第13話 無属性の魔力
レイダーはデニスの
「さて、最後は君だな」
デニスの目がカイトに向けられる。
ビクッとカイトの肩が跳ねた。
「君の武器はその剣で良いのかな?」
「は、はい」
「では、俺も同じく剣を使おう」
そう言って、デニスは演習場に備え付けられていた模造剣を手に取った。そして一振りして満足げに頷く。
「さすが噂に名高いヴァナディール魔法学園の演習場だな。模造剣も一級品だ」
デニスは剣を肩に担いでカイトの前までやってくる。そして剣を構えた。その姿にカイトの目にはあのソードグリズリーを両断したミリアの姿がダブって見えた。
「あの、デニスさん。もしかして、ミリアさんに剣を教えたのは」
「もちろん、俺だ。可愛い娘が不逞な輩に襲われては堪らんからな。そう言う奴には俺とセリアラからのお礼参りもするが、それよりもミリアが自分の身を守れるだけの力をつけさせるのが一番だと判断したのだよ」
「でも、魔道士で流石にあれは。魔道騎士達の面目が」
「おや、君はミリアが戦うところを見たことがあるようだな。その様子からすると、俺が教えた技はちゃんと身に付いているようだな。安心したぞ」
横目でクラスメイト達の元を見ると、ミリアがドヤ顔をしていた。
「では始めようか。どこからでも打ち込んでくると良い」
「はいっ!」
カイトは剣を構える。その構えは兄から教わったもの。まだ完全には会得していないが、兄にいろいろ手ほどきをしてもらっているのはちゃんと糧となっている。
「ほう、レイダー君とは真逆だな。彼はまさに荒ぶる獣のような戦い方だったが、カイト君はどちらかと言えば正統派の剣術使いだな」
しかし、と外で見ていたベルモールは唸る。
カイトは魔力を高めてはいるようだが、ベルモールにはそれがうまく感じられない。魔力の流れを見ているはずなのに、それが見えないのだ。
魔力の扱いが不慣れなためなのか、はたまた他の理由があるのか。
「はっ!」
カイトが気合と共にデニスに斬りかかる。兄に習った通り、振りは小さく大降りにならないように注意して、それでいて剣速は鋭く速く。
その攻撃を避けながらカイトの戦い方を伺うデニス。癖のないまさに正統派の剣術。教えたのは騎士関係かとデニスは推測する。
だが、正統派は裏を返せば綺麗すぎて読みやすい。カイトの剣術は尚更だった。おそらく誰かに教わった剣の型を愚直に繰り返したのだろう。
デニスはそろそろ反撃するかと剣を斜めに構える。それは相手の剣を自分の剣で滑らせてバランスを崩し、反撃の一打を入れるカウンター技だとミリアは見抜く。それを表すようにデニスの剣が魔力の光に包まれた。上段から振り下ろすカイトにはそれを見ても今更止められない。
デニスがカイトの剣を捌こうとしたその時、
長年デニスを助けてきた戦いの勘が突如警鐘を鳴らした。
捌こうとした剣を無理やり引っ込め、体のバネを利用して大きく飛び退く。デニスには珍しい不恰好な回避だった。
(何だ、今の悪寒は)
デニスはカイトを見据える。カイト自身も、てっきり反撃を繰り出してくると思っていたのか、突然のデニスの回避行動にビックリしていた。
「あ、あの……」
「驚かせたか。すまないな。続けよう」
気を取り直して構えるデニスにカイトが打ち掛かってくる。さして大きな魔力を感じるわけでもないし、剣筋も馬鹿正直。たが、そんな剣をなぜか勘が警告を促してくる。
――
幾度も攻撃を繰り出すカイトだが、デニスはその全てを避けている。クラスメイト達は「カイトもまだまだ訓練が足りないな」と言う意見だが、ミリアだけは違う事を考えていた。
(変ね。攻め好きのパパの事だからそろそろ反撃に転ずる頃じゃないかと思ったんだけど。カイト君の攻撃、何か秘密があるのかな?)
ミリアの考えではそろそろカイトの剣を弾き返して強引に攻守交代に持っていくと思っていたのだが、やけにデニスの戦い方が消極的であった。
そして、そんな攻防に終止符を打ったのはカイトでもデニスでもなく、なんとベルモールだった。
「
ヒョイと指先でデニスの背中に風の魔法を放つ。それは背中を押す程度の強さなのだが、戦闘中にいきなり背中を押されたら溜まったものではない。虚を突かれて完全に体勢を崩す。そこへ、カイトの一撃が振り下ろされた。こんな場面ではもう剣で受け止めるしかない。
ガチッと剣同士が打ち合わさった、その瞬間。まるで何かで袈裟懸けに打ち込まれたような衝撃がデニスを襲った。
「ぐおっ!」
慌てて態勢を立て直す。そして自分の体を触れて見た。特に斬られた跡は無い。当然だ、攻撃は完全に受け止めたのだから。そんな事を考えている間にカイトの追撃が迫っていた。これも剣で受け止める。
「ぐっ」
体を劈く衝撃。これは魔力による攻撃だとデニスは判断し、続く攻撃を自ら障壁を張って身を守った。
しかし、それを嘲笑うかのように鈍い痛みがデニスの体を突き抜ける。
これはまさか。そうデニスが思ったちょうどそこでベルモールの声が掛かる。
「もういい。そこまでだ」
カイトは剣を下ろす。その表現はやや悔しげだ。ただ一度もまともに当てられなかったのだから。そう、見た目では。
デニスはふうっと大きく息を吐いた。
「なあ、ベルモール。あのカイトと言う少年」
「ああ、おそらく間違いないだろうな」
大人2人が互いに頷き、
「ミリア、ちょっと」
またミリアを呼んだ。
「ちょっと俺と交代だ。一撃で良いからカイト君の攻撃を受けてみろ」
「へ?」
いきなりそんな事を言い出すデニス。さらにベルモールが、
「魔力解放率50%を許可するぞ。全力で障壁を張ってカイト君の攻撃から身を守れ」
言われて目を丸くするミリア。
「良いんですか? 自慢じゃないですけど、私50%だとエクリアとリーレの同時攻撃でも防ぐ自信ありますけど」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと準備しろ」
ベルモールに言われて渋々カイトの前までやって来る。その際、「カイト君の自信を奪っちゃわないかなぁ」などと呟いている。さすがにカイトの闘争本能にも火がついた。
確かにミリアの障壁はとんでもなく頑丈だ。それはあのブライトンとの決闘でよく分かっている。あれだけの魔法を受けてもビクともしなかったのだ。自分の攻撃などでとても揺らぎはしないだろう。
しかし、カイトにも意地があった。
カイトは全力で魔力を縛り上げ、剣に纏わせる。
対するミリアは本当に50%まだ解放したらしく、とんでもない魔力が吹き荒れていた。そして、それが白銀色の壁を構築する。
目で見えるほどの魔力。カイトは覚悟を決めた。たとえ勝ち目がなくとも全力を尽くす。それが成長に繋がるのだから。
カイトは気合いの声を上げてミリアに突進する。そして、その剣を思いっきり振り下ろした。ミリアはその一撃を障壁で受け止める。その結果はーー
「きゃんっ!」
犬が蹴られたような声が聞こえ、ミリアがコロコロと転がっていた。その前には呆気に取られるカイト自身がいた。そして呆気に取られていたのはクラスメイト達も同じだった。
「ち、ちょっと、メチャクチャ痛いんだけど!
シャレにならないんだけど!」
そんな事を叫びながらミリアが七転八倒している。
「やはりな」
うんうんと頷くベルモールにミリアが噛み付く。
「やはりって、こうなるの分かってて私をけしかけたんですか!? 鬼ですか! 悪魔ですか!」
「カイト君の自信を奪っちゃわないかなぁ、だって。うぷぷ、恥ずかしい〜」
お腹を抱えて大笑いするヴィルナの顔に
「ちょっと、何すんのよ!」
「うっさい、笑うな!」
ギャーギャー言い合う2人をベルモールは水をぶっかけて黙らせると、改めてカイトに向き合う。まだカイトは理解できていないらしく、未だ呆然としていた。
「カイト君。君の能力なのだが」
「あ、はい!」
「正直言って、私自身もかなり驚いている。まさか、『無属性魔力』の持ち主をこの目で見ることになるとはな」
「無属性魔力、ですか?」
「聞いた事無いか?」
カイトは頷く。
「まあ、知らなくても無理はない。無属性の魔力はあまりにも稀少性が高くてな。お目にかかる事がほとんど無いんだ」
「あの、どう言う魔力なんですか?」
ベルモールの話ではこうだった。
生物には必ず魔力を持って生まれてくる。そして、その魔力には色があると言う。
火属性ならば赤、水属性ならば青と言うように。もちろん、ミリアのような全属性にも色はある。全属性の色は白。あらゆる色に染まる万能の魔力と言われている。
その中に稀に無属性の魔力を持って生まれるものがいる。その魔力の色は無色透明。色がないために魔力を高めても目で見る事ができない。そのため、無属性の魔力は魔力を持っていないと勘違いされる事が多い。無属性魔力の持ち主があまり表舞台に出てこないのはそれが最大の原因と言われている。
無属性の魔力は無色透明であるために、他の色に染まりにくい。つまり、他の属性魔法を使うのに向いていない魔力でもある。そのため、カイトのように属性魔法を使えないために落ちこぼれ呼ばわりされる事も多々あるのだ。
しかし、無属性魔力にはそれを補って余りある特色がある。それは先ほどのミリアの例を見ての通り。無色透明で他の色に染まりにくいため、属性のある魔力で編まれた魔力障壁では攻撃を防げない。たとえどれだけ高い魔力を持とうが、その障壁をすり抜けてしまうのだ。
物理的な守りでも、魔法的な守りでも一切攻撃を防げない。完全な防御不可能の魔力こそがこの無属性魔力なのである。
「お、俺にそんな力が」
自分の手を見つめてぼんやりと呟くカイト。するとデニスが笑い出した。
「ベルモール! 悪いがこのカイトを貰うぞ。
こいつはしっかり鍛えれば間違いなく大成する。
俺が直々に鍛え上げてやるぞ!」
「え?」
いきなり勝手に話が進んでいき戸惑うカイト。その肩にポンと手が置かれた。それはミリアの手だった。
振り返ったカイトにミリアがにっこりと笑い、そして爽やかにこう告げた。
「ようこそ、カイト君。フォレスティの特訓地獄へ」
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