テンションが上がらない!<仮免取得まで3>

自動車学校は、送迎のマイクロバスを走らせている。


私の家を通るルートのバスの運転手はおばちゃんだった。

明らかに高校生や20代前半ではない私に、おばちゃんは時々あれこれ話しかけて来るのだけど、仮免落ちた話をするとモーレツに怒った。


おばちゃんによると、公安の査察はのものらしい。そんなものが、よりによって私の検定の日にピンポイントで当たるなんて、私のクジ運の悪さたるや想像を超えてる。本当に期待を裏切らない女だ。


おばちゃんが怒ったのは「査察の時にはいつもほとんど誰も合格しないんだけど、そんなのおかしい。逆に、うちの学校はふだんはどんなユルい検定をしてるんですかって話でしょ?」ということだ。つまり、自信を持っていつも通りに判定するべきだ、とおばちゃんは主張した。


それはそうだが、そんなことより、この私の落ち切ったテンションを次の検定までに引き上げられるかが問題だった。


自分でも自分の状態がよくわからないまま、2回目の日がやって来た。

全然緊張しないことが慣れを意味するのか、気構えが臨戦態勢に至ってない、つまり抜け殻状態のままということなのか。


その日は、免取りのおじさんと二人だった。

先におじさんがやった。さすがに元はバリバリ車に乗っていた人らしく、すばらしくうまい。後部座席から見ていて惚れそうだった。


次は私の番。

おじさんの何でもないことのようなうまさが醸し出す平穏さにすっかり伝染したのか、私は妙に平板な気持ちでコースを走った。


そしてS字カーブ。

脱輪した。


今までの練習で、脱輪なんて一度もしたことがなかった。

そこでやっとわかったのだけど、その日の私の気持ちはまったくノッてないばかりか、投げやりだったのだ。「どうでもいいや」みたいなふてくされた気持ちに、脱輪して初めて気づいた。


担当教官も、まあ、メンタルも影響しますから、次はやる気出して行きましょう! みたいな、具体的なアドバイスじゃないことを言っていた気がする。


ていうか、検定料を3回分も払うのか。。。

まったく、どうしてこういう巡り合わせなんだ! と、前回検定時のスーツにネクタイの同乗者に対する恨めしい気持ちがなかなか拭えない。

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