第17話 リアナ
ミリアとリーレの2人は再びエクリアのブローチを拾った森の入り口にまでやって来た。
さすがに今度は躊躇している余裕はない。松明を片手にミリアが先導しつつ森の奥へと進んでいく。
草木を掻き分けつつ進む事およそ10分ほど。やがて、2人の目の前にむき出しとなった岸壁が姿を現した。そこには明らかに人工物と思われる洞窟がポッカリと口を開けている。
そっとミリアは木陰から洞窟の入り口の様子を覗き見る。
そこには見張りらしき男が1人。欠伸をかみ殺しながら立っている。
「何か不真面目そうな連中ね。見たところ魔道士じゃなさそうだけど」
「あんまり魔道士を連れて来たら不自然に思われるかもしれませんし」
「リーレ、眠りの魔法って使える?」
「知らないわけじゃないですけど、まだ小さな動物にしか使った事ないです」
ミリアも同様である。経験はカエルなどの小動物に実験で眠らせてみた程度しかない。そもそも人相手に眠りの魔法を使う機会など普通に生活していればある方がおかしい。
「どうします? 私、経験のない魔法を人様に使うのはちょっと……」
「そうね……」
結局、見張りはリーレが注意を引いた隙にミリアが即席の棍棒で殴り倒したのだった。
「ミリアちゃん。終わってから言うのも何なのですけど、ちょっと強く殴りすぎたのではないですか?」
薄暗い通路をミリアに続いて歩きつつ、後ろをチラチラ見ながらリーレが呟いた。
「そうかな。あれでも手加減はしたのよ?」
「でも、軽く10メートルは吹っ飛んでましたよ」
「そうだっけ? まあ、死んでなかったんだからオッケーオッケー」
確かに死んではいなかったものの、ほとんどかろうじて、もしくは運良くといった感じだった。さすがにこれにはミリアの腕力を忘れていたリーレ自身にも落ち度がある。こうなるなら多少経験が無くとも眠りの魔法を使っておくべきだったと少し後悔するリーレだった。
「ところで、ここって敵のアジトみたいなものなんですよね? 敵と鉢合わせしたらどうします?」
「どうするって。私のこの眠りの魔法で」
ひょいと棍棒を掲げるミリア。
「ミリアちゃん……それ、もう魔法ですらないんですけど」
「だって、これが一番簡単だし」
どうやらミリアは最後まで力押しで行くつもりのようだ。
「それにほら、相手は少なく見ても全員最低でも
化け物みたいな魔力と腕力を持ってて何を言ってるんでしょうか、この人は。
そう言いそうになって飲み込むリーレだった。
「とにかく、気をつけて進もう。私達まで捕まったらおしまいだからね」
「そうですね」
頷きつつ、せめて撲殺体だけは出ませんようにと祈るリーレだった。
アミナの話からすれば彼女が閉じ込められていた部屋は1階東側にある一番手前の小部屋らしい。もしエクリアもさらわれたのだとすれば、閉じ込められるのはその部屋だろう。
そこを目指して2人は注意深く廊下を進む。
そんな2人の警戒心とは打って変わって、拍子抜けな事にどこまで進んでも敵の気配はどこにもなかった。
「変ね。たくさん敵がいると思って覚悟してたんだけど」
「全然いませんね。もしかして罠なんて事は」
「そんなはずはないとは思うんだけど。入り口の見張りはお休み中だし。誰とも鉢合わせしてないから、私達がここに来てる事を知ってる人なんて誰もいないはず」
「そうですよねぇ」
結局、誰とも出くわさないまま2人は目的の部屋へと到達した。
「見張りすらいないなんて、何かあったのでしょうか」
「う~ん。多分、魔力霧散の紋章で魔法を封じてるから逃げられないと思って油断しきってるんじゃない? それか、見張りに割く人数もいなかったとか。ほら、直属の魔道士って目立つし、いきなりたくさんいなくなるとさすがに怪しむ人も出てくるでしょ」
言いつつミリアは扉を調べてみる。
その扉には鍵のようなものは付いていないのだが、押しても引いてもビクともしない。上にも横にも動かなかった。どうやら扉全体を何らかの魔法でロックしてあるらしい。確かにこれなら魔法の使えない状態では脱出は不可能だろう。
「ダメですね。どうやっても開かないです。ミリアちゃん、何かいい方法はありませんか?」
ガチャガチャと扉を相手に奮闘しながら問うリーレの隣に、フッフッフと怪しい含み笑いを浮かべながらミリアが進み出る。
「解き方自体は私も知らないんだけど、大丈夫、いい方法があるわ。この私に任せなさい」
そう言って、右手を差し出す。手に持っていたのは、アミナの首に巻かれていたチョーカーだった。
「持って来てたんですか?」
「まあね。何かの役に立つかもしれないって念のためにね」
「でもそのチョーカーがあっても扉は開かないですよ」
「さて、それはどうかなぁ」
「え?」
「リーレ、忘れた? このチョーカーに描かれている紋章が何だったか」
「あ」
そこまで言ってリーレも気付く。
そう、チョーカーに描かれている紋章の効果は『魔力霧散』。完全な魔法無力化の紋章術だ。しかもこの魔力霧散、魔力封印や魔力制御にはない大きな特徴がある。それは、『魔力霧散は発動中の魔法すら無効化してしまう』と言う点だ。つまり、この紋章術ならば例え魔法が使えなくとも魔法のロックを外す事ができるのだ。
ミリアはそのチョーカーの紋章部分を扉に押し付ける。その瞬間、扉自体に魔法陣のようなものが浮かび上がり、やがてかすれるようにして消え去った。
それを確認し、ミリアはゆっくりとドアを押してみる。すると、さっきまでビクともしなかったのが嘘のように扉は簡単に開いた。
「だ、誰?」
中から脅えたような声が聞こえた。見ればそこには3人の女性が座り込んでいた。そして、内1人はミリア達が捜していた人物、リアナに他ならない。
「あの、リアナさんですね?」
「え? 私の事、知ってるんですか?」
目を丸くするリアナにミリア達は頷く。
「私はミリア・フォレスティ。こっちがリーレンティア・アクアリウス。グリエルさんの依頼であなたを捜しに来ました」
「そうですか、グリエルの」
微笑を浮かべるリアナ。何だかうれしそうだ。
さて、とミリアは捕まっていた3人を見回す。案の定、そこにいた3人全員がアミナ同様首にチョーカーを巻いていた。これまた魔力霧散の紋章が描かれている。ミリアはまずリアナのチョーカーをナイフで切断した。たちまちリアナの魔力が元通りに。
「これって……」
「魔力霧散を解きました。これでいつも通りに魔法を行使する事ができるはずです」
「すいません。助かりました」
「あの、ちょっと質問なんですが、ここに真っ赤な髪をポニーテールにした女の子が連れて来られませんでしたか?」
「ポニーテール?」
「私達の親友なんです」
少し考えた末に首を横に振るリアナ。と、その時、後ろで座っていた少女が自信なさげに口を開く。
「あの……ちょっと思い当たる事があるんですが」
「え?」
「少し前に私達をここに閉じ込めた人がここで見張りをしていた魔道士達を連れて行ったんですが、その時に外にいた人が何かを担いでいたみたいなんです。それがなんだか真っ赤な長い髪の女の子だったような気がして」
赤い長髪の女の子。
こんな時間にこんな場所へ連れて来られた赤い長髪の人物はミリアには一人しか思い浮かばなかった。それはリーレも同様だったらしい。
「どこに連れてかれたんだろう……」
「場所なら私が知ってます」
その言葉の主はリアナだった。
「森を挟んで火のロードの邸宅の反対側。かつて邪竜との戦いがあったと言われる荒野にそのエクリアって子も連れて行かれているはずです」
「あの赤茶けた荒野ですか?」
リアナは頷く事で答える。
「連れて行かれたのはもう1時間くらい経ちます。急がないと間に合わなくなるかもしれない。急いであそこに向かわないと」
部屋を出ようとするリアナをミリア達は呼び止めた。
「あの、私達も一緒に連れて行ってください」
「エクリアちゃんは私達の大切な友達です。だから、私達の手で助けたいんです」
リアナはそんな2人の顔を見回し、
「……2人とも、相手が何者なのかは知ってて言ってるんですね?」
「はい」
しっかりと頷く2人に、リアナは少し考えた末に、
「分かりました。正直、私1人では荷が重いかなとも思ってたところなんです。お2人とも持っている魔力は相当大きいみたいですし。並みの
そして、リアナは改めて2人に手を差し出す。
「ミリアさん、リーレンティアさん。私に、力を貸してもらえますか」
「もちろんです」
「頑張りましょう」
その手を2人はしっかりと握り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます