第51話 強き狼

 オオカミ仮面の男。スチームロボとの戦いの後に剣を交えたが、強い。スチームロボより強敵と感じた相手だ。

 だが今は倒す必要はない。一撃を与えればすぐにパルを追って逃げればいい。

むしろ相手は複数。死を恐れぬ人狼に老練のニンジャもいるのだ、長期戦になるほど不利になる。正蔵が覚悟を決めた瞬間、ウルフが話しかけてきた。

「影の死神よ、お前はなんのために戦う? なんのために生きている?」

 気勢をそがれた。だが。

「パルさんのためだ!」

 正蔵はすぐに答えた。

「そうか……」

 ウルフは、仮面で表情はわからないが何故か自分をうらやましがっている、正蔵はそんな気がした。

 と、一瞬の精神の空白をついて正蔵が仕掛ける。狙うは脚。一撃が入れば治療だけでも十分に時間が稼げる。スッと体勢を落として太ももを狙う。もらった。正蔵の一撃はしかし体を回して避けられる。

 流れるように追撃を放った正蔵だが、またしても空を切る。ウルフは回転しながら飛び退き、さらに丸太のような脚で回し蹴りを放った。正蔵に反射神経を持ってしてもバックステップでダメージ軽減がようやく出来た程度で、その威力は体を宙に浮かせし、そのまま後ろの大きな川まで弾き飛ばした。

「姫を追うぞ」

 ウルフは人狼と中年ニンジャのヒャクを連れてパルの後を追った。少女と巨人。ウルフはすぐにパルに追いついた。巧みに誘導されて行き止まりに追い詰められたパルは買ったばかりの折りたたみナイフの刃を自らの喉元に当てる。

「なめるな。キサマらに利用されるくらいなら自ら命を絶つ」

 強い。それがウルフの素直な感想だ。もちろん肉体的にではない、その精神が強いと感じたのだ。さすがは主の孫娘だけはある。さてどうしたものか。

「お前達は下がっていろ」

 ウルフの命令でヒャクと人狼達は姿を消した。しばしの対峙。そしてウルフから声をかけた。

「影の死神を信じていないのか?」

「なんじゃと?」

「助けに来ると、信じていないのか?」

 ウルフの問いかけにパルは少し悩み、そしてナイフを捨てた。

「……ふん、言いおる。よかろう、おとなしく捕まってやる。ウチはマサゾーを信じておるからな」

「それでいい」


 パルを拘束することなく大通りに用意していた大きなスチームカーに乗せる。運転はヒャクで、後部座席にウルフと人狼の大きな体が三つ。そして小さなパル。車内は無言だったが、パルに恐れている様子はなかった。

「旦那、追っ手のようです」

 しばらく走っていると運転しているヒャクが声かかけてきた。正蔵が助けに来たのかと期待したパルだが、どうやら違う。変な鉄仮面にやけに太い腕の男達がマントをたなびかせながらスチームバイクで走ってくる。人数は三人。ルビニアの騎士達だ。

「俺達を張っていたようだな」

「どうしやす?」

「俺がやる」

「わかりやした。姫はお任せください」

「頼んだ」

 ウルフは車から飛び降りたと同時にバトルアックスを投げた。バトルアックスは回転しながら仮面の騎士に当たりスチームバイクから落とした。

 ウルフは地面で二回転すると体勢を立て直して並んで走る残りの二人に向かって跳び蹴りをする。まさか真正面から向かってくるとは思わなかったルビニアの騎士達はスチームバイクから蹴り落とされた。

 本来ならそれで片がついたはずだ。

「ほう」

 ウルフは声を漏らした。倒したはずの三人とも立ち上がり、それぞれ剣を抜いてウルフを取り囲む。バトルアックスを当てた仮面騎士すら胸から血をあふれさせながらも、しっかりと剣を構えている。

「たいした体力と精神だ。これこそが姫のために戦う騎士というものか」

 ウルフは感心しながらそう言った。

 ビシッ。何かを弾く音が聞こえた瞬間、ウルフは素早く体をかわした。後ろの仮面騎士が鉄球弾を飛ばしたのだ。腕だけスチーム機構で強化している仮面騎士は、小さな鉄球を指で弾丸のように飛ばして武器にするのだ。

「なるほど、面白い武器だ」

 三人の強敵に囲まれながらも余裕を見せるウルフ。まずは正面、蹴り落としたうちの一人の仮面騎士に向かう。相手は縦一文字に剣を振るった。スチームアームで強化された速度とパワーの一撃だが、ウルフはその腕を掴んで腹に膝蹴りを入れた。仮面騎士も体は大きかったが、それでも宙に浮くほどの膝蹴りだ。悶絶する仮面騎士から剣を奪うとその首を切り落とした。

 仲間の死にも怯まず胸から血を流す仮面騎士が自らの命も省みずに突っ込んでくる。同時に後ろの仮面騎士が無数の鉄球を掴んでまとめて投げつける。ウルフは太い腕で頭をかばい、側面で鉄球を受け止め、仲間の鉄球を受けながらも突っ込んでくる仮面騎士には奪った剣を横に薙いで牽制した。

 しかし仮面騎士は自分の剣でそれを受け止めながらなおも突っ込み空いた手でスチーム機構で強化された拳……は当たらなかった。ウルフの剣撃は片手ではスチームアームですら衝撃を受け止めきれずに体勢を崩されたのだ。そしてそのまま体勢を立て直す前に胸に剣を突き立てられた。

 ウルフは剣を刺したまま最後の一人に死体を投げつけた。追撃の鉄球弾を準備していた仮面騎士は仲間を死体を避けると面前にウルフの姿。速い。鉄球弾を持っていた右手の拳を握りそのままウルフに突き出す。スチーム機構で放たれる強靱な拳は当たればウルフといえど無事ではすまない。スピード、破壊力、どちらも申し分ない打撃は軽く手で弾いて受け流されて、そのまま肘鉄を顔面に食らった。金属製の仮面はひしゃげたが、仮面騎士は踏ん張り左手の剣を振るう。ウルフはその精神力に感心しながら剣撃を避けて後ろに回り込むと、頭を腕で包んでそのまま首をへし折った。

「信念、忠誠。これが生きるということか」

 ウルフはぽつりとつぶやくと、パルを乗せた車の後を追った。

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