第15話 盗賊団の正体
とりあえず、投降した盗賊達も全部まとめて檻の中に放り込んでおき、白旗を持って来たリーダー格の男だけミリア達の前に相対する。
なお、護衛部隊は死にはしないものの、未だ意識が戻っていないらしい。
仕方がないのでミリア達だけで話を聞く事にした。
「いきなり襲って申し訳なかった。
改めて自己紹介させてもらう。
カイオロス王国赤鷲騎士団第7軍に所属している。第3部隊隊長のカストロ・ベイルベル少尉だ」
「は?」
全員、鳩が豆をぶつけられたような顔をする。
「て事は、カイオロス王国の正規軍?」
「如何にも」
「はぁ〜、道理で盗賊らしくないと思った」
盗賊と思ったらまさかの正規軍。まさか
目をまん丸くするミリアの横でライエルが目を細める。
「曲がりなりにもシルカさんは我がヴァナディール王国の貴族の娘。要は国の重要人物だ。それを襲うなど、下手すると戦争だぞ」
「分かっている。我々とてシルカ殿に危害を加えるつもりなどなかった。バルディッシュ侯爵の私兵を排除してからシルカ殿には身分を明かし、事情を説明をして協力してもらうつもりだったのだ」
「風の魔法で馬車を倒しておきながら?」
「馬車を止めるには行動不能にするのが常套手段だ」
確かに、馬車を行動不能にするなら横倒しにするのが一番手っ取り早い。風の魔法とは言え、威力を間違えれば馬車など粉々に粉砕する事も可能な辺り、横倒し程度で済ませるのは明らかに故意に手加減したものだろう。カストロの言う事に嘘はないようだ。
「それにしても栄えあるカイオロス王国の赤鷲騎士団が盗賊の真似事とは、嘆かわしい」
ライエルが自分の事を棚上げしてそんな事言ってるので、ミリアは思わず突っ込んでしまった。
「ライエルさんも人の事言えないでしょうが」
「ライエル?」
カストロ少尉の目がライエルを凝視する。
「まさか、ヴァナディール王国の
確か第3軍の軍団長の名がライエルと言ったが」
あっさり見破られてしまった。やはり有名人はこういう時は損だ。ミリアは首を振る。
「そんな事はどうでもいいわ」
「いや、正規軍が他国に侵入するのは……」
「今のライエルさんは
ミリアの言葉を証明するようにライエルはAランクの冒険者カードをこれ見よがしに突きつけている。カストロは呆れたように苦笑する。
「私達はシルカの依頼を受けてこうして護衛をしてるんだから。元の身分なんかどーでもいいわ!
それよりも、カストロ少尉。シルカに事情を話すって言ってたけど、折角だから私達にも聞かせてくれるかしら。丁度よく侯爵の兵は失神してるし」
「し、しかし……」
「なら誠意を見せるため、私達の方の事情から話してあげる。シルカ、良いわよね?」
ミリアの問いにシルカは頷いた。
「依頼主の許可が出たから話すけど、まずは最初に確認。今、シルカとバルディッシュ侯爵の次男バールザックとの結婚話が進んでいるのを知ってるかしら」
「ああ、それはもちろんだ」
我が国の話だからなとカストロは胸を張る。
「私達はシルカの依頼でその結婚話をぶち壊す為に行動してるのよ」
「なに!? 君達もか!?」
思わず身を乗り出して言うカストロ。だが、ミリアはそのカストロの言葉の一部が気になった。
「……
怪訝な顔をするミリア達にカストロはハッとして再び椅子に腰を下ろす。そしてコホンと咳払いを1つ。
「これは我がカイオロス王国内部の話のため、他言無用に願いたい」
「分かったわ。約束する。
何だったら誓約書でも書く?」
「俺達は出ていた方が良さそうだな。流石に内部情報を
「すまない、恩にきる」
頭を下げるカストロにライエルは手を振りながらその場から去った。残っているのはミリアとエクリア、リーレに当事者シルカとカイトの5人だけ。他のアザークラスのメンバーもライエル達に着いて行った。
改めてカストロは語り出した。
「まず、私達の目的だが、端的に言うと君達の目的と同じだ。シルカ殿とバールザックとの結婚話を破談に追い込みたい。
その理由なのだが、実はバールザックの家であるバルディッシュ侯爵家に謀反の疑いがあるのだ」
「謀反? バルディッシュ侯爵、反乱を起こす気でいるって事?」
「まだ確証はない。ただ、最近バルディッシュ侯爵領では良くない噂が多いのだ」
カストロの言うにはこうだ。
カイオロス王国を含め、貴族制を用いる王制国家では、基本的に各領地の運営は領地を治める貴族達の手腕に任せている。そして、領主は領民に全収入の二割を税金として納めさせ、領地の運営の資金としている。これに関してはヴァナディール王国も同じである。
そして、貴族はその税金で得た収入の二割を国に納めていた。これが王国内の税金の仕組みである。
しかし、このバルディッシュ侯爵領では最近増税令が公布され、いつもよりも一割ほど税金が増えた。しかもその情報源は商人からであり、王国政府には一切の報告無しだ。もちろん、王はバルディッシュ侯爵を呼び出し問い質したが、あくまで魔獣の討伐や有事の際の備えだとのらりくらりと追求を躱す始末。
確かに、バルディッシュ侯爵領には不自然なほど魔獣が多いと聞く。そのため傭兵や冒険者達も格好の稼ぎ場所という事で大勢集まっているらしい。
だが、見方を変えれば冒険者や傭兵を集めるのは戦力増強のためとも捉える事ができる。
そこまで聞いて、ふとミリアは気になる問いを投げかけた。
「確かに、疑わしい点は多いかもしれないけど、そもそもあなた達がバルディッシュ侯爵に叛意有りと判断する理由は何なの?」
「む、そ、それは……」
カストロが思わず言い淀んだ。
言うべきか言うまいか、心の天秤が揺れ動いていたようだが、やはりここは話すべきとカストロは判断したようだ。
「実は、我がカイオロス王国には2つの派閥があるのだ」
「派閥?」
「穏健派と強硬派。まあよくある派閥話だが、問題はどこに対しての対応かだ」
ミリア達を見て言葉を詰まらせたカストロ。その行動がその先の言葉を決定づけていた。
「まさか、ヴァナディール王国に対して」
ミリアの言葉に頷く。
「現在、ヴァナディール王国と我がカイオロス王国は友好的な関係を築いている。その関係を維持すべきと考えるのが穏健派。それに対して武力でヴァナディール王国を屈服させようと考えるのが強硬派だ。
そして、バルディッシュ侯爵は強硬派の最有力者。今の王国政府の対応を弱腰だと非難し、強国の意地を取り戻すべしと声を上げる連中の筆頭なのだ」
それを聞いてミリアは天を仰ぐ。
「なるほどね。そりゃあ警戒するわ。
そう言う連中って目的のためなら手段を選ばないのが多いし。国を強くするためと大義名分をかざして無茶苦茶やらかすのが大方のパターンね」
カストロは頷き、
「そんな時に降って湧いたようなシルカ嬢との結婚話だ。無関係だと思う方がおかしいだろう」
確かに。前にも語ったが、カイオロス王国の侯爵バルディッシュ家にシルカが嫁ぐのはかなり不自然だ。
家の勢力を引き上げるためならば同じカイオロス王国の侯爵家の令嬢を娶った方が自然だ。しかもシルカは第2夫人の娘であり、さらに辺境伯家からも離れて魔法学園に通っていたくらいでサージリア家とはほぼ無縁と言っても良い。
で、あるにも関わらず、バルディッシュ家はシルカを名指しで選んだ。何かしらの裏の事情があるとしか思えない。
(まさかと思うけど……)
ミリアは横目でシルカを見る。
見た目は結構美人な方だとミリアも思う。会って一目惚れしたと言うならまだ分かる。だが、シルカは全く面識がないと言う。
ならば、バルディッシュ侯爵家はシルカのどこに目をつけたのか。ミリアが真っ先に思い浮かぶのはあの魔法技能。
そう、『魔蟲奏者』である。
虫系の魔獣である魔蟲は数も種類も豊富で、場所問わずあらゆる所に生息する。そんな魔蟲をまさに奏者の如く自在に操る事ができるシルカの『魔蟲奏者』は、軍部であれば喉から手が出るほど欲しい逸材だろう。なにせ、シルカ1人いるだけで魔蟲の一軍を手にできるようなものなのだから。
だが、その推測には1つだけ穴がある。
そもそも、シルカに『魔蟲奏者』の力がある事が分かったのはほんの一月前に過ぎない。しかも、その能力の内容は学園で秘匿とされ、それを知るのは同じアザークラスの生徒と学園関係者数人程度。精々、学園長のアルメニィとミリアの両親デニスとセリアラ。そして生徒会長のシグノアと副会長のルグリアくらいだ。ヴァナディール王国の王族などの上層部ならばともかく、他国であるカイオロス王国の人間が知る由もないはずである。
(まだまだ情報が足りないか。ともかく、今分かっているのはカイオロス王国の穏健派から見ても、このシルカとの結婚話にはキナ臭いものがあるって事ね。なら、私達の取るべき行動は……)
ミリアは決心し、シルカに声をかける。
シルカはミリアにとっては親友と呼べる1人だが、今は自分達の雇い主でもある。これからの行動を決める前にやはり確認は必要だろう。
「シルカ。これからの行動をなんだけど、私達はカイオロス王国の穏健派の行動と協調して動きたいと思うんだけど」
そんなミリアに対し、雇い主シルカは迷う事なく首を縦に振った。
「私はそれで構わないわ。目的は利害は一致してるみたいだしね。それに、カイオロス王国の方にも協力者がいた方がこっちとしても助かるしね」
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