第3話 思い出

華奢なロボットよりも体格がいいロボットだった。カルラはソフィアの後ろに隠れていたはずだった。

彼女は急いで引き止め、認証の終わっていないカードを取り上げて警備ロボットにカードを見せつつ


「その子は私のものよ。放しなさい。ネタだしに使うんだから。」


ほぼ真っ赤な嘘の理由、カルラの解放を要求した。暖かな存在のはずのソフィアから放たれた冷たい言葉に彼女はショックを受けた。

ママがそんなこと言うはずがない、と直ぐに思い直した。その思いはどちらかというと自分への言い聞かせに近かった。

ソフィアはもちろん我が子を愛す気持ちで接しているが、カルラは少し疑いの雲を作ってしまった。ソフィアのほぼ真っ赤な嘘でできたあの要求は、カルラには本音なのかも知れない、と捉えられてしまった。

ロボットから引き渡されたカルラをソフィアは抱きしめた。


「ごめんね。」


そう彼女が呟いたのをカルラは聞き逃さなかった。疑いの雲はほぼ無くなった。しかしあの冷たい言葉はカルラの心に突き刺さったままなのである。


もう一度認証させ、二人はボートに乗った。


ボートが着水し、彼女たちはそのボートに乗り込んだ。船体が揺れ、カルラはよろけてしまったがソフィアがよろける彼女を支えた。黒い船体に波がかかり、曇天の空から来るわずかな光に反射していた。


カルラは次いつあの、大きなロボットが海から出てくるか分からなく海に恐怖を感じ、下を向いていた。


「カルラ、酔っちゃうよ。」


ソフィアは彼女の体調を心配した。それでも顔を上げないカルラに、ソフィアは謝った。


「ごめんねカルラ、あのロボットさんはああいうことを言わないとカルラを放してくれないの。」


「ちがう、おこってないの。こわいの。海から出てきたあの黒くておっきなロボットさんが。」


「大丈夫よ。私がなんとかしてあげる。」


カルラはゆっくりと顔を上げるが、彼女の頭の中に8つのモノアイが映る。

恐怖で体がこわばったが、風に髪をなびかせているソフィアの笑顔を見て体の緊張を解いた。やはり彼女はソフィアに不思議と安心感を感じるのだ。それでいて信頼できる。

波に揺られてしばらくしていると、鉄と緑の森が見えてきた。

カルラには森のイメージがこれとしてついていたが、ソフィアには緑だけの、見えても木の茶色の森のイメージがあった。彼女には本当に不思議な森に見えた。といっても、それは子供の頃の話で彼女もこの森にはもう慣れたのだった。

金属の無機質な冷たさの上にある、妙な温かみのある緑の葉、皮肉にも自然と共生しているのだ。


岸と別れの時が近づく。


乗り上げないようにボートを止め、カルラを抱きしめる。


「じゃあね、ママはここまでしか行けないからこの先は一人だけど頑張ってね。生き延びて…ね。」


彼女は、泣いてしまいそうだったがカルラを不安にさせまいと堪えた。

カルラは、泣かなかった。今までの孤独な旅が彼女を強くしていた。

波に彼女の足が浸からないよう、抱き上げた。そして、ボートを降りる。

靴の中に水が入り靴下が濡れていき、水が足にまとわりついてくる。手には重みと暖かさがあるカルラがしがみついている。

波は無く、流木のある砂浜に彼女を下ろした。


鉄の冷たい森に黄色い少女が入っていく、砂地に足跡をつけて。一人分の足跡だけが残って、もう一人の大きな足跡は波に消された。


後ろでボートのエンジン音がする。離れていってしまう。寂しさと新たな地を行く恐怖で少女は泣き出してしまった。泣きながら森を進んでいく。


後ろで木の葉の擦れる音がする。離れてしまう。心配と新たな地に彼女を一人残していく罪悪感で女性は泣いてしまった。泣きながら海を進んでいく。



どれくらい歩いただろうか。

回りを見ても木しかない。銀色と苔の緑、そして土の茶色の色しかない。

少女は振り返りもせずに歩き出した。



足取りが重くなる、ずっと同じ景色。

耳を澄ましても人の気配はない。鳥の声とどこかで流れる水の音、そして鉄の木から聞こる小さな機械音しかない。

少女は鼻唄を歌い出した、母の思いでの子守唄を。



歩いて歩いて歩いて。歩き疲れたら少し休んで、また歩き出す。

やがて、夜が来て少女は鉄の木の元で眠った。




ビアンカはもりのどうぶつたちとおともだち。


オオカミさんとシカさんとおいかけっこをしたり、サルさんとリスさんときにのぼったり、ビアンカはまいにちあそんでいました。


クマさんと、ハチさんにおねがいをしてハチミツをわけてもらったり、キツネさんとおさかなをつったりして、ビアンカはみんなのためにはたらいていました。


あるあさのことです。クマさんがかぜをひいてしまいました。


ひどいねつをだし、せきをコンコン。

しんぱいになったみんなはそうだんをしました。


「クマさんのこうぶつのハチミツをあげよう」


と、ウサギさん。


「いや、たくさん食べなければならないからさかなをあげよう。」


とキツネさん。ハトさんは


「マメをあげればいいんです。マメはからだにいいですからね。」


ほかにも、いっぱいありましたがそうだんしているなか、ビアンカはいいました。


「おいしゃさんをよんでくる。」


もりのみんなはおどろいてしずかになりました。しかし、みんなはビアンカをとめました。


「げげもげもいるしあぶないよ」


とリスさん。


「そうだよ。クマさんとならだいじょうぶかもしれないけど」


とシカさん。


「よべても、まにあうかな?」


とタヌキさん。

ビアンカはこまりました。みんなのいっていることはただしいのです。げげもげはひとやどうぶつをたべてしまうおそろしいおばけです。

あかくギラギラひかるめ、ながいながいうで、キラキラしたぎんいろのからだ、そんなとってもこわいおばけがこのもりにはいます。


シーンとしたもりのなかで、ひとつこえがあがりました

「ビアンカ、わたしのせなかにのるといい。げげもげからもにげられるだろう。そして、わたしならまにあうだろう。」

ウマさんのこえでした。

すると、

「オデもいくぞ。げげもげをふっとばしてやる。」

ウシさんでした。


ビアンカはウマさんのせなかにまたがりました。

ウマさんはビュンビュンと走りました。ウシさんもついていきました。

ウマさんはこまりました。めのまえに、おおきなたにがあらわれました。

こまっていると、またたいへん。

あのげげもげがでてきたのです。

げげもげは4にんでてきました。


「オデにまかせろ。」


ウシさんはたちまちげげもげをたににつきとばしてしまいました。しかし、さいごのげげもげをとばそうとしたとき、げげもげがウシさんのめをふさいでしまいました。

めがみえないウシさんは、あばれました。きにぶつかっているうちにきがたおれました。そのきははしになりました。ですが、いきおいあまったウシさんは、なんとたににげげもげとおちてしまいました。


ウマさんはビアンカをせなかにのせるとビュンビュンとはしりだしました。

ビアンカはないています。ウマさんもなきたくなりましたが、はしりつづけました。


ついにおいしゃさんのところについて、クマさんのことをはなしました。

おいしゃさんはいそいでしたくをして、ビアンカといっしょにウマにのりました。

いくときよりもはやく、ビューンとはしりました。


おいしゃさんはクマさんのかぜをなおしました。

クマさんがなおってきたころ、おちたはずのウシさんがもどってきたのです。

あしをけがしてかえってきました。ウシさんもおいしゃさんになおしてもらいました。


みんなげんきになっておいしゃさんはかえりました。


また、へいわなもりになりました。


はるはおはなをみんなでつみました。


なつのあついおひるにはみんなでかわに入りました


あきにはみんなでおいしいくだものをたべました


さむいさむいよるは、みんなあつまってねむりました。





少女は深い森のなかで深い眠りについた。

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