第21話 エクリア救出作戦
一方、ミリア達は森を抜け、赤い岩だらけの大地を駆けていた。
伝承で邪竜ベルゼドを打ち倒したと言うこの赤い大地。
遠目に見るのと実際に来て見るのでは感じる印象がまるで違う。何か大きな力で破壊されたかのような建物の残骸や高エネルギーで抉られたような大小さまざまなクレーターがあちこちにできあがっている。
「何だか、本当に戦争でもあったかのような光景ですね、ここって」
身を震わせるように両肩を抱いてリーレが呟く。
「ベルゼドの話がただの伝承で終わらなかったのはこういう場所が存在するからなんですよ」
確かに、ただの伝承で終わったならば例え鱗が発見されたとしても何らかの一笑に伏されて終わりのはずだった。それが再調査や伝承の正しさを証明するまでに至ったのは、それに該当するような証拠が他にも存在したからなのだろう。そう、この荒れ果てた赤い大地のような。
「リアナさん、グレイドさんがいるとしたらどの辺だと思います?」
「そうですね」
リアナは周囲の赤い大地を見回し、
「もしグレイド氏の目的が本当にベルゼドの復活だとすれば、おそらくベルゼドの鱗を発見した場所にいるはずです。ベルゼドの鱗が見つかった場所はいわゆるベルゼドが滅ぼされた場所ですから」
「ベルゼドの鱗が発見された場所、ですか」
「場所で言えばもっと奥です。時間もそうありませんし、急ぎましょう」
リアナの言葉に2人は頷き、目的地を目指し歩を早めた。
瓦礫を乗り越えながら、ミリアとリアナはひたすら先へと向かう。そして、小高い丘のようになっている所に差し掛かった時、ついに目的のものを発見した。
それは、広いくぼ地のようになっているような場所。その底は広い平面になっていて、そこにはまるで祭壇を思わせるような台座が設えられていた。
人影の数は合計で6つ。まず、魔法陣の中心に1人。炎を思い起こす豪華な縁取りをした真紅のローブから、あれがグレイドに間違いない。その周囲に部下らしき同じ赤いローブを纏った魔道士が4人。
そして、グレイドの目の前には四肢を拘束されたエクリアの姿が。
「エクリアちゃん……」
「グレイドさん、自分の娘にまでこんな事をするなんて……」
不安そうなリーレに、信じられないように呟くミリア。少なくとも自分の親が自分に対しあんな事をするなんてミリアには想像すらできなかった。
物陰に隠れながら、何とかエクリアを助けるためのタイミングを見極める。
と、そこへエクリアとグレイドの声が聞こえてきた。
「あんたは何なのよ! どうしてお父様の姿を真似ているのよ!」
「真似ている……か。そうではないぞ、娘。この体は紛れもなくグレイド・フレイヤードのものだ」
「この体は……ですって?」
「余の正体、知りたいならば教えてやろう」
言ってグレイドが懐から何かを取り出す。その物体にはミリアも見覚えがあった。あれはまさしく、博物館で見たあの邪竜の鱗に他ならない。
「余はこの鱗の本来の持ち主なり」
「本来の持ち主……って、まさか!」
「そう、我が名はベルゼド。お前達が邪竜と呼び恐れたその存在こそがこの余である」
それを聞いて、ミリアとリーレは思わず声を上げそうになった。
あのグレイドはグレイドではなく、邪竜と呼ばれたあのベルゼドだと言うのだ。つまり、グレイドはベルゼドに身体を乗っ取られたという事なのだろう。
確かに、そう考えれば今の豹変したグレイドの様子にも納得がいく。
エクリアや他の魔道士達の話では火のロードであるグレイド・フレイヤードはかなりの人格者だと言う。悪い噂などほとんど聞いた事もなかった。
だと言うのに、今のグレイドはどうだ? 何の罪もない幾人もの魔道士達を連れ去り、魔力を奪い取った挙句まるで壊れた人形でも捨てるように放置している。その上、今度は一人娘のエクリアまでも。とても、噂に聞くグレイドと同一人物とは思えなかった。
だが、それがグレイドではなく身体を乗っ取ったあの邪竜ならば話は別だ。自分が復活するためならどんな犠牲も厭わないだろう。
「エクリアを助けないと」
飛び出そうとするミリアをリアナが抑える。
「ちょっと待ってください。相手は火のロードと呼ばれるくらいの魔道士で中身はあの邪竜ベルゼドなんです。あそこにいる4人の魔道士だって、おそらくは
「でもだからってこのまま手を拱いて見ているわけにもいかないでしょう?」
「それはそうですけど……」
方針を話し合うミリアとリアナに対し、ジッとグレイド達の方を見ていたリーレがふと問いを投げかける。
「あの、リアナさん。ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「何でしょうか?」
「エクリアちゃんが拘束されている周辺に大きく魔法陣が描かれてますですけど、あれって何の魔法陣か分かりませんか?」
えっ、とミリアもエクリアの周囲を目を凝らして見た。確かに、何かの魔法陣らしきものがエクリアを中心にほぼ祭壇全体にまで大きく描かれている。
「よく見えたわね、リーレ」
元々リーレはミリアやエクリアよりも勘が良く、2人が気付かなかった事にも真っ先に気付く場合が多い。それにしても、こんな暗闇に松明の灯りのみの満足な光もない中で、あんな見にくい土の上に描かれたものに気付くとは。これはもう感心するしかない。
一方のリアナはその紋様をじっと見つめていたが、やがて首を横に振る。
「……ごめんなさい、私にも分かりません。紋章術を専門に研究しているような人なら分かったかもしれませんけど。少なくとも、私が今までに見てきた紋章術にあのような紋様のものは見た事もありません」
もしかすると、ベルゼドが生きていた時代のみに伝わる失われた魔法技術の一つなのかもしれない。ベルゼドが元々いた時代は今よりもずっと前だ。魔法技術の中には進化したものもあれば忘れられたものも存在しただろう。
「きっとベルゼドが復活するための魔法陣なんじゃない? 今の私達が悩んでも仕方ないと思うけど」
「そう、ですよね」
口ではそういうものの、リーレの表情は晴れない。
「どうにも気になってしまって……」
先ほども説明したが、リーレの勘はミリア達よりも数段良い。そんな彼女が気になっている以上、油断はするべきではないかもしれないとミリアも思っていた。
とは言え、何もしないわけにもいかない。
「リアナさん、どうします?」
「そうですね。電撃の魔法を使って気絶させるのがいいでしょうか。体を乗っ取られている以上、眠りの魔法をかけても意味がないでしょうし、何より相手はあのベルゼドです。精神への魔法は跳ね返されてしまうかもしれない」
「つまり、電撃でグレイドさんの体自体も痺れさせてしまおうと言うわけなんですね」
ミリアの言葉にリアナは頷く。
「おそらく、エクリアさんの魔力を取り出そうとする時、意識は完全にそちらに向くはずです。そこを狙って電撃の魔法を打ち込みましょう」
リアナの言葉に頷くミリアとリーレ。電撃の魔法は風と水の複合属性魔法で難易度は中級クラス以上ある。未だ
だが、
タイミングを見計らう3人の目線の先で、部下にいくつか指示を出していたベルゼドがエクリアの前までやってくる。
「さて、そろそろ魔力を頂くとするか。お前の魔力もかなり高い。余の復活に十分に役立ってくれる事だろう」
「くっ」
悔しげに睨み付けるエクリアの顔の前に右手をかざすベルゼド。
「今だっ」
3人はその瞬間を狙って魔法を発動させた。
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