第7話 ミリア=悪魔?
「さてと、こいつらどうしようかね」
ミリアがニヤリと笑いながら山賊達を見回す。
襲撃した山賊の数約30人に対し、生き残りは5人。王国法では山賊は漏れなく縛り首なので今死ぬか後で死ぬかでしかない。そんな訳なので、ミリア達も基本的には容赦なく対応する。最初はやはり人間相手で命を奪うのは抵抗があったが、今ではそこまでショックを受けてはいない。
ミリアにとって、命には優先順位がある。自分と家族、そして親友にクラスメイトなど親しくしていた人達。そこまでが優先されるものだった。自分の仲間と見ず知らずの他人ならば、ミリアは迷わず仲間を取る。ましてや相手が自分達を襲ってきた山賊ならば尚の事。生かしておいて仲間達が危険にさらされるならば迷わず息の根を止めるだろう。
今回の5人もたまたまミリア以外が生け捕りにしただけ。ヴィルナの重力魔法で足を砕かれてたまたまショック死しなかった奴が4人と、適度に手加減したエクリアの火炎弾で吹っ飛ばされた報告係らしい男が1人。それだけだった。
「大丈夫でしたか、ポルカさん」
「は、はい」
青い顔をして頷くポルカ。
「やっぱり山賊に襲われるのは慣れませんよね」
「い、いえ、それもそうなんですが。
あの、ミリアさんは一切容赦しませんでしたね」
「そりゃそうでしょう。何か理由があって山賊に墜ちてしまったのであればともかく、あいつらにはそんな気配がありませんでしたからね」
鼻息荒くミリアは吐き捨てた。
「あの私達を見るイヤラシイ目。絶対にこれまでも女性を攫っては襲ってたに決まってます。
何と言う女の敵!
百害あって一利なし!
そんな奴、生かしておく価値などありません!
即時殲滅!
こんにちは、死ね! で十分です!」
「は、はあ、左様ですか。分かりました」
ポルカもこれ以上突っ込むのは藪蛇だと察したか、話をそこで打ち切った。
「で、どうするの? この連中は」
「4人はヴィルナさんに足腰立たなくされてますけどね」
「物理的にね」
ヴィルナの重力魔法で潰されたのだ。粉砕骨折は確実で、下手すると癒しの魔法でも治らないかもしれない。とても尋問出来るような状態ではないので、エクリアが火炎弾で吹っ飛ばした男に尋問する事にする。
とりあえず5人を背中合わせに座らせる。5人とも失神しているため、特に問題なく作業を終える。
「よし。リーレ、そこの火傷してる奴だけ起こして」
「はーい」
リーレは指先に拳大の水球を生み出し、それを男の顔に投げつけた。水球はパシャッと弾け、同時に男が跳ねるように目を覚ます。
「うおっ、な、何だ!?
何が起こった!?」
「さて、お目覚めのところ悪いけど、あんたに聞きたい事がある」
「あっ、テメェ! 俺にこんな事をしてどうなるか」
「ヴィルナ、とりあえず2倍で」
ズンッ
男の体を重圧が襲う。
「がっ、て、テメェ、一体、何を」
「あんたに好きに喋る権利は無いわよ。質問に答えればいいの。あんた達、この辺で噂になってる山賊団よね?」
「ケッ、そんな事よりこのロープを解きやがれ!
今ならまだ命だけは」
「立場がまだ分かってないようね。ヴィルナ、2.5倍」
「はいはい」
ヴィルナが重力魔法の倍率を上げる。さらに大きな重圧が男の体を地面に押さえつけてきた。もう全身の骨がミシミシなっている。
「ぐ、が、が」
「この調子だと3倍で骨が砕けそうね。そろそろ吐いた方が身のためよ」
「だ、誰が」
「ったく強情よね。後ろの連中みたいになりたいの?」
「な、なに?」
男は何とか頭と眼を動かして後ろを覗く。そこには白目を向いて蹲る男の仲間達がいた。
「て、テメェ、こいつらに何をした!?」
「4倍で足の骨が粉々。その痛みで発狂しちゃった」
テヘッと舌を出すミリア。
横でエクリアが「うわぁ」と引いていたがミリアは無視した。
「だらだらと聞いていても時間の無駄だし。
ヴィルナ、4倍で」
「良いの? 確実に骨が粉々だけど」
「構わないわ。ただし、30秒に0.1倍ずつ増やしていって。
ふふふ。徐々に骨が砕けていく痛みに耐えられるかしらね」
「悪魔かアイツは」
レイダーが引いていた。
ミリアのドS発言に他の人達もドン引きだが、ただ1人だけやる気満々の同類もいる。そう、当事者のヴィルナである。
「ふっふっふ、面白いわ。さあて、口を割るのが先か骨が砕けるのが先か。じゃあ、早速重圧を上げるわね」
「な、何しやがーー」
ズシっと重圧が上がる。重力が0.1上がると人の体重は10%増える。見た目細身の男の体重が仮に70キロだと仮定した場合、身体にかかる重さが7キロ増えるという事だ。
30秒で7キロ。1分で14キロ。現時点ですでに重力は2.5倍なのだから、このまま倍率が上がると2分30秒で重力3倍に達する計算になる。
重力を加算して3分。すでに重力倍率は3倍を超え、男の全身がミシミシと悲鳴を上げていた。
「どう? まだ喋る気にならない?」
「だ、誰が……」
「強情ね。もう良いわ」
ミリアは男の額に人差し指を突き付け、魔力を弾丸のように打ち出した。魔力弾は男の頭を撃ち抜き、男はビクンッと体を震わせて倒れ伏す。
「トドメ刺したの?」
重力魔法を解除してミリアに尋ねるヴィルナ。ミリアは首を振る。
「ううん、魔力に物理的な力を持たせてないから、脳髄に衝撃を与える程度に抑えてやった。
さてと、次はこいつから情報を引き出すだけなんだけど」
そう言ってミリアは心底嫌そうな顔をする。
「こういう連中の記憶って覗きたくないのよねぇ」
「記憶を覗く?」
「記憶解析の魔法。昔ね、訳あって覚えたの」
それはフレイシアの街でエクリアが行方不明になった時。ミリアはエクリアの行方を探るために落ちていたエクリアのブローチの記憶を読み取った事がある。記憶解析自体それなりに高度な魔法ではあるが、非生物の記憶解析はとんでもない高等技術。ミリアも非生物の記憶解析が成功したのはその時だけだった。
意を決してミリアは山賊の男の記憶解析を試みる。男の頭に手を置いて、魔力を通し記憶を読み込む。
(女の子の泣き顔なんか出たらこいつの頭を握り潰すかもしれないわ。とりあえず今から記憶を遡った方が良さそうね)
そう考えたミリアは、一先ず近くにある記憶のカケラに手を触れる。
まず最初に目に飛び込んできたのは大きな火球だった。そして手足を縛る氷のツタ。エクリアとリーレ得意の連携である。
そこからはここに来るまでの道中が逆再生される。林を抜け、やがてゴツゴツとした岩肌が見えてきて、そして小さな崩れかけた古城に至る。
ここが山賊団の根城だと判断した。
(さて、根城の場所は分かったけど……)
ミリアは精神の中で腕を組んで考え込む。もしかしたら連れ去られた女性達なんかがいるかもしれないが、正直これ以上の記憶は見たくない。それに、何人いるかなどこの男の記憶だけでは分からない可能性が高い。とは言え、
「やらないよりはやった方がいいわよね。
はぁ、憂鬱だけど」
意を決し、ミリアは記憶解析を続行する事にした。
その様子を少し離れて見ているエクリアとリーレ。
2分後。
風も無いのにミリアの外套と髪が煽られ出す。
何かあったな、とエクリアは思った。
5分後。
ミリアの周囲の石や欠片が浮かび上がる。
タダじゃ済まないかも、とリーレは思った。
7分後。
ミリアの全身から白銀色のオーラが立ち昇り始める。
これはヤバイかも、とエクリアは焦り始めた。
10分後。
白銀のオーラが吹き荒れ、さらにミリアの周囲の空気にバチバチとプラズマが駆け巡る。
流石に限界だと、エクリアとリーレはミリアの元へと向かった。
「そこまでよ、ミリア!」
「それ以上は大変な事になっちゃいます!」
慌ててミリアの手を男から引き離した。ハッとしたようにミリアは周囲を見回して呟く。
「あれ、私は」
「危ないところでした。もう少しで魔力封印のペンダントが弾け飛ぶところでした」
ホッとリーレは胸をなで下ろす。
そんな2人に、自体がよく理解できていないナルミヤ達が声を掛けてくる。
「あの、何が起こったんですか?」
「ミリアちゃん、限界まで気が昂ぶると魔力が暴走するんです。その時は魔力封印も全部弾き飛ばしてしまうので、最悪の事態にならなくて良かったですよ」
あの時はたまたま魔力霧散のチョーカーがあったから助かりました〜、とリーレはケラケラ笑ってるが、ナルミヤ達は全く笑えなかった。
「魔力封印が弾け飛ぶって」
「つまりミリアさんの魔力が全解放で暴れまわるって事で」
「ハハハ、この辺一帯は消し飛びそうね」
乾いた笑いを浮かべるナルミヤ達。
そんな時、レミナがピクッと耳を立てると顔を上げ、北の方に目を向けた。
「どうした?」
「……誰か来る。馬の蹄の音が、たくさん」
全員の目がそちらに向けられる。
その先、岩の陰になって先が見えないが、ミリア達の耳にも馬蹄の音が聞こえてきた。数は一個小隊ほど。馬車の車輪のような音も聞こえる。
「山賊の増援って事はないわよね」
「山賊なら方向が逆よ」
エクリアの不安げな言葉をミリアがキッパリと否定した。ミリアには山賊団のアジトが既に分かっているからである。
その数分後、姿を見せたのは軽甲冑を身に纏った騎馬の一団だった。立てられた旗にはヴァナディール王国の国章が描かれている。つまり、彼らは王国の正規兵という事になる。
その一団を率いていた先頭の騎士がミリア達の目の前まで来ると、騎馬から降りて兜を脱いだ。バサリと散らばる緑色の髪。その壮観な風貌からはどことなくシルカの面影があるとミリアは感じた。
「王国魔道騎士団オリジンナイツ、サージリア地方軍を統率するリュート・アルラーク・サージリア大佐だ。誰かこの状況の説明をお願いしたいのだが」
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