第65話 二人の想い
「マサゾウ、近々事態が動くぞ」
早朝、オルソンが正蔵の住居に来るなり話し始めた。
「七日後だ。七日後にジョン様がゼノビア様を連れて屋敷を出る。観衆の前で王位の引き継ぎを宣言するためだ」
オルソンの情報によればジョンがパルを自分に代わる新しい女王だと紹介する演説が七日後に行われる。場所は数年前に作られた大きな競技場。
パルが女王を名乗れば、いよいよルビニアとの国際問題になる。それを阻止しようと暗殺者が動くだろう。特に厳重に警戒された本拠地から演説会場まで、そして演説のために姿を現す時が最も狙われるだろう。
「少なくとも治安部の暗殺部隊は屋敷から会場までに狙う可能性が高い」
「もしルビニア政府がその情報を掴んでいたら、そっちの暗殺者もそのタイミングか」
「その可能性は高いな。屋敷はスチームロボだけじゃなく武装した警備も多いからな」
ならばフレイルを始めとしたルビニア保守派もそのタイミングか。いや、だからこそ屋敷に襲撃か、あるいは女王宣言後か。二人の話し合いは続いた。
「危険ではないのか?」
パルは不安を漏らした。いよいよジョンがパルを女王として継がせる日を決めた。それも、わざわざ市民を集めて人前で宣言するのだ。
「もちろん我らの命を狙うやからが集まってくるじゃろうな」
「ならばどうしてじゃ?」
「国民の前に現れない王などおるまい。それにお前に王位を継がせる前に敵を一掃するつもりじゃ」
「ふむう……」
パルの不満は顔に出ていた。自分が王や独立を宣言した時はスピーカー越しだったというのに。
自分を人前に出すのは、また運命とやらを測るつもりなのだろうと思った。祖父が何故そんなに孫の運命を測るのか、その理由をようやくパルもわかってきた。運命を乗り越えるたびに、自分が特別なのだと、選ばれた者だと思わせるためだ。ジョンの思惑はわかっていても、少なくとも一市民として生きてはいけないのだと思わずにはいられない。
どれだけそれを望んでも、周りはそれを許さない。誰かがここから連れ出して、自分を知らないどこかに連れていってくれたら。どんな所にも忍び込んで、どんな強い相手も退ける。
……影の死神。
いくら警備が厳重でも影の死神なら忍び込めるはずだ。ならどうしてまだ助けに来ない? あの体の大きな軍人との戦いで大怪我をしたとは聞いたが……。
正蔵のことを考えるとパルは胸の奥が締め付けられる。怪我や警備が原因で助けに来られないのならいい。しかし助けに来ない。来るつもりがないのなら。そう考えることが恐ろしかった。
再び正蔵のビル。オルソンはテーブルに街の地図を広げ話し合っていた。
「パルさんを狙う勢力は三つだな?」
「ああ、警察の暗殺チーム、ルビニア政府からの殺し屋、フレイルの組織」
「その三つを対処すれば、パルさんはしばらく安全なのだな?」
「しばらく……はな」
女王を名乗らされる前に助け出して事が収まるまで市中か、あるいは国外に隠れられれば……。そのためには一時的でもパルを狙う勢力を潰し時間を稼ぐ必要がある。そして。
「場合によっては祖父を手にかける必要もあるのか」
「……」
オルソンとしては答えに困る。ジョンは本来仕えるべき人物であり、この街を発展させた人物でもある。
「そうだな」
だがオルソンはそう答える。先日は謝っていたが、結局ずっとパルの味方でいてくれる。危険を顧みずに警察に残って情報を集めてくれている。
「フレイルは数十人、少なく見積もっても50人は超える騎士を準備しているようだ。治安部の暗殺チームは10人から20人ほど。ルビニア政府の暗殺者は、すまない、情報を手に入れられなかった」
「いや、十分だ」
敵勢力は三つ、いや、ジョンも含めれば四つ。治安部は約20人。フレイル一味は50人以上。ルビニア政府の暗殺者は人数はわからないが入り込んでいる。
そしてジョンの組織は1万はいるという。
単純な話しだ。敵の戦力を潰し、パルを助けて隠れる。その後は戦争になろうがどうでもいい。そう思う正蔵は、パルを可哀想な少女とは思っていない。
いつからだろう。パルはただただ自分の主であると、パルのためならいくらでも命を捧げると。それに疑問を感じなくなったのは。
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