第12話 帰ってきたリップガール その1

【トリセツ】

 何のことか意味不明の罪なき人々は、このままお進みください。

 既読きどくで、アレルギー症状の出た方は、医師と相談の上、引き返してもいいかもしれません。

 特殊ワードに疑問符のある方は、気にせずサラリと流しましょう。

 リップガールは封印されたはず、と思われた方は愛すべき読者様です。


 理由はズバリ! 気が変わったのでした。


 現代ドラマの枠からもはずれます。たわいもない話ですから。

 


【本文】


 「ホー! ホホホホ、ホホホのホッ!」ピストン星雲の彼方から改造型フェラーリ小型宇宙船、略してフェラセン(船○、専×)にまたがった魔女が帰ってきた。

 我らの青い星、地球へ。

 ボンネットの上にまたがるように座る彼女が、なぜ船外に出ているのかは分からない。自己顕示欲のなせる業だというのが専門家の一致した見方だ。


 あいも変わらず、妖しい美しさである。

 真紅のワンピースから、あられもなく露出させた太もも、均整のとれた肢体、優雅な腰つき、引き締まったウエスト、控えめだが清楚な胸元・・・いや、控えめではない、すさまじい存在感だ。そして、たなびく黒髪。なまめかしい真っ赤な唇。


 だが、縮尺がおかしい。バランスが変だ。というか、首から上が、超巨大な真っ赤な唇しかない。目も、鼻も、耳もない。


 そう! 彼女こそは知る人ぞ知る、ピストン星雲からやって来た、超絶口技ちょうぜつこうぎ神技かみわざを持つ女、リップガール、伝説の魔女だ。


 「ん? どんな技」と引っかかった人、あなた様の想像力が試されます。彼女の技は無限とだけ、申し上げておきましょう。人間ではないのです、魔女なのです。


 真っ先に動いたのはアナリカ(誤字ではありません)国防省、通称チンタゴン。建物の形状からその名称がつけられた地球最大の軍事力を持つ組織だ。

 モウ、オキヅキデショウ? 舞台はパラレルワールド、もう一つの地球です。


 アナリカ大統領、カブ・ハナフダが国防長官からの緊急回線で通話をしている。彼は決断を迫られていた。


 「大統領! 時間も選択の余地もありません、最終兵器の使用を! ご決断を!」


 国防長官は使用許可ボタンを押すことを訴えた。ハナフダ大統領は机に置かれた発射許可スイッチを、もてあそぶように右手に持った。


 「リップガール、実に興味深い。何が起こるか、見てみよう」

 「大統領! ツイッターしてる場合じゃないです!」

 「なんで分かった? 見えるのか?」

 「大統領の行動は、手に取るようにわかっています」

 「君の忠誠心に敬意を表する。ところでだ、神技だろう? グレート! その超絶口技とやらを、一度試してみようじゃないか」

 「あなた!」


 大統領夫人がご立腹だ。


 「あれ? いた? オー、ソーリー、ジョークだよ。愛してるのは君だけさ」


 ハナフダ大統領は、照れ隠しに笑いながら、発射許可スイッチをくるくる回しておどけて見せた。


 「君は素晴らしい! とても満足してるよ、ハニー♡」


 くるくる回すスイッチは案の定、手から滑り落ちた。


 「あ」


 ゴトン、カチッ。落ちた衝撃でスイッチは押されたのである。


 「大統領、ご決断に敬意を表します。神のご加護があらんことを」


 通話はプツンと切れた。

 ハナフダ大統領は、申し訳なさそうに両手を広げて首を振った。


 「悪気はなかったんだよ、ハニー」

 「もちろんよ、あなたは正義感あふれる愛国者ですもの」


 ハナフダ大統領は夫人の肩を抱いて執務室から出て行こうとした。


 「提案があるんだが、今日の夕食はベッドルームでというのは、どうかな?」

 「ええ、いいわ。リップガールなんかに負けないわよ」


 ハナフダ大統領は、何度もうなづいて、夫人の頬にキスをした。


 「君には、大いに期待している」



 (第十三話 帰ってきたリップガール その2へ、つづく)

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