第5話

 勝負に乗った、と言われても――というのが、後にヤタガラスが語ったことだった。

 ヤタガラス曰く、そんな勝負を実際に『オオヤシマ』の文書に残すことも烏滸がましい、と思った。どれぐらい烏滸がましいものだったのか、ということについては――実際に見て貰う他あるまい。

 神界神社特設ステージ。

 簡単に言えば、神界神社の裏手に用意された(いつの間に?)、ステージである。

 そして、そのステージに立っている戦士は二柱だった。


「赤コーナー。神の剣を手に入れたくて幾星霜! ついにここまでやって来た! 彼は、彼のために、彼の剣を振るう!! 無所属、ただし赤コーナーってことはチャンピオンって扱いなのか? そうなのか!? ニニギーっ!!」


 わーわー!

 歓声が沸き上がる。

 歓声が沸き上がったところで何かプラスになるのか、と言われたらそれはそれで微妙なところではあるのだが!!


「青コーナー。神の剣を取り返すためにやって来た! 彼のために、彼は、彼の剣を振るう! あれ、何かこれさっきも言ったような気がするぞ!? 青コーナーということは挑戦者ってことよねっ! スサノオーっ!!」


 わーわー!

 さっきより少し多いぐらいの歓声が沸き上がる。

 何というか、それで良いのかチャンピオン?


「……って、どうしてお前がレフェリーやってんの? 何k理由でもあるの?」

「いえ? ただ単に人が居ないからやっているだけですよ? 仕方ないと言えば仕方ないですけれど」

「いや、そうなるかって普通……」

「どうしたスサノオ? びびっているのかい、へいへいへい!」

「……どうしてお前はそんなに盛り上がっていられるのか、問いかけたいレベルだね」

「だって、盛り上がることが出来るって素晴らしいじゃないか、へいへいへい! 僕は悪いとは思っていないよ。寧ろ、盛り上がることが出来ていない君の方に問題があるのではないかい、スサノオ?」

「いや、僕は別にどっちでも良いのだけれど……」

「どっちでも良い!? どっちでも良いはないだろう、どっちでも良いは!!」

「……さっきからテンションが高いぞ、ニニギ。少しは落ち着いたらどうだ?」

「オーケイオーケイ、分かったよ。少しは落ち着こうじゃないか、ベイビー。さあ、始めようぜ、戦いを! さあ、始めようぜ、物語を!」


 いや。

 いやいやいや。

 まったく落ち着いていないのだが。


「……落ち着いてくれよ、困るんだよ、こっちが。いや、困りはしないか。どちらにせよ、面倒だと思っているのは間違いないな。とにかく、やることは決まっている! 戦闘だ。いや、戦争か? 神と神の戦いって、ただの戦闘にはならないんじゃないか?」

「いや、これは一対一の試合だよ。死合い、とでも言えば良いかね? 試合だよ、試合! わっほい! これから何をすれば良いのかね? レフェリーのヤタガラス?」

「あ、はい。試合方法ですが、やり方は自由! でお願いします。要するに何をするも自由! 何をしても良い! これってとっても良いことじゃないですか。良いことだと思います。良いことだと思うんです! だからやりましょう。やりましょう。やりましょう!」

「……何だか、面倒臭い女に成り下がっていないか、ヤタガラス?」

「め、面倒臭いとは何ですか、面倒臭いとはー! 私は、ただのヤタガラスですよー。神の標となる存在です。礎とはなっていませんけれど、ただの標として動くことは出来ます。ですから、私は神の標として、ただの神の標として、『一人』の神の標として、問いかける事が出来ます」

「何を、だ?」

「――諸君、戦争の時間だ!」

「……」

「……」

「そ、そこは普通に反応して欲しかったな!?」


 そんなことはどうだって良い。

 さあ、今度こそ始めよう。

 それでは諸君、戦争の時間だ。

 神と神が争う、大きな戦争の時間だ。


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