第47話 疑惑の依頼

「このタイミングで?」

 警察の治安部に所属するオルソン・ブラウンは思わず口に出した。上司から裏仕事の依頼、つまり正蔵への暗殺依頼を受けたのだが、その内容に驚いたのだ。

「少女のことか?」

「そうですよ。いまこのタイミングでルビニア要人の暗殺だなんて」

「落ち着け。これは前々から調べていたことだ。ゼノビア様に関わりすぎているから色々と疑ってしまっているんだ」

「そうでしょうか……」

 オルソンは納得しにくかった。確かに最近はパルのことを調べることが多かったし、今回のターゲットを治安部が前々から調査していたのは本当だ。

 吐き気のする悪党だ。家族の一人と引き換えに大金を渡す。家族愛やプライドを潰す行為。

 何度かその連れ去れれら被害者の死体が見つかっている。どれもスチームガンで撃たれた痕があり、処刑や拷問というより逃げているところを撃たれた。つまり狩りのようにして殺害されたのだろう。

 だが、他国。それも隣国ルビニアの要人ということもあり表だった捜査もできなかった。それが今になって急に犯罪の証拠と犯行場所の情報が手に入った。善良なルビニア人からの情報提供ということだが、何故いまなのだ? そう思わずにはいられなかった。


 夕刻。

「オルソン、大丈夫か? ずいぶんやつれているように見えるが」

「はは、まあな……」

 いつものバーで正蔵はオルソンに会った。見るからにオルソンは疲れているようだった。

「それで今日は仕事か?」

 正蔵は単刀直入に訊いた。

「ああ、すまない。パルちゃんのことで大変な時だとは思うが」

「いや、平和なもんだよ」

「それならいいが……」

 オルソンの心配は杞憂で、ここしばらくは平和そのものだった。パルの祖父ジョン一派がちょっかいをかけてくることなく、見張られているようなこともなかった。パルは友人の死からも立ち直り、前のように近所の子ども達とよく遊んでいる。

「仕事の内容は?」

「これだ」

 オルソンはメモを渡した。正蔵は一読すると火をつけて灰皿に落とした。

「人間狩り。ルビニアか」

「ずっと疑いがあったが、ようやく確かな情報をつかめた。だけど警察は手を出せない人物だ」

「わかった。殺す前に少し相手と話すくらいはいいだろ?」

「ああ、好きにしてくれ」

 淡々とした会話が終わり、二人してエールを口にした。

「このタイミングでルビニアの要人。俺はどうにも陰謀を感じてしまう」

 いくら正蔵が優秀とはいえ命がけの仕事だ。心配を口にせずにはいられなかった。

「かもしれないが、どのみち死に値する悪党なんだろ?」

「それは……間違いない」

「ならいいじゃないか。それに罠だったとしたらルビニアがパルさんの存在に気づいていることがわかるしな」

「そう言ってくれると助かるが、十分注意してくれ」

「わかっているよ」

 そうして二人はバーを後にした。

 オルソンは不安そうだったが、正蔵は望むところだった。スチームロボの件といい、裏仕事を通じての罠は初めてではない。パルの情報が増えるのなら。それでパルの安全が増えるのなら。

 パルのためなら正蔵にとって危険など意味をなさないのだった。

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