第13話 帰ってきたリップガール その2

 アナリカ合衆国原子力潜水艦では、てんやわんやの大騒ぎであった。


 「プンスカ・プーの用意はいいか?!」

 「今、バナナ食ってます!」

 「相変わらず、唯我独尊だな。早くしろと言っとけ! 間に合わん」

 「艦長、私には彼を説得する自信がありません」

 「バカもん! それを何とかするのがお前の役目だろうが」

 「いえ、無理です! 艦長、辞表ここに置いときますね」

 「こらあ! 職場放棄かあ! 卑怯者!」

 「いや、いや、無理っす。愛する妻とベイビーが待ってますんで、ほんじゃ」

 「こらあ! 勤務評定最低にするぞう!」

 「どうぞ、辞めるから関係ないし、ごちゃごちゃ言うなら、自分でやれば? 文句言うだけだし、あなたにはホトホト愛想がつきました、ほな、さいなら」


 辞表を提出した部下と入れ替わりに、プンスカ・プーがけだるそうに現れた。


 「あのさあ、バナナは甘熟キングにしてっていったよねえ。これ違うし、やる気ゼロなんだけど」


 頭からキノコのかぶりものを付けているように見えるプンスカ・プーだが、その昔日本のある高校で全校女子生徒を恐怖のどん底におとしいれた、チ〇コ星人によく似ているように思えるのは気のせいか。違いと言えば、くりぬかれた穴から人の顔が出ているのだが。彼は左手にむき身のバナナ、右手にフィルターなしの両切りタバコをくゆらせている。

 艦長はヘラヘラとへつらいながら諭した。


 「へへ、プンスカさん、どうも、へへ、艦内でタバコはその、ちょっと」

 「あ! あああ! なにがあ? あっ! てめえも吸ってんじゃん! 隠れてこそっとよう! 便所の中でよう! 換気扇フル回転してよう! 空気汚してんのは、てめえだろうが? よっ? よっ?」


 顔を真っ赤にして黙りこくる艦長であった。


 「あーあ、こっちは命がけだってえのによう。いいねえ、おたくらは呑気で」

 「うへへ、面目ございませんです」

 「それ! そのへつらい! 気に障るんだよね。どうせ俺たちは安全だし、ここはへつらっとこうか、みたいな? どうせ死ぬのはあいつだし、みたいな? 一時の辛抱だ、みたいな?」

 「またまた、そんなあ、誤解ですよ旦那あ」

 「旦那? よっ、持ち上げてくれますねえ、旦那ですか。それで死ねと? にっこり笑って死ねと?」

 「いや、めっそうもない。なにせ、相手はリップガール。このままではこの地球上の男は皆、リップガールのしもべになっちゃいます。ここは、なんとかプンスカさんのお力をお借りしたく」

 「期待してんじゃねえの? 魔女の神テクに、お世話になりたいんじゃないの?」

 「命あってのものだねですから」

 「だよねー、だよなー、命惜しいもんなー誰だって、で、俺に死ねって?」

 「いや、いや、プンスカさんなら」

 「ちゃんと、フルネームで呼んでよね! プンスカ・プーだし!」

 「プンスカ・プー様、なにとぞ、ここはひとつ、よろしくお願いいたします」


 艦長は土下座した。


 「けっ! 役目だからよう、やるけどよう、アナリカ人なのに土下座かよ。さすが艦長まで来たやつは、手段は選ばねえな、俺の国じゃあよ、それされると、まっ、まっ、顔をあげてくださいな、ってなるのよ。知っててやってるよね。大したもんだよあんた・・・ミサイルはチンチンゼロ号にしてくんな」

 「ありがとうございます! プンスカ・プー様に敬意を表します!」


 艦長はプンスカ・プーに最敬礼をして称えた。


(第14話 帰ってきたリップガール その3へ、つづく)


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