第12話 ライエル・ランバルト
ライエル・ランバルト。26歳。
ヴァナディール魔法学園の高等部を首席で卒業し、そのまま
髪の色は茶色がかった赤。黒に近い髪のカイトとは違い、ライエルは火属性と地属性の才能があった。その容姿には確かにカイトの面影があるが、体格はカイトよりも一回り大きい。そこはやはり常日頃騎士団の訓練で自分の身を鍛えているからだろう。
ちなみにカイトもミリアの父デニスに鍛えられてからかなり筋肉質な身体つきになってきた。もうしばらくすればライエルに近いくらいにはなるかもしれないとミリアは考えている。
「初めまして。ヴァナディール魔法学園中等部2学年のミリア・フォレスティです」
「同じく、ヴィルナ・アライナーズです」
ミリア達は自己紹介をする。そこへ付け加えるようにシグノアが言った。
「2人ともアザークラスに所属してる。君の弟のクラスメイトだよ」
「カイトの? そうか。カイトは元気でやってるかい?」
「ご心配ありません。カイトは元気でやってますよ」
「最近は地獄の特訓でボロボロになってる事が多いですけどね」
「ボロボロにか。これは次に会うのが楽しみだ」
本当に楽しげに笑うライエルにミリア達は若干引き気味だった。
「お、弟さんがボロボロにされてるのに喜んでるんですか?」
ヴィルナの言葉に「ん?」とライエルは目を向ける。その間にはやはり楽しげな雰囲気が消えていない。
「別にいじめにあってるわけじゃないんだろう?
特訓でボロボロになってるんなら、ボロボロになった分だけ本人の血肉になる。願っても無い事じゃないか」
「ま、まあそうですけど」
「それにしても、アザークラスに新しい先生でも来たのかな。少なくともメリージア先生だとそこまでの過酷な特訓は無理そうだが」
確かに、メリージアは魔道法院から派遣されて来た教師の1人だが、彼女の性格からしてぼろ雑巾になる程の特訓などできるはずもない。それはミリアも同意するところだった。
「今、
「ベルモール先生?
もしかして、ベルモール・モルフェルグス?」
「そうですけど、ライエルさんは面識が?」
「昔ね。まだ俺が見習い騎士だった時に一度だけ。
魔獣討伐の任務中に運悪く
凄まじいものだね、あの人の落雷の魔法は」
感慨深げに話すライエルをミリアはにやけそうになるのを必死に堪えていた。やはり自分の師匠を褒められるのは嬉しいものだ。
「あと、今カイトを鍛えてるのはデニスさんです」
「デニス?」
「デニス・フォレスティ。ミリアさんのお父さんなんですが……あの、ライエルさん?」
デニス・フォレスティの名を聞いた途端に何故か固まるライエル。
「デニスって、あの
父がいつの間にか伝説になっていた。ミリアは思わず天を仰ぐ。
(てか、『
胸中複雑なミリアとは裏腹に、ライエルはうんうんと頷いている。
「そうか。あの
「ライエルさんはアザークラスがどんなクラスなのか分かってたんですか?」
ふと尋ねるヴィルナにライエルは首を振る。
「いや、詳しい事は分からなかった。魔力を全く感じないカイトや初級魔法すらまともに扱えない魔道士達が入れられてたクラスだからなぁ。
ただ、あのアルメニィ学園長が何の考えもなく差別の元となるようなクラスを作るはずがないと思ってたんだ」
なるほど、ミリアは理解した。このライエルと言う男、騎士団の一軍を任されるだけあって只者ではない。頭の回転も早いし洞察力もある。カイトが憧れる気持ちも分かるとミリアは感じた。
「そろそろ話を戻していいかな」
と、そこでシグノアが横槍を入れる。
「あ、すみません殿下。特命の話をお願いします」
シグノアはゴホンと咳払いを一つ。
「ライエル・ランバルト大佐。貴方に特命を与えます。第3軍から1小隊10名前後の人員を持ってサージリア領へ派遣しなさい」
「サージリア領ですか?
まさか、リュートの奴が何かしでかしましたか?」
「リュートさんが1人で問題を起こすわけがないじゃないですか」
「そうです。学生時代だって大抵問題を起こしていたのはライエルさんです」
ふと気付くとライエルの後ろに2人の女性士官がいた。
片方はリーレよりも若干緑がかった青髪の女性。軽くカールのかかった青髪を背中まで伸ばしている。
もう1人は猫っ毛の茶髪ショートヘア。活発なイメージの女性だった。どちらも共通なのは容姿がかなり良いと言う事だ。
「あの、お2人は?」
戸惑いの目線を向けるミリアに女性士官2人は居住まいを正して敬礼する。
「ライエル軍団長の副官を務めております、サラジア・エルモスです」
「同じく、副官のマリエッタ・モルナークです」
話を聞く限り、どうやら2人共ライエルの同期生で、すぐに暴走するライエルのブレーキ役として付けられたが、気がつくと第3軍の副官扱いされていたらしい。ただ、見たところ2人共不満は無さそうである。
「リュート大佐に関しては特に何もないよ。先日サージリア領で悪行の限りを尽くしていた山賊団が潰されたくらいだ」
シグノアの言葉にミリアとヴィルナは揃って目を逸らす。2人共当事者どころか、山賊団を蹂躙した中心人物だ。
そんな2人の様子を面白げに見て、シグノアは話を続ける。
「今回の任務はこの度開催されるらしいサージリア辺境伯家と隣国カイオロスの貴族バルディッシュ家の婚姻話を妨害してほしい」
「妨害ですか?
でも良いんですか? 私達も曲がりなりにもヴァナディール王国の正規兵ですが」
「うん、そうだね。ヴァナディール王国の関係者が妨害したら確実に国家間の問題になるだろうね」
「つまり、正規兵だと気付かれないようにしろと言う事ですか?」
「そう言う事」
言われてライエルと副官の3人は後ろに目を向ける。そこには傭兵か山賊のような男達の姿が。
「まあ、適役ではありそうですが」
「どう見ても正規兵には見えませんしね」
「むしろ傭兵や冒険者の方がしっくり来ます」
結局、人員の選別をこの後に行い、明日の朝に王都ヴァナディの駅に連れて行くと言う事でその日の話は終わった。
そして翌日のヴァナディ駅発ウィンディア行きの列車内部。そこには明らかに周りとは異質な一団が出来上がっていた。
ボサボサの髪に筋骨隆々なマッチョな身体。そんなむさくるいしい男達が10人、車両の一部を占拠してガハハと笑い声を上げている。当然、周りの客は距離を置いて見て見ぬフリを決め込んでいる。
「凄いわね。
「まあ、第3軍はこう言う裏工作もできるような人材を集めたからな」
ふっふっふっ、と含み笑いのライエル。
今回の任務に抜擢されたのは副官マリエッタ麾下の1小隊10名。どう見ても正規兵に見えない連中を集めたらしい。さらに言うと、どうやら軍団長のライエルも参加するつもりのようだ。
そんなライエルをミリアは横目で見つめ、
「良いんですか? よりにもよって軍団長がこんな任務に出て?」
「本来ならばマリエッタ達に指揮を任せるところだが、今回は内容が内容だからな。俺が
ドヤ顔でそんな事を言うライエルだが、マリエッタが突っ込む。
「何が
腰に手を当ててやや冷めた目線のマリエッタ。口調がやたら崩れているが、おそらくこっちが彼女の素なのだろう。ライエルも特に気にする事なく、
「ははは、バレたか。婚姻話の妨害なんて面白そうなイベント、逃したら一生後悔しそうだ」
などと言って笑っている。そんなライエルにマリエッタは「ダメだ、この軍団長。早く何とかしないと」とボヤいていた。
「マリエッタさんはライエルさんとは長い付き合いなんですか?」
ヴィルナの質問にマリエッタは苦笑い。
「まあね。付き合いで言えばもう1人の副官のサラジアもほとんど同じくらいかな。魔法学院の生徒だった時からの付き合いよ。
あの頃はライエルはとにかく成績優秀でね。武術でも魔法でも学年でトップクラスだったのよ。文武両道ってああ言うのを言うんだって思ったわ」
マリエッタは懐かしげにライエルを見ながら言う。
「そんな人だから当然のごとく女性に人気が高くてね。実は私もサラジアもライエルに気に入られようとして彼に近づいたの。サラジアとは当時は最大のライバルでね。何とかライエルの右と左の座を私達で奪い取ったのよ」
「なら学園生活も楽しかったでしょうね。私達なんかミリアが来るまでは本当に最底辺な扱いでしたから。学園生活が楽しいと思えた事なんか全くなかったです。今は楽しいですけど」
そんなヴィルナにマリエッタは肩をすくめ、
「それがね、そこからが本当に大変だったのよ。
ライエルの表部分しか見てなかったって事もあって、彼がとんでもないトラブルメーカーだって事をそこで知ったの。
今みたいに面白そうって思った事には何でも首を突っ込まざるを得ない感じで。学園の先生からもほとんど私達2人がライエルのブレーキ役みたいに思われてたのよね」
「それはそれは」
マリエッタの苦労が何となく理解できたのか、ヴィルナの表情がやや引きつっている。
「騎士団に入ってからはまだマシになったんだけど、1年前に突然前の第3軍軍団長が引退しちゃって。その後釜にシグノア殿下から直々にライエルに軍団長就任を要請されたのよ。その際の指令が『どんな任務もこなせる最強の軍を作れ』だったのよね。
そこからがまた大変。
突然ライエルが姿を消したかと思ったら名のある冒険者や傭兵を片っ端から集めてきて、それだけじゃ飽き足らず、勢力のある山賊団を襲撃して軍に組み込んじゃったのよ。
当然、周りの騎士団からクレームが殺到。その対応に私とサラジアが駆け回るハメになっちゃって。
まあ、性格上難のある奴らは訓練で叩き直して今では見た目はアレだけどちゃんとした軍にはなったんだけどね」
確かにとミリアは思い出す。
冒険者や傭兵は騎士団とは違ってありとあらゆる条件での戦いが強いられる。それを考えると、今のような表沙汰にできないような任務でも彼らならば遂行できるかもしれない。そう考えると、ライエルの見識は決して間違ったものではないはずだ。
こうして、ミリア達と
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