第67話 運命の日
その日。年に一度あるかないかの快晴の空。パルの女王宣言が行われる日。
グレイキングダムでは国中が賑やかだった。ジョンの息がかかった大企業は軒並み祝日となり、その関連企業も休みになる。それが連鎖して国民の休日のようになり、グレイキングダム全体で新女王を祝おうという雰囲気になっていた。
独立国家の支配者が誰になろうがよかったが、それでも死にかけの老人より若い少女のほうがいいじゃないかと口にする者の少なくなかった。むしろ、なにやら目出度いし天気も良いということで飲んで騒げるなら何でもよかった。
一方、そんな市民とは違い、緊張漂う面々がいる。治安部暗殺部隊。パルの暗殺を企てる部隊だ。すでに襲撃地点で待ち伏せをしている。
タイミング。タイミングこそが総てだ。屋敷を出た大きなスチームカー。周りを多くの護衛に守られながらゆっくりと進む。目指すは街の中心近くにある競技場。そこにはすでに多くの市民……グレイキングダムの国民が新女王のお披露目に集まっていた。
スチームカーが中程まで進んだころ。丁度スチーム・ロボが見張りをしている地点と地点の中間にあたる場所で煙、爆発、そして銃撃音。治安部暗殺部隊の襲撃が始まった。暗殺部隊は手練れの護衛達を、それも襲撃があると予測していたのに一気に蹴散らした。
スチームカーは速度を上げて逃げる。暗殺部隊の予定通りだ。孤立したスチームカーを武装した暗殺部隊のスチームカーが後を追い、袋小路に追い込む。出口を塞ぐをとそこで待っていた10数人の武装した暗殺部隊が取り囲んだ。
「どうしますか?」
「まだ護衛がいる可能がある、慎重に……」
暗殺部隊隊長の言葉が止まる。後ろで発砲音がしたからだ。
「追っ手か?」
「ルビニアです! フレイルの部隊です!」
このタイミングにこの場所に? 出来すぎていると直感で思ったが、いまは考えている暇はない。
「数が多い、固まれ! ばらけるな!」
強力な武装をしていた暗殺部隊だが、ルビニアの騎士は数も多く実力者揃いだ。ほどなくして暗殺部隊は全滅した。
「ふん、女王を狙う逆賊どもが」
フレイルは吐き捨てるように言うとスチームカーに向かう。
「ゼノビア様、お迎えにあがりました」
そしてドアを開けると……数体の人形と運転手のみ。
「どういう、ことですか?」
「陽動に決まっているだろ」
運転手はそう言うとナイフで自らの喉を切り裂いた。
「……競技場。競技場に向かいます!」
フレイルが叫んだ瞬間、金属の矢が降り注ぐ。ジョンの部下達がスチームガンの一斉射撃をおこなったのだ。
その様子をビルの屋上から見届ける一つの影。黒装束に身を包んだ正蔵だ。オルソンからの襲撃情報をフレイルに流し、さらにはジョンの部下達をその場所に仕向けた。敵同士をぶつけたのだ。
しかしスチームカーは陽動。つまりすでにパルは競技場にいるのか。ここまで情報を隠しているジョンの手腕に感心しながら競技場に向かった。
競技場。多くの人が集まり、新女王を待っている。賑やかな地上と異なり、地下は静かだった。
地下2階。護衛代わりの小型スチームロボを2体連れたジョンが車輪付きの椅子に座り頭にケーブルが繋がれている。椅子の車輪も護衛のスチームロボも頭で考えるだけで動かすことが出来る、スノウレディの傑作装置だ。
そのジョンの前には白いドレスで飾られたパル。宝石に彩られているが衣装に負けないくらいパルは美しい。その憂いた表情すら美しさを際立たせていた。
ファイアボディは片手とカニのような義手を器用に使ってパルの金色の髪をセットしていた。
「まだ迷っておるのか?」
ジョンは問いかける。
「当たり前じゃ。ウチは女王などになるつもりはない」
パルは祖父を睨む。ジョンはそれを受け止め不敵に笑う。
「ふむ、それもよかろう」
「おじいさまがなんと言おうと……」
そこに黒装束の男が現れた。中年ニンジャのヒャクである。
「侵入者です」
その言葉にパルは叫びそうになったが、ぐっと我慢した。マサゾウだ。マサゾウが来てくれた。憂いの表情は一変、明るく晴れやかな顔になる。その表情に今はすっかり心酔しているファイアボディだけでなく、ヒャクすらも一瞬目を奪われた。
「ふむ、お前に任せよう」
「御意」
ジョンに頭を下げ、ヒャクは部屋を出て行った。
「さあ、いよいよじゃな」
「マサゾウが勝つに決まっておる」
「ふふふ、それは運命が決めるであろう」
再び睨むパル。ジョンはそれを受けてまた不敵に笑った。
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