊達の動きだと、おそらくあの先は……
そうミリアが思ったほぼ同時に森の奥が赤く輝き爆音が鳴り響く。待ち伏せにあったのだろう。あれでは護衛部隊はほぼ全滅かもしれない。
「ちっ、結構切れ者がいそうだな」
舌打ちするものの楽しそうなライエル。その配下の第3軍のコワモテ達も「ヒャッハー!」と実に楽しそうだ。
それにしても、とミリアは目を見張る。
見た目は山賊なのにやはり中身は
敵の盗賊は増えた護衛に驚きながらも波状攻撃を仕掛けてくる。しかしそれを真っ向から受け止め、跳ね返す。部隊交代のタイミングで繰り出される矢の斉射はミリアとライエル、さらには護衛対象のシルカ本人まで風の魔法を使って吹き散らす。
「な、何者なのだ、お前達は!?
折角の作戦が台無しではないか」
1人が戸惑うような声を上げる。それを聞いてミリアの目がキラリと光った。
「なるほど、あんたが指揮官ね!」
「くっ!」
「大人しくお縄につきなさい!
「なんの!」
盗賊の指揮官はミリアの放った火炎弾を障壁で防ぐ。さらに追撃で放ったリーレの氷の魔法とナルミヤの風の精霊シルフによる攻撃も悉く防ぎ切る。やはり只者ではない。
「それならこれはどう?」
ミリアは自らの魔力を幕のように大きく広げた。そしてそれに乗せるのは火水風の3属性。
「喰らいなさい!
「な、なんだと!?」
火の赤、水の青、風の緑がオーロラのように輝きながら押し寄せる。互いの属性が反発しながらスパークし、やがて途轍もないエネルギーを前方に解放した。
轟音と共に発せられた熱風と氷結の嵐が瞬時に盗賊達を飲み込み背後の森の木々諸共吹き飛ばす。跡には焼けて凍った赤茶けた地表が残るのみである。
「……やり過ぎじゃない?」
「一応手加減はした」
確かに、指揮官を含め全員生きてはいるようだ。辛うじてではあるが。
その後、その盗賊達を地属性魔法で作った一時的な檻に放り込むと、反対方向から取って返してきた盗賊軍団を迎え撃った。見事なまでに統率の取れた動きをしているが、やはり地力の差か、
やがて、その盗賊団の中から1人の男が白旗を持って歩み出てきた。
「降参だ。少し話をしたい。
戦闘をやめてくれないか」
やはりその態度や雰囲気は盗賊とは違う。
ミリア達はその話し合いを受ける事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます