第11話 三途の大空

 勘太郎は真っ逆さまに落ちていった。


 雲が見える、青空が見える、空だ! 上下左右、三百六十度、空だ! 

 いつまでたっても、地上の着地点が見えない。そもそも、地上がない。

 目に映るもの、全てが空だった。

 「くっ、ぐおー! なななんでだー! なんで俺はスカイダイビングしてんだー! てか、パラシュートねえー! 死ぬー! 死ぬー! 死ぬー! ごああー助けろー! こんちくしょー!」


 もはや説明不要の感がある、パラレルワールド。

 なにせ私のような凡人ではなく、超才能ありの人たちが研究する理論宇宙物理学が後押ししている、世界観なのだから。

 例えば、自分とそっくりではあるが、違う人生を歩む自分が存在する世界。

 そういう世界は、あり得るらしい。

 確かユニバースは宇宙の事で、複数形ではないと習ったが、宇宙が唯一とは、もはや胸を張って言う事ができない。

 では、今の人間とわずかに違う、何か、が存在する地球はあるのだろうか?

 勘太郎は現実世界から、そんな異世界へ足を踏み入れようとしていた。

 あれからどれほどの時間が経過したのか。相変わらず、勘太郎は全方位大空の中を落下していた。落下の風圧は彼の体全体に襲い掛かっている。


 彼は息苦しさに耐えながら叫んだ。


 「ぐぬー、俺がこんな目に合う理由を、二百字以内で述べよ! 」


 誰にいっているのか分からないが、試験問題の解答に苦しめられてきた彼が一度は出題する側に立ってみたいと、思っていたことは確かだった。


 と、川魚のアユが勘太郎の前に現れた。空、のはずなのにアユとはこれいかに? しかもアユは、空気抵抗の影響がまるで感じられない。あたかも川底を優雅に泳いでいる風であった。

 アユが勘太郎の顔に近寄ってくる。彼は寄り目になってアユを見た。すると、激しくせき込んだ彼は、水中からでるような泡を口から吐き出す。もがき苦しむ彼は薄れていく意識の中で思った。


 く、空気を、くれえ! 空気を・・・


 彼は、どこへ行くというのか? きっと、いいところへ、行くんだろう。

 そして、物語は続いていくんだろう。


 命ある限り。


                  了

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