延長延長、また延長。<仮免取得まで1>

ここは、一家に一台じゃなくて、一人一台も珍しくない土地柄だ。賃貸物件では、一戸に二台分の駐車スペースがついてることもある。

バスとJRは通っているけど、小回りが利かない。だから、高校3年生になるとこぞって免許を取りにいく。


そんなんだから、教習所はピーチクパーチク&キャピキャピという様相を呈していて、免取りのおじさんが一人いたものの、それをもしのいでおそらく私が最年長だったのではないかと思う。


時々、高齢者講習(?)で来てるご高齢の方々とトイレでいっしょになったりしたのだけど、ある日、一人のおばあちゃんが「私はね、○歳で免許を取ったのよ」と武勇伝っぽく話しているのが聞こえてきた。個室の中にいた私は、「あのぅ、今の私それより年上ですけどぉ?」と思ったものだ。


さておき、こんなに大勢の高校生たちに囲まれていると、自然と若いエキスを吸ってこっちのお肌もぷるぷるになる気がした。ちょっと仲のよい子もできたりして、私は教習所に通うのがそんなにイヤではなかった。


だけど、彼らとの間には歴然とした差があることも思い知らされた。

若さゆえの身体能力の高さとか頭の柔らかさに加えて、幼いころから親の車に乗って、運転の阿吽の呼吸みたいなものが体にしみ込んでる、というようなアドバンテージを感じさせられたのだ。


教官は教官で、年齢とか見た目で明らかに私(への評価)を差別してるような気がした。

彼女たちが休憩時間にキャイキャイしながら、「ウインカー出すの忘れちゃってぇ〜、てへっ」とか「曲がるところ間違えて通り過ぎちゃったぁ、キャハ」的な話をしてるのを私は何度も聞いたことがあり、そのたびに心の中で「私はウインカー忘れたり、通り過ぎたりはないなぁ」って思っていたのに、どういうわけか、そんな後から入って来た子たちがどんどん私に追いつき、追い越していくのだ。


ぜったいに、トシ食ってるから…という先入観で私に何度も延長つけてるに違いない!


でなければ、運動オンチそうだったり、機械オンチそうだったり、そもそも走る凶器である車を操るには人としてあまりに未熟に見えるような子たちがズンズン先へ進んで、かなり大人で自主練までしてる私がこんな置いてけぼりをくらうはずがない。


でも、そんなこと言えるわけもなく、担当教官には「大丈夫ですよ〜。僕、2枚目行った人知ってますから。たまきさんは1枚目で収まりますよ!」かなんか言われて、それってどんだけレベル低い比較だよ…って思ってたんでした。


まあ、今となっては、教官が延長つけてた理由もわからないでもない。

私には、距離感覚と言うか、空間把握能力と言うか、そういうものが致命的に欠けていたんだな。ハッキリ言って、今でも相当あやしい。


そんな私が紆余曲折の末、ついに仮免試験を受ける日がやってきた。

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