疫病神、現る。<仮免取得まで2>
決戦の日。仮免検定当日は朝から雪が降っていた。
顔見知りになっていた女の子が「試験、どうするんですか? 延ばしてもらえないんですかね!?」と心配そうに言う。
どうするって言ったってアナタ、免許を取ったら、雪が降ろうが運転しなければならない時はあるのだし、ゆうべ学科も頭に詰め込めるだけ詰め込んで来たわけで。
気持ちも出来上がっている。延ばすと、このストレスがさらに続くことになるのもイヤだ。早く終わらせてしまいたい(←受かる気満々)。
当然、予定通り決行だ。
検定の説明を受ける教室に行くと、ほかに誰もいない。一人かな?と思っていると、見たことないオッさんが遅れて入って来て教室の後ろに立った。教習所の指導員になるために研修でも受けてる人かなぁという感じ。
時間が来て、いよいよ実技の検定。
受ける人が一人の場合は、事務のお姉さんが後ろに乗ったりすると聞いていたけど、なんと、さっきのオッさんが後ろに乗って来た。研修でこんなところまで見学するのか? 別にいいけど。
私はシートをけっこう前に出して背もたれも90度にピシッと立てるので、その時もシート調整のために少し後ろを向く体勢になった。すると、オッさんが一瞬ビックリしたようにギロッと私を見たので、こっちもちょっとビックリした。そして、私がオッさんを見ようとしたわけじゃないと気づくと、ぷぃと視線をそらしていた。
こっちの方が緊張する場面なのに、見学で同乗するくらいで何をビビっているのか、このオッさんは。。。
オッさんにかまってる場合じゃないので、すぐに意識を自分に集中し直した。
そして、万事イメージトレーニング通り、私はコースを進んでいった。
最初のヤマは踏み切りだった。
左折をして、いざ、踏み切りへと進みゆかん!!
すると、思いがけないところで声がかかった。
「…終わりです」
よく聞こえなかったし、意味もわかりかねた。
はぃ??
集中をそがれつつ聞き返すと、「もう30ポイント以上の減点超過になったので、ここで終わります」
へ? は? なヌっ!?
どういう意味ですか?
だって、まだふつうに走っていただけなんですけど??
踏み切りもクランクもS字も坂道も寄せも、何一つやってないんですけど????
まったくわけがわからなかったです。
あとで担当教官が結果を確認して、評価の詳細を探って来た。
そして、私に近寄って言いづらそうに「後ろに、誰が乗ってました?」と聞いて来た。
「知らないおじさんです」。そうとしか、答えようがない。
「スーツを着たような?」
「はあ、確かに」
「やっぱりですか〜。いや〜、どうやら公安の査察が入ったらしいです。すみません、いつもより相当厳しく採点されたんだと思います」
はぁ? はぁ? はぁぁぁ!?
なんじゃ、それ!?
かなり難しい、この時の気持ちを表現するのは。
クジ運の悪い自分を呪う気持ち、そんな外的要因で評価の基準が変わってしまうことへの怒り、背中に公安のオッさんのプレッシャーを感じながら減点三昧していたあの検定員のしれっとした態度。
でも、この気持ちをぶつけるところはどこにもなかった。
「で? いくらそうだとしても、何にそんなに点が引かれていったんですか?? だって、まだヤマは一つもやってなかったんですよ? ただ、走っていただけなのに?」
「左折の時に、ちょーっと膨らんでたそうです」
いや、私は教習でそこまで左折の注意を受けていたこともなく、検定前の最終確認でもこの調子でって言われてましたが? 今日もいつも通りやっていたはずですけど?
教官曰く「まあ、運が悪かったと思ってください。査察の時は、指導員でも受からない人出ますから。
とにかく、次の検定の時はもう査察が来ることは絶対にないので大丈夫、安心してください!」
いやいや、大丈夫、じゃないし。っていうか、検定料金だってもう一度取られるんですよね???
(延長だってたくさんつけられて、そっちのお支払いもあるんですけど!?)
何もかも納得がいかず、落ち込み、私はすっかり抜け殻のようになってしまったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます