私に与えてはいけないモノ。

私は自分が免許を取るなんて、これまでの人生で考えたこともなかった。

公共交通機関で十分に足りていたし(そういう生活の味しか知らない)、私がそんなものを手にしたら、社会の迷惑になると確信していたから。


高校生の時に、チャリに乗っていたらダンプが走って来た。こわいこわい、近寄っちゃダメだと思えば思うほど、私はダンプに吸い寄せられていく自分にビビった。その時からもう、私には車の運転は向かないと悟っていた。


大学生の時に、免許取りたての女友だちの車に乗せてもらったことがあった。その日はすごい雨降りで、国道を行き交う車が半端ない水しぶきをそこかしこで跳ね飛ばしていた。対向車の上げた分厚い波のような水しぶきが、こちらのフロントガラスにザッバーンと容赦なく叩き付けられた時、彼女がパニックになって、両手を完全にハンドルから離して顔の前で交差させているのを私は見てしまった。水しぶきが顔にかからないようにブロックしようとしたらしい。

んな、バナな。

私から見たら、彼女も免許を取ってはいけない人だと思われたのだけど、もう取っちゃってるし、私も乗っちゃってる。あとは運を天に任せるしかないと、ハラハラしながら残りの道のりを何とか生き延び、自分だけは絶対に免許を取るまいと誓ったのだった。


それなのに、それなのに。

こんな私がある程度トシを取ってから免許を取るなんて、同じように向いてない人が若い時に取るよりもタチが悪い。

でも、結婚して夫の住むところに来てみたら、車がないと生きていけないってヤツだったのだ。


それでも最初のころは、時間や事情をお互いにやりくりして、なんとかこんとか買い物や用事を片付けていたのだけど、あまりの不自由さとか、行動範囲の狭まりに、ほどなく限界を感じるようになった。


そして、ついに禁断の扉が開かれることに。

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