第11話 大魔道士の教え(後編)
「さて、次は誰かな?」
レミナへの指導を終えたベルモールは気を取り直して次の生徒を促した。すると、生徒達の後ろから「ふっふっふっ」と言う意味深な笑い声が聞こえてくる。
「やはり真打ちは最後でなくてはいけませんよね」
現れた人物を見てベルモールは目を丸くする。
てっきりミリアだと思ったら、そこに出てきたのはミリアと同じく
だが、何もそんな無駄に偉そうに行動するところまで似なくても良いだろうに。ベルモールはやれやれとばかりに首を振る。
そう、次の指導相手は、全身から惜しげも無くやる気を放出しているヴィルナ・アライナーズだった。
「それじゃあ、好きな魔法を「行きます!」使って……は?」
ふと気づくと、すでに魔法発動体制のヴィルナが。
「これが私の魔法です!」
ヴィルナがかざした手を振り下ろす。
その瞬間、ベルモールの全身が何か強い力によって地面に押さえつけられるように感じた。まるで見えない何かが上からのしかかっているように。
一瞬風の魔法かと思ったが、それはすぐに否定した。風ならば体感ですぐに分かるし、何より周囲の草木が全く煽られていない。体感的には、下から何かしらの見えない力で強く引っ張られているような――
「これは、重力か」
「さすがはベルモールさん。ご名答です」
ヴィルナは得意げに笑う。
「これが私の固有魔法『重力魔法』です」
ベルモールは体にかかる荷重に耐えつつ周囲に目を向ける。どうやら重力魔法のターゲットになっているのはベルモールとその周辺だけらしい。
(なかなかの固有魔法だが、範囲は限定されているようだな。もしかしたら……)
ベルモールは自ら膝をつき地面に手のひらを置く。そして、
「大地よ、隆起せよ。
突然、ヴィルナの目の前を塞ぐように岩の壁が出現した。慌ててその壁を重力魔法で崩すが、目の前にはすでにベルモールの姿はなかった。
その姿を探すためにヴィルナは周囲を見回そうとしたその時、
「やはりその重力魔法は目に写る範囲にしか使えないようだな」
ベルモールの声は後ろから聞こえた。
流石に背後まで回られてはどうにもできない。ヴィルナは「参りました」と両手を上げた。
それにしても、とベルモールは思う。
(重力魔法とは面白い魔法を使うな。初顔合わせでいきなりあのレイダーって男子生徒に椅子を飛ばした時は何かと思ったが。結構応用が効きそうだ)
中々将来が楽しみだとベルモールは含み笑いを浮かべた。
「それで?」
ベルモールが続きを促すが、ヴィルナは首を傾げた。
「それでとは?」
「それ以外の魔法だよ。属性魔法とかも使えるんだろう?」
その問いに、ヴィルナは目を右に向け、左に向け、そしてエヘッと笑った。いや、笑って誤魔化した。
脱力したベルモールは一言、
「
結局、ヴィルナの
「ヴィルナはミリアと正反対だな。固有魔法はある程度使いこなせているが、それ以外が全然ダメ。
どうせ固有魔法があるのが分かったから浮かれてそればっかり練習したんだろう」
「重力魔法があればいけると思ったんですよ〜」
「さっき簡単に後ろを取られただろうが」
「それは相手がアークのベルモールさんだからです」
重力魔法にも弱点があり、そこを突かれると簡単にやられてしまう。それを補うのが属性魔法であり、他の魔法技術なのだが、どうにもそれがヴィルナには分かっていないようだった。
片やミリアは威力一辺倒だったり(ある程度改善しているが)、片やヴィルナは固有魔法一辺倒だったり。どうしてこうアークを目指す魔道士は偏った考え方をするのだろうか。ベルモールは心底そう思った。
「やれやれ、百聞は一見に如かずか。ミリア」
仕方ないとばかりに、ベルモールはミリアを呼んだ。
「はい」
「ヴィルナの相手をしてやれ。魔力は10%に制限、魔法は水の魔法限定。それと――」
ベルモールはヴィルナに聞こえないようにミリアに戦い方を耳打ちした。ミリアは何度か頷き、「分かりました」とヴィルナの前にやってきた。
「ふふふふふ。こんなに早く貴女と戦える時が来るとは思わなかったわ。ミリア」
「あら、残念ね。ヴィルナ、貴女はここで私の完璧な戦略を前に敗れ去る運命。そう、それは決定事項なのよ」
顔を付き合わせて「ふふふふふ」と不気味に笑い合う。
「あのな、別に決闘じゃないんだからな」
呆れ顔のまま、ベルモールは「始め!」と手を叩いた。
「行くよ! 先制攻撃、
ミリアは立て続けに水球を5つ生み出してヴィルナに目掛けて投げつける。
ベルモールに聞いていたヴィルナの固有魔法『重力魔法』の弱点その1。発動までにタメが必要で、不意打ちでなければ大抵相手に先制を許してしまう点。
ヴィルナは重力魔法でその水球を全部まとめて地面に引きずり落とした。
「ミリアは」
前方に目を向けるがそこにはもうミリアの姿は無い。見ればミリアは水球の魔法を放ちながら時計回りに移動していた。しかもかなりの速度で。
ヴィルナは重力魔法はミリアの動きを止めることに使う事に決め、水球は動いて回避する事にした。
「ミリアの動きを止めれば」
ミリアは素早く移動してはいるものの、見えないほどではない。動きを先回りすれば必ず視界に捉えられるはず。
素早く飛んできた水球を屈んで避け、ついにミリアを視界に捉えた。
(貰った!)
重力魔法が発動し、ミリアの動きが封じられる。
はずだった。
バシャバシャバシャ
「え?」
水球3発。それがヴィルナの頭に炸裂し、全身ずぶ濡れになってしまった。
「勝負ありね」
得意満面の笑みでVサインを出すミリア。ヴィルナは「ぬぐぐ……」と唸るしかなかった。
これが重力魔法の弱点その2。視界に捉えないと使えないため、どうしても周りへの注意が散漫になってしまう。今回のミリアもそこを突いた作戦だった。
ヴィルナを中心に時計回りに水球を放ちながら移動する。すると、ヴィルナはミリアを止めるために目線をミリアに集中する。こうなると周りが見えなくなり、結局移動中に上に放っておいた水球に全く気付くことなく脳天に喰らってびしょ濡れという訳だった。
「ふっふっふっ。見たか、私の天才的な試合運びを!
まさに、計画通り!」
「私の立てた作戦を実行しただけだろうが。調子に乗るな」
どこから取り出したのか、ベルモールはハリセンでミリアの後頭部をしばき倒していた。
「とにかく分かっただろう。その重力魔法は使い勝手が良い反面デメリットも多い。他の魔法技術と組み合わせて使わないと簡単にやられるぞ」
「分かりました。肝に命じます。
あとミリアざまぁ」
「うぐぐ」
今度はミリアが唸る番だった。
そんな茶番を繰り広げる2人を尻目に、ベルモールは残る2人を見る。残りはレイダーとカイトの2人。だがこの2人は魔道士志望ではなく魔道騎士志望だ。アークとは言え、魔道士であるベルモールには接近戦は管轄外なので戦って試すわけにはいかない。
さて、どうするかと思案していると、
「その2人はこの俺が面倒を見てやろう!」
突然演習場にそんな声が響いたかと思うと、何者かが何と天からクルクルと回転しながら飛び込んで来ていた。そしてそのまま、シュタッと着地して腕を組み、ニカッと白い歯を見せて笑った。
もちろん唖然とする面々。
だが、一部から別の反応が出た。
もちろんそれはミリアである。
「な、何でここにいるのよ」
「え? この変な人、ミリアの知り合い?」
指差しながらとても失礼な物言いをするヴィルナだが、ミリアも特に反論はせず、ただ恥ずかしげに言った。
「この人、私のパパ」
そう、現れたこの爽やかで暑苦しいという相反する属性を持った人物こそがミリアの父親。
元大魔王候補筆頭のデニス・フォレスティその人だった。
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