第11話 調査開始!




 ミリア達3人は打ち合わせ通り、まずは街での情報収集を行う事にした。


 対象者その1、図書館史書のお姉さん。


「見た事はないですね。少なくともこの図書館には来ていません」

「う~ん、調べ物に来てたってわけじゃないのかな。ミリアはどう思う?」

「え? 何か言った?」


 振り返ると大量の本を抱えたミリアの姿が。


「何それ?」

「借りるの。面白そうな本ばっかりだから」

「後にしなさい!」




 対象者その2、通りがかりのおっちゃん。


「すいませ~ん。この写真の人見かけませんでしたか?」

「ヒック、ん~?」

「うわっ、お酒臭い!」

「しまった、酔っ払いだ!」

「酔っ払いって誰の事ですかぁ~?」

「あんたの他に誰がいるのよ」

「もう、まだ日が暮れて間もないのにそんなに呑んじゃダメですよ~」


 そんな酔っ払いのトロンとした目がミリアの持っていた写真に止まる。


「お~、美人さんじゃないか~。どこでいくらで売ってんの?」

「売り物じゃありません!」

「最低ですね」


 ミリア、エクリアだけでなく、普段は穏やかな表情をほとんど崩さないリーレまでもが軽蔑の目線を向けている。


「次に行こう」

「うぃ~っ、ならお嬢ちゃん達でもいいや。おじさんと楽しい事しないかい?」

「あっち行け、このド変態!」

「リーレ。あの変態に水でもぶっ掛けておいて」

「は~い」





 対象者その3、書物を読みながら歩く研究員らしき魔道士。


「すいませ~ん」

「……」

「あの~、ちょっとお聞きしたい事が」

「……」

「あの~、聞こえてますか?」

「……」

「ねぇ、エクリア。火球の魔法ぶち込んでいい?」

「気持ちは分かるけどやめておきなさい。

 ってこらっ、リーレも水球を作らないの!」

「だって、気付いてないみたいですから気付いてもらわないと」

「放っておきなさい。研究の事以外は耳に入らないんでしょ。聞くだけ無駄。次行きましょ」





 対象者その4、魔道法院の役人。


「調査に関する情報は一般人には公開できません!」


 にべもなく却下された。


「ったく、相変わらずの石頭よねぇ、魔道法院の役人って」

「仕方ないんじゃない? 興味本位の野次馬が湧いたら迷惑だろうし」

「う~ん、あの人達なら情報をくれるかな」

「あの人達?」





 対象者その5、火のロード直属の調査員。


「それが、有益と言えるような情報はまだ何も掴めていないのです」

「まだ何も?」

「ええ。行方不明になった魔道士は現在で20人。内、10人が廃人となって発見されています。今言える事は、発見された人の中にはその写真の女性はいないとだけ」


 廃人にはなっていない。それだけはまだ救いかな。


「失踪者が最後にいた場所とかは知らない?」

「北町、研究地区、商店街。場所は特定されていません。唯一決まっているのは、ここフレイシアの街の中と言う事だけです」

「そっか。まあお父様もお手上げ状態だなんて言ってたもんね。いきなり進展があるはずもないか」


 呟くエクリアの横ではミリアとリーレもうんうんと頷いていた。





 結局、聞き込みで手に入った情報と言えばフレイシアの街の中で失踪したと言う事だけ。どこに閉じ込められているかとか、どこで連れ去られたのか。そもそもリアナと言う女性が本当にここで失踪したのかすら分からない。もっと簡単に言えば、ほとんど何も分かっていないと言うのが現状だった。

 仕方なく、その後3人は予定通り夕食を取るために酒場へ向かう事にした。


 このフレイシアの街には四つの酒場が存在する。ミリア達が向かったのはこの中で最も人気の高いお店『暁の紅石亭』。フレイシアでの売り上げナンバーワンの座に相応しく、店内には仕事帰りのおじさん達や研究の息抜きをしに来た魔道士達で溢れかえっていた。

 店内はほぼ満員だったが、丁度テーブル席が入れ替わりで空いたので、3人は何とか座る事ができた。

 ミリアはメニューに目を輝かせながら、


「どれにしようかなぁ。どれもおいしそうだし、迷っちゃうなぁ。

 え~い、もういいや。欲しいの全部頼んじゃえ」

「結局そうなるのね」

「とても真似できませんね」

「真似も何も、普通はやらないって、あんなの。どんな胃袋してるのかしら、全く」


 忙しく駆け回る店員さんに料理を注文をしてから、3人はこれからの行動を話し合う事にした。


「さてと、料理が来る前に情報を集めてしまいたいんだけど」

「できればお客さん達の酔いが回る前に聞いてしまいたいですね」

「さっきまでの聞き込みでも分かったと思うけど、魔道士姿の人にはあまり聞いても意味がないと思うわ。基本的にこの街の魔道士って休憩以外は研究室からほとんど出てこない変人だから。とりあえず、作業着姿の人達にまずは聞き込みを行うって事でいいんじゃない?」

「そうですね」

「それじゃあ、ここはあたしとリーレで聞いてくるから。ミリアはここにいて頂戴」

「へ、なんで?」

「全員席を離れるわけにはいかないでしょう。誰か残ってないと」

「そうだけど……」

「料理が来たら先に食べてていいから」

「は~い、残ってま~す」


 実に単純なミリアだった。


「じゃ、行くわよリーレ」

「はい」


 そう言って、エクリアはリーレを伴って席を離れた。

 さて、とミリアも周囲を見回す。席に残っているとは言え、自分なりに調査をしなければ。2人に任せきりと言うのはミリアにとっては何となく嫌だった。

 店の様子はと言うと、さすがは人気店と言う一言に尽きる。人が入れ替わり出入りしているのでほとんど客数が減る様子がない。

 さて、問題はどの人に話を聞くのが効率がいいかだ。外での聞き込みで分かった事は、魔道士姿の人には聞いても無駄と言うことだろう。エクリアによれば、ああ言う魔道士の研究員は魔法研究以外の事は全く頭に入ってこないらしい。つまりは、近くで人が誘拐されようが殺されようが爆発事故が起きようがほとんど気付かないと言うのだ。それもどうなんだと突っ込んでやりたい。


 しばらくして、まずはミリアが頼んだ料理の内の1つ『ティレル鳥の焙り焼き』が運ばれてくる。折角なので、料理を持ってきたウェイトレスさんにリアナの事を尋ねてみる事にした。


「あ、ウェイトレスさん、ちょっとお尋ねしたいんですが」

「はい?」


 ミリアはリアナの写真を取り出してウェイトレスに見せながら、


「この人見かけませんでしたか?」


 ウェイトレスはじっと写真を見つめ、口を開く。


「確か1ヶ月ほど前に見たような気もするけど、でも最近見ないわね。この人がどうかしたの?」

「実は今行方不明になっていて、捜索依頼が出されているんです」

「捜索依頼か。今この街では結構たくさんの人がいなくなってるからねぇ。魔道法院の人とか領主様直属の調査員の人とかが調べ回ってるけど、未だに犯人の目星はついてないって話ね」


 魔道法院に領主の調査員が調べても手がかりが掴めないか。これは思いの他苦戦しそう。

 困ったなぁと頭を掻くミリア。


「そろそろいいかな。仕事に戻らないと」

「あ、はい。どうもありがとうございました」


 いえいえとウェイトレスは笑顔で人ごみの中へと戻っていった。


(この調子だとエクリアとリーレもあまり目ぼしい情報は無さそうね)


 そう思いつつ軽くため息をつく。

 香ばしく焼き上げられたティレル鳥のモモ肉を咥えながら、改めてもう一度周囲を見回した。


「ん?」


 そんな時、ふとすぐ近くのテーブルに座っているお客さんが目に入った。

 ミリアが気になったのはその服装だった。その人はやや薄汚れた法衣のような物で頭からすっぽり覆っており、食事する時ですらその法衣を取ろうとしない。何より、その人から何となく周囲の視線に脅えているような気配が感じ取れた。

 おもむろにミリアはその人に声をかけるために席を立った。



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