第37話 組織誕生
暗殺未遂事件から一年後の事である。深夜であった。外は大雨が降り時々稲光が走っている。ジョンの屋敷の一室。大きなテーブルを囲み5人の男女が座っている。
「みな、よく集まってくれた」
ジョンは左手と左足を剥き出しの義肢姿でやってきた。天才博士達のおかげで一人で歩く事が出来るようになったのだ。
ジョンは彼の為に用意された豪奢な椅子に座る。こんな深夜。このメンバーだけが集められた事にみんな息を飲んでジョンの言葉を待った。
「みなに聞いてもらいたい計画がある。そのメンバーとして5人を選ばせてもらった」
そしてジョンは自らの計画。野望を語った。国に尽くし、国民に尽くしてきた男が生死の境をさまよって出した答えである。それは途方もない計画だった。いや、ここにいる者にとっても破滅しか道はないとさえ言える。
しかし選ばれた5人は誰も言葉を挟むことなく聞いていた。
「これがワシの計画じゃ。もちろんワシ一人ではなにも出来ない。みなの協力を得ても難しく、野望を叶えてもすぐに終わりえる。それでも頼みたい。みな、協力をしてくれぬか?」
ジョンは一つだけの目と機械の目でみんなを見た。
「アタシはもちろんジョン様、いえ、陛下に従いますわ」
いち早くファイアボディが答えた。苦界から救ってもらった恩を返す為ならなんでもするつもりだ。
「言うまでもないですが、私も陛下に尽くします」
対抗するようにスノウレディも答えた。
「うむ、両博士には特に期待しておる。頼んだぞ」
ジョンは満足そうにうなずく。すると一人の男が立ち上がった。奇妙なクチバシを着けた貴族風の中年男である。
「陛下。ああ、なんとも素晴らしい言葉。どうぞ私はクロウ伯爵とお呼びください。私もこの身の総てを陛下に捧げます」
「クロウ伯爵。この街に人脈を持つ貴殿には色々と頼むことになろう」
「お任せください」
クロウ伯爵は大げさに会釈をした。
「自分は」
2メートルを優に超す大男が話し始めた。
「自分と人狼達を救ってくれた恩。それはもちろんありますが、それ以上に陛下を……」
大男は口ごもる。
「かまわぬ、申してみよ」
「言葉を知らない育ちなのでお許しください。そのような体になっても、なお壮大な野望を持つ陛下を自分は尊敬しています。どうぞこの身でよければ自由にお使いください」
「ウルフよ、ウルフ軍曹よ。そなたはこの国で一番強い。実戦においては大いに期待しておる」
「はい」
大男、ウルフ軍曹はジョンを真っ直ぐ見て答えた。全員の目が小太りの東方人に向いた。
「ええ、ええ、もちろん。ワタクシも仲間になりますとも」
小太りの男は汗を吹き出しながら答えた。
「ふむ、みなと同じくコードネームで呼びたいが、なにか希望はあるか?」
「そうですね、それでは」
「フロッグでいいでしょ。カエルみたいな顔をしているんだから」
スノウレディは冷たく言い放つ。
「ス、スノウレディ様ぁ」
「うむ、フロッグ殿、表向きは活動できぬ身ゆえ、我が組織の資金はそなたに頼む。何事においても金銭は重要であり、それはつまりフロッグ殿の力にかかっておる」
「うふぇっうふぇっ、お任せください」
フロッグは嫌らしく笑って答えた。こうしてジョンを陛下と仰ぐ組織が生まれた。
ファイアボディ博士に与えられた任務は戦闘用スチームロボを作る事だ。1体で軍人100人に匹敵する戦闘能力を持ったスチームロボを自立駆動させるには、制御部分にスノウレディの頭脳が必要であったが、それ以外の部分ではジョンの要求に応えられる性能を作り上げていった。
スノウレディへは新兵器の開発を命じられた。これが完成すればグレイタウンを完全に手中に収められる。そんな新兵器だ。だが、科学とはいえぬオカルトに近い兵器構想なので、その開発は困難を極めることになる。
クロウ伯爵にはグレイタウンの裏人脈を増やし情報収集に当たらせた。クロウ伯爵はその期待に応えて貴族、ギャングを問わず人脈を広げていった。
フロッグは表向きは東方人向けの金融業をしていたが、ジョンの持つ各企業から金を集めて運用して増やすと、開発や買収などの資金にした。ジョンは王室からの監視対象だったが、フロッグの手腕により王室や政府に知られることなく大金を計画に投入することが出来た。こんな男でもジョンが認めただけあって、こと金銭の扱いに関しては優秀なのだ。
ウルフ軍曹には軍の動きの監視と敵対する相手の暗殺に当たらせた。目立つ人物だが、暗殺も含めて戦闘面に関してはウルフほど優秀な人物はいなかった。巨体に似合わず慎重繊細に動くことができ、潜入も破壊もお手の物だった。戦闘面ではもちろんウルフに勝てる人間などいなかった。
静かに、そして確実に計画を進めるジョン。暗殺未遂から3年。組織を作ってから2年の月日が経った。
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