第32話 死闘!月光蝶
私が私でなくなったからどれくらい時間が経っただろうか。
目の前のスクリーンに映し出される光景を、今ではただ見ている事しかできない。
スクリーン上には今現在戦いを繰り広げている相手の姿が見える。
編入生のミリアさん。彼女の高い魔力や実力に憧れたりもした。そして同時に幼馴染のあの人がミリアさんに靡いてしまうのではないかと危惧したりもした。ミリアさんは私に無いものを沢山持っているし、性格も明るくて見た目も美人だ(本人は自覚が無いみたいだが)。彼女に嫉妬する心を持つのは間違いじゃないと思う。
そしてもう1人。
私の大切な幼馴染。
私の最愛の人。
カイト・ランバート。
どうして私は彼とも戦っているんだろう。
どうして彼は私と戦っているんだろう。
あっ、
なのに、カイトはまた立ち上がる。
その瞳にはまだ強い光が宿っている。
カイトはどうしてそこまでして戦うの?
カイトは何のためにそこまでして戦うの?
私は、カイトのために何をしたら良いのだろう?
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今のシルカの人格は
それをミリアに見抜かれてから、
「アハハハハハ! 素晴らしいわ、この身体は。人間の身体って本当に色んな事ができるのね。
こういうのをイメージって言うのかしら。今までにできない事さえできる気がする。
この力があれば、あの時あの人間に不覚を取る事も無かったでしょうね」
降りかかる火水風のそれぞれの属性を秘めた幕布が降りかかり、さらにそれに追加して三色蝶達が周囲から火炎弾やら氷弾やら旋風やらを放ってくる。
「うわあっ!」
水の障壁を盾にして三属性の魔法攻撃を防ぐミリアの視界の端でカイトが火炎弾の爆風に巻き込まれて吹っ飛んでいた。ゴロゴロと転がり外套に引火した火を消すとすぐに起き上がる。
「大丈夫!?」
「ああ、何とか」
よく見ると、カイトの身体には青く光る薄い膜が覆っていた。障壁まではいかないまでも、水属性の幕くらいはとカイトが苦手ながらも自らの守りに使用していたのだ。そのため、
さて、とミリアは考える。
実際に何度か
ならばやはり
カイトの無属性の魔力であれば、
チラッとミリアはカイトの方を見る。
問題は、今のカイトにあのシルカの姿をした
一方のカイトはと言うと、ミリアの危惧した通り攻めあぐねていた。自分の魔力特性はもちろん理解しているし、当てられればダメージを与える事も可能だろう。
だが、やはり問題はその見た目。
ミリアが水属性の障壁を盾にしてカイトへの攻撃を遮断する。すると
ここまでは何度も繰り返されたパターンなのだ。
だが、最後のカイトの攻撃だけがどうしても鈍ってしまう。覚悟の決まらない中途半端な剣。師のデニスが見たら朝まで夜通しで素振りさせられそうな情けない一閃。そんなものが
「そろそろお遊びは終わりにしよう。この身体にも結構馴染んできた事だ」
「さあ、全てを包み押し潰せ!
圧縮せよ、
それはもはやカーテンなどとは言えない代物だった。三色に彩られた分厚い緞帳。それがミリアとカイトを覆い隠すように上から降りかかる。その込められた魔力はこれまでとは比べ物にならない。
それが頭上まで迫ったその時、強力な風の砲撃がカイトを襲った。カイトはその風砲で十数メートル先まで吹っ飛ばされた。
そう、
その直後、
爆炎と凍てつく冷気、そして強烈な衝撃波を轟音と共に周囲に解放した。
その余りの威力ににカイトは吹き飛ばされないように耐えるのが精一杯だった。
荒れ狂う火水風の猛威。
舞い上がる粉塵。
それが吹きゆく風によって取り払われた頃、ようやくカイトの目にその惨状が飛び込んできた。
焼いて凍らせて吹き飛ばす。
それが
「み、ミリアさんは!?」
カイトはハッとして周囲を見回す。あの時、風の魔法を使ったのは間違いなくミリアだった。ミリアは風の魔法でカイトを射程外まで吹っ飛ばす事によってカイトを助けたのだ。
だが、その代償は決して小さいものではない事をカイトは身を持って知る事になる。
ミリアはその爆心地から数メートル先の瓦礫の側で蹲っていた。火傷と凍傷を負い、皮膚が破れて血に塗れた姿で。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
私は目を覆いたくなった。
でもできなかった。
血で真っ赤に染まったボロボロのミリア。
そこまで行かないまでも傷だらけのカイト。
違う。
あんなのは違う。
あんなの、私が望んだ光景じゃない。
こんな地獄を、私は望んでなんかいない。
止めないと。
この身体は私の身体。
私のものなんだから。
私が……
私が止める!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ミリアさん、生きてるか!?」
駆け寄るカイトの前で、蹲ったまま顔を上げた。
「ぐ……あ……あはは。
やっぱり防ぎ切れなかったわね。
痛てて……カイトは大丈夫だった?」
明らかに無理して笑うミリア。
制服もあちこちが破れ、そこからミリアの肌が覗いている。だがその肌も火傷で皮膚が破れて血に染まっており、無傷の場所の方が少ないくらいだ。何より右腕が一番酷い。あの魔法に対し盾にしたのかズタズタに引き裂かれて今にも骨が見えそうに思えるほど。むしろ繋がっていただけでも幸運に思えるほどだ。
「それはこっちの台詞だ! すぐに手当てしないと」
「私の事はどうでも良いわ!」
ミリアは血に濡れた手で
「カイトは
あれだけの大技を使ったんだから、直ぐに行動は取れないはず。シルカを助けるのは今しかない!」
「でも」
「カイトはシルカを助けたくはないの!?」
「!」
「私もこの怪我ではさっきみたいに援護はできない。今を逃したらもう
それでも良いの!?」
その時、カイトの脳裏にいろんなシルカの姿が浮かぶ。彼女はカイトの幼馴染であり、カイトに最も近しい女性。
笑った顔。
怒った顔。
拗ねた顔。
泣いた顔。
それらが浮かんでは消える。
それが、今ではどうだ。
振り返るカイトの目線の先に、宙を舞うシルカの姿をした
カイトは剣を握る手に力を込め、立ち上がった。
「
シルカを返してもらう」
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