第12話 少女アミナ
「あの、すいません」
ビクッと肩が震えたのが分かった。
振り向いたその人物はミリアよりも少し歳上くらいの女性だった。少しやつれたような容姿に脅えきった目。一体何をそんなに脅えているのだろう。ひとまずミリアは折角なので同席しないかと持ちかけてみる事にした。その女性は最初どうしようかと迷っていたようだが、ミリアに悪意がない事を感じ取ったか小さく頷いた。
「私、ミリアって言います。お名前は何と言うのですか?」
女性はさらに周囲を見回してから小さく答えた。
「……アミナです」
ミリアはそっとアミナに顔を近づけて、同じくらい小さな声でそっと言った。
「アミナさん、ひょっとして誰かに追われてます?」
聞いてさらにビクッと肩が跳ね上がる。
どうやら図星だったようだ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。この地区の領主様の関係者ですから」
「り、領主様の?」
ここの領主グレイド・フレイヤードの娘、エクリア・フレイヤードの親友だから、領主様の関係者。別におかしくはないはず。ミリアはあまり深く考えずに頷いた。
だが、どうしてかアミナはより表情を強張らせる。
「わ、私を連れ戻しに来たんですか?」
「は?」
思わぬ言葉に思わず目を丸くする。
「えっと、何の事だかよく分からないんだけど」
「領主様の関係者なんですよね?」
「領主様って言うか、正確に言うと領主様の娘の友達なんだけどね」
「それはつまり、領主様に依頼されたとか領主様に仕えているとか、そんな関係ではないのですね?」
「うん。私達の依頼者は別の人だから」
頷きながら笑うミリア。
それを見て、ようやくアミナの表情に安堵が浮かぶ。
と、そこへ料理を持ったウェイトレスさんと一緒にエクリアとリーレも戻ってきた。
「やれやれ、全然ダメね。1ヶ月前には見たって人はいっぱいいるんだけど、最近見たって人は全然いないわ」
「こっちも同じでした」
そこで2人の目に同席している見知らぬ女性に目が留まった。
「ところでそちらの子は?」
「こちらはアミナさん。ちょっと訳ありでね。同席してもらってるのよ。
アミナさん、こちらはエクリアとリーレ。私の友達です」
「エクリア・フレイヤードです」
「リーレンティア・アクアリウスです。リーレと呼んでくださいね」
その名を聞いて、アミナは顔を上げる。
「フレイヤードって、あなたがミリアさんの言っていた領主様の娘さん?」
「はい。領主のグレイド・フレイヤードは私の父です」
エクリアの顔をじっと見つめるアミナ。
何でしょう、と首を傾げるエクリアを見て、アミナもようやく表情を緩めた。
「……エクリアさんはお父さんと随分違うんですね」
「は?」
「いえ、何でもありません」
エクリアとリーレの2人が席に着くと、ミリアが話を続ける。
「このアミナさん、どうやら追われているらしいのよ」
「追われているって事はどこかから逃げてきたって事?」
問いにアミナは頷いて肯定する。
「北の外れに古い建物があります。そこの一室に閉じ込められてました」
「閉じ込められてた?」
「はい。どうやら眠りの術で眠らされ連れ去られてたみたいで。私は何とか隙を見て逃げ出せたんですけど、同じ部屋には他にあと五人くらい捕まってました」
「……」
(連れ去られた? 隙を見て逃げ出してきた? 他に5人くらい捕まっていた? これはもしかしたら)
「ミリア?」
突然黙り込んだミリアに全員の視線が集中する。ミリアはアミナに目を向けると、こう問いかけた。
「ねぇ、アミナさん。ひょっとしてアミナさんって魔道士?」
「あ、はい。一応魔道士です。まだ
やっぱり魔道士か、とミリア。しかもミリア達より上の『セイジ』。そこで更なる疑問が彼女の脳裏に浮かんできた。
正魔道士ならばたとえ捕まったとしても魔法で脱出できるはず。ロックを外すなり、極論として壁を吹っ飛ばすなりして。もし私なら、魔道士相手に脱出できないようにする場合、その方法は……
ミリアはおもむろに立ち上がると、アミナの前から後ろに彼女の体を見て回る。そして、
「思った通りね……」
アミナの首に巻かれているチョーカー。その後ろに描き込まれているのは見覚えのある特徴的な紋章。前に魔力封印や魔力制御と共に魔道書に載っていた魔力を無効化させる紋章術。『魔力霧散』の紋章だった。
ミリアはテーブルのナイフを手に取り、アミナの後ろから首のチョーカーを切断した。その瞬間、アミナの全身に魔力が駆け巡る。
「あ……」
呆けたようにアミナは自分の両手を見つめている。そんなアミナに、チョーカーをナイフと一緒にテーブルにおいてミリアが尋ねた。
「どうですか? たぶん魔力が戻ったと思いますけど」
「確かに、さっきまで全然感じなかった魔力が、元に戻っています。一体何が……」
「これですよ。この紋章」
「あ、これって」
それを見たエクリアとリーレも気付く。当然だ。彼女達も見ていたんだから。ミリアは頷き、
「これは魔力霧散。付けられた魔道士の魔力を霧散させ魔法を使えなくする紋章術よ」
「そんなのよく知っていましたね」
「前にたまたま読んでた魔道書に載ってただけです。それよりもこのチョーカー、アミナさんの持ち物じゃないですよね?」
その問いにアミナは頷く。
「このチョーカーは気が付いた時にすでに首に巻かれていた物です」
「アミナさんを連れ去った奴が、気を失っている間に首に巻いておいたんでしょうね」
そこでふと思いついたように、ミリアは1枚の写真をアミナに見せた。
「アミナさん。この女の人、見ませんでした?」
アミナは写真を見るなり、「あっ」と声を上げた。
「この人、私と同じ部屋に閉じ込められてました」
「それは間違いない?」
「間違いないと思います。一緒に閉じ込められてる人達を励ましてくれてたのをよく覚えていますから」
3人は顔を見合わせてひとつ頷く。
「ようやく重要証言が得られたわね」
「つまり、リアナさんも北の外れの古い建物にいるって事ですね」
「アミナさん、ちょっと聞きたいんだけど。アミナさんが閉じ込められてた場所の近くに他に何か無かった?」
ミリアの問い。何か目印になるものが無いかと軽い気持ちで聞いただけだった。しかし、その問いが3人に大きなショックを与える事になる。アミナは考えるまでもなくすぐに返答した。
「フレイヤード邸がありました。それに、私を追って来たのは間違いなく領主直属の魔道士達です」
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