第52話 祖父との再会

 ジョンの屋敷に戻ったウルフ。ヒャクとメイドに見守られながらパルは大人しく紅茶を飲んでいた。怯えている様子はない。さすがだがとウルフは思う。

「大人しくしていたようだな」

「マサゾーが来るまで騒ぐつもりはない」

「ならばついてこい。お前に会わせる方がいる」

「その者が今回の騒動の主犯か」

「そうだ」

 ウルフはパルを連れて屋敷を歩き、奥の部屋にある扉を叩いた。

「姫をお連れしました」

「入るがいい」

 中から聞こえるしわがれた声。

「失礼します」

 ウルフは扉を開けるとパルを中に招き入れた。

 広いが薄暗い部屋。中には豪奢な椅子に座る奇妙な老人が一人。左の手足が金属で出来ていて、顔の半分も機械仕掛けだ。すっかり変わり果てた姿。だが知っている。

「ゼノビア。久しいな」

「おじいさま? おじいさまなのか? 生きておったのか。五年ほど前に事故で亡くなったと聞いたが」

「お前と同じくな。死んだはずの祖父と孫の邂逅。グレイタウンではなにがあってもおかしくない」

「そうじゃな……」

 パルは複雑な表情をした。祖父が生きていたことは嬉しいが、自分をさらった犯人でもあるからだ。

「さて、積もる話はあるがそれは食事をしながらでよかろう。ファイアボディ博士、孫にふさわしい衣装を」

 ジョンの呼びかけに答えるように奥から白衣姿のグラマラスな南方人が現れた。左手が蟹のハサミのような義手をしている。

「姫様こちらへ」

「うむ」

 祖父の部下と知ってパルは素直に従った。

 部屋にはジョンのウルフが残った。

「ウルフよ、ご苦労であった」

 ジョンはウルフをねぎらう。

「いえ」

「これで必要なものは総て揃った。間もなく計画は最終段階にはいる。ウルフ軍曹にはより一層働いてもらうことになる」

「なんなりとお申し付けください」

「うむ、すまぬのう。最終計画が動き出すと自由な時間も取れなくなるだろう。なにかやり残したことがあるのなら、それまでのうちにやっておくがいい」

「お心遣いありがとうございます」

 ウルフの心情を知ってか知らずか、ジョンの言葉にウルフは頭をさげた。


 パルをさらわれた正蔵は、蹴り落とされた川から這い上がると警察署のオルソンを訪ねた。

「そうか、パルちゃんが連れ去れたのか……」

 オルソンは頭を抱える。正蔵は相手の特徴、オオカミ仮面の巨人や中年ニンジャなどを説明した。

「ジョン様の部下だな。なら命の危険はないだろう」

 犯人がルビニアではなく、とりあえずは安心した様子だ。

「居場所に心当たりは?」

「屋敷は知っているが、そこにいるとは限らないな。影の死神が助けに来ると予測しているだろうからな」

「そうだな……」

「少し時間をくれ。こちらで調べてみる」

「ああ、早く頼む」

「さっきも言ったが命の危険はまずない。あまり早まった行動はするなよ?」

「わかっている」

 オルソンと別れると正蔵はビルに戻り道具の準備を始めた。ニンジャ刀、煙玉、毒針、スチーム機械。懐に手を伸ばし小袋を取り出す。中には秘薬が入っている。命を削り戦闘力を飛躍的に上げる故郷の秘薬だ。

 敵の本拠に侵入して、あのオオカミ仮面や人狼を相手にパルを救い出さなければいけない。ああ、なんて……。

 だが正蔵の表情に絶望はない。むしろ歓喜すら見て取れる。困難であればあるほど、命がけであるほど道具の本懐を感じているのだ。

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