第5話――エピローグ


「……ということでした」


 ヤタガラスはオオヤシマに戻り、報告書を仕上げ、それをイザナギに見せていた。イザナギは怪訝な顔を見せて、言う。


「つまり、オオゲツヒメが居たからこそ、あの村は飢饉を免れたということでいいのかな」

「そうですね。八年ほど前、偶然通りかかったオオゲツヒメがこのままではいけないとヤマタノオロチに協力を呼びかけたそうです」

「ふむ……。それで、『草薙剣』はどうなった?」

「それが、ヤマタノオロチが持っていたようで……」

「出雲国に有ったのでは?」

「出雲国に訊ねたところ、何者かが紛失したとのことです。ヤマタノオロチ曰く、『あそこから出られないのに、剣を奪うわけがないだろう』とのことで、とりあえず証拠不十分ということにはしてありますが……」


 ヤタガラスの言葉に、イザナギは頷く。


「うん。まあいいだろう。天候の件については、私からアマテラスに伝えておく。一先ずまた甘いものを用意しておかねばな……」


 賄賂ってやつですか、とはヤタガラスは言えなかった。



 ◇◇◇



 スサノオは、クシナダヒメの家にいた。お茶を飲みながら、二人仲良く話をしている。


「いやあ、それにしても凡てが丸く収まってよかったよ」


 スサノオの言葉に頷くクシナダヒメ。


「ほんとうに助けてくださって……ありがとうございます」

「いやいや、ろくなことはしてないよ」

「それでも、助けていただきました」


 助けていたのは寧ろヤマタノオロチの方なのだけれど、とは言わなかった。


「……ああ、一先ず、姉ちゃん……アマテラスにオオヤシマの方から言ったらしいから、明日あたりからキチンと晴れる……というか、それなりの天気になると思うよ。また、作物が育つようになるね」


 そう言うと、クシナダヒメはスサノオの肩に頭を乗せた。心無しか、クシナダヒメの顔は赤くなっていた。


「お、おい? どうしちゃった?」

「……ずっと、心がドキドキしていました。なんでしょう、この気持ち。と思っていたのですが……ようやく解りました。これは……『恋』だと」


 スサノオはあまりの展開に驚いてしまった。

 しかし、クシナダヒメの話は続く。


「……是非、私をあなたの妻にしてはいただけないですか?」


 スサノオはそれを聞いて、顔を赤くして、クシナダヒメから視線をあえて外して、恥ずかしい気持ちを悟られないようにしているのだろうが、それは誰が見ても『恥ずかしいんだな』というのは見て取れた。

 そして、

 スサノオはゆっくりと、コクンと頷いた。


「嬉しい!」


 そう言って、クシナダヒメはスサノオに抱きついた。突然のことで、スサノオは顔がりんごのように真っ赤になってしまった。


「これからは、ずっとずーっと一緒ですね! スサノオ様っ」


 クシナダヒメの笑顔が、スサノオにはとても眩しく感じられた。

 そして、

 スサノオも、それを見て小さく微笑んだ。




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