第6話
「さあ、戦争の時間だ。さあ、試合の時間だ。さあ、戦いの時間だ! 始まるのを見逃すなんてもったいない! オオヤシマ主催の御前試合の始まりだよ!」
御前試合というのは、将軍の目の前で行われた寛永御前試合を略称したものである。
でもまあ、最近はゲームのイベントでも使われているらしいが。ほら、ラスベガスとか。
「御前試合の挑戦者は、神の剣を手に入れる権利を得ることが出来る! しかしながら、スサノオが勝利した場合は、その神の剣はオオヤシマに返還されることになるよ! それが良いかどうかは別としてね!」
いや、悪い話ではないはずなのだが――と彼は考える。
しかし、考えたところでそれが上手くいくとも思えない。
ニニギがどう動こうとしたって、それがどう上手くいくったって、いずれにせよスサノオにとって利があることとは考えがたいのだ。
で、あるにしても。
スサノオの考えが全て否定される訳ではない。
ニニギが戦闘狂なのは、言わずもがなのことであるのだが、それがスサノオと戦うことになる――ということについては、あまり気にしてはならないことなのだろう、と思う訳である。
「さあ、始めようぜ、スサノオ。僕達がやるべきことは何だ! 戦い以外に何があるというのだ! スサノオよ。僕達神に定められた役目、今こそ解き放つべきだとは思わないか!?」
「いや、別段思わないけれど……」
「何だよそれっ! ……いや、お前に今更常識をぶつけるのは間違いだったか。僕は、良いんだ。別に間違いだとは思わないんだ。神に常識をぶつけていくのが間違いだと思わなければならないんだっ!!」
「……なんつーか、お前テンション高くね? さっきから」
「僕はこれが普通だ。普通というのを神に委ねること自体が間違いなのかもしれないがね!!」
「はあ……そうか。だったら、さっさと始めるぞ。さっさと終わらせて、神の剣をオオヤシマに返して貰う。分かっているな?」
「お前こそ、僕が勝ったら神の剣を譲って貰うぞ」
「それについてはヤタガラスが認めてくれるかどうかだな。な、ヤタガラス?」
「え、え、ええ!? そこで私を突っ込んできますか!? ……え、えーと、そこはやっぱりイザナギ様の発言を気にしておく必要があると言いますか、何というか……」
「いや、何というか、お前はっきり言って、現実になりすぎだよ。そんなの、現実になる訳ないだろ。……俺は勝つよ。お前を倒して、オオヤシマに剣を返還する。そのためにな」
スサノオは剣を手にすると、それをニニギの方に向けた。
ニニギは笑みを浮かべたまま、剣をスサノオの方に向けた。
互いが、互いに、戦闘態勢に入る。
そして。
そして。
そして、だ。
お互いに合図をすることなく、ノーモーションで攻撃を開始した。
※
ガン、キン、ガキン!! と。
剣と剣――言ってしまえば、金属と金属がぶつかり合う音が響き渡るフィールド。
裏を返せば、それ以外の五感による情報が得られない、ということ。
今、観客の全員がどうしてこのような高度な戦闘に巻き込まれているのか、と思っていることだろう。
どうして、このような場面に自分達が居るのだ? と。
どうして、今のような事態に自分達が巻き込まれているのか? と。
どうして、このような状態になるまで放っておいたのか? と。
思うことはそれぞれあるかもしれない。
思うべきことは、数多いかもしれない。
思い返すことは沢山あるかもしれない。
問題提起を一つ。
――今の戦いを見て、どう思う?
※
「ひゃははははっ! ひゃははっ! おもしれー、おもしれーよ、スサノオ! やっぱり僕の考えは間違っちゃいなかった! 僕の考えは、正しいことだったんだ! 二柱が戦うということ、二柱が存在するということ、二柱が生き続けるということ! それは、それは、それは、何だと思う? 運命に囚われたような存在に見えてこないか?」
「冗談を止せ、ニニギ。そこは普通に考えて、俺のような存在と一緒にならないこと、じゃないか? 俺みたいな普通の存在じゃない神様と一緒に居るということは……」
「間違っている、というのかい? 君みたいな存在と一緒に居ることが! 僕は、それは間違っていないと思っているよ。僕は、君と一緒に居ることが間違っていない、そう思っているんだ!」
ニニギの言い分も間違っているのか、間違っていないのか、分からなかった。
でも、それが正しいかどうかは、納得出来ない人も居た。
そう。人、だ。
神でも何でもない、ただの人間だ。
そうであるからこそ、そうならなければならないからこそ。
神は神であり、人は人たりえるのかもしれない――。
「何が神の戦いだよ! 全然、人の戦いと変わらねえじゃねえか!」
そう言ったのは、観客のうちの一人だった。
「……何だと?」
そう言ったのはニニギだった。
ニニギの発言を聞いて、人間の数多くが畏怖した。
そして、畏怖した人間の数多くが、ニニギの存在を否定しようとした。
――神の存在を否定することは、神にとって完全なる悪である。
何故ならば、神の存在を打ち消すことと同意だからである。
神の存在を打ち消してしまうということは、自らの存在そのものが消滅することと同意である。
「うわあああああああああっ!?」
ニニギは、自らの存在の消失に憤慨していた。
「何故、何故、何故だっ! 何故僕が消えなくてならないんだ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ! 絶対に、絶対にっ! 消えたくないんだっ!!」
しかし、それを言ったところで何か変わるとは思えない。
変わる訳がない。
変わるはずがない。
変わるとは思えない。
――では、何が変わるのか?
「……分からないことを分かり合いたくないと思う。それは誰にだって言えることだ、ニニギ」
スサノオは言った。
「お前が出来ること。お前がやらなくてはいけないことを考えなくてはならない。そして、それは人間に還元出来るようなことじゃないといけない。そうじゃないと、人間は神を信用しなくなるからな!」
そして。
そして。
そして、だ。
スサノオはニニギに致命的な一撃を加えた。
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