第50話:開封
いつも通りであれば手の中に十枚のカードが現れる、筈なのだが。
「パック、ですね」
「パック、だな」
現れたのは中がわからないように梱包されたカードパックとしか言いようのないもの。
俺が破こうとするとアオが羨ましそうな顔でこちらを見てくる。
どうせもう少し引くつもりだし構わないかと、混沌パックを購入し、現れたパックを手渡す。これ一つで千万CP。着々とインフレが進んでいる気がする。
アオが思い切ってパックを破り、中のカードを取り出す。
「ケント、ランダムパックって最高でレア度幾つでした……?」
「レア度8、魔法カードの雷霆の光槍だな」
じっとそれを見つめるアオ。思わずパックを破る手が止まる。
「これ、どう思います?」
「……何だこれ」
名称:
レア度:9
分類:アイテム
説明:体内に取り込むことで、対象に応じた能力を構築する。但し、経験が乏しい場合能力には制限がかかる。
変換CP:#NULL!
「これもバグってるのか」
「これも?」
「あーいや、こっちの話だ」
誰が取り込むかで価値が変わるから変換CPが表示できないのか。
どうなんだろう、これ。まぁでも、経験云々と書いてるからこれはアオが持っておくのが一番良さそうだ。
「他は?」
「あ、はい」
レア度5:黄金林檎
レア度3:パワープロテイン
レア度4:鉛の価値
レア度8:天墜
五枚しかない、のか。レア度はどれも高いが、枚数が少ないというのは考えものだ。ランダムパック百回分だし。
レア度の最低はおそらく3。まぁ平然と1のたわしが出ても不思議ではないけれど。
【レア度5:黄金林檎】は欠損を含む怪我の完治、【レア度3:パワープロテイン】は副作用なしのドーピングアイテム。【レア度4:鉛の価値】は精神汚染に耐性を得るアクセサリみたいだ。
「天墜ってのは魔法、だよな。使い捨てなのか?」
「あ、みたいですね」
他のカードで隠れて見えなかった説明文に目を通し、アオが答える。
使い捨ての魔法カードはかなり強力だ。使い捨てであることでレア度が何度でも使えるものより下がるみたいだが、魔力消費はなく、ある程度の自由も利く。一度きりだがかなりの切り札になることは間違いない。
「まぁいいや、そのカードは全部アオが使ってくれ。俺が使うより良さそうだから」
「良いんです?」
少し不思議そうなアオの確認に頷いて、俺は自分の手元のパックを開封する。
「俺ってもしかして運が良くないのか?」
レア度3:超高級カニカマ
レア度4:アイアンシェルクラブ
レア度4:王の鶏冠
レア度3:カモミール
レア度8:古龍の卵
レア度3のカニカマに、アイアンシェルクラブってのも食材みたいだ。で、よくわからないトサカに薬草と銘打たれたカモミール。
最後に古龍の卵。
「今日の晩御飯かな?」
「その卵って無精卵なんです?」
名称:古龍の卵
レア度:8
分類:アイテム
説明:古龍が産み落とした卵。所持者の魔力を吸収し、孵化する。食べると美味。
変換CP:100,000,000
「あーいや、孵化するっぽい。というか、これ絶対当たりだな。一億か」
「変換するんですか?」
「……やめておこう。今は戦力が欲しいし」
その言葉にアオが首を傾げる。
「ケント、強くなりたいんですか?」
「……これまではどっちでも良いと思ってた。けど、最近頑張らないとなって思うからさ。どうせなら最強を目指そうかと思う」
「なるほど、じゃあライバルですね」
「そだな。さて、次いくか」
俺は超越魔法パックを選択する。
俺の手の中に光が溢れ、先ほどのようにパックが現れる。混沌パックと同じCPを消費しているため少しだけ緊張しなくもない。
「まずまずかな」
レア度4:茨の道
レア度6:魔鎧
レア度6:障壁
レア度5:氷棘
レア度5:大瀑布
「強そうな魔法ばっかりですね」
「まぁ弱くてもどこかしらでは使い道あるだろうから。使い捨てはっと」
どうやら大瀑布だけみたいだ。他の魔法は何度でも使える上にどれも心踊る説明文ばかり。【レア度4:茨の道】だけ少し使いにくそうだけど、有用な事に間違いはない。
【レア度6:魔鎧】は、よくある身体強化的な能力らしい。魔力による全身強化、耐性獲得と考えるのが良さそうだ。もしかしたらこれで俺も近接戦闘が出来るようになるかもしれない。
【レア度6:障壁】名前からして【レア度5:防壁】のお友達だ。説明を読む限りでは、防壁は物理耐久に優れ、障壁は魔法を防ぐ事に特化しているらしい。こちらも要検証だな。雷霆の光槍の余波をどの程度で防げるかは重要だ。
【レア度5:氷棘】指定した場所に氷の棘を生成する魔法。これも使ってみてだな。魔物をあっさり貫けるようであればかなり有用だ。何せ俺にはほとんど攻撃魔法がない。
雷霆の光槍は論外だし、炎葬も過剰だ。凍結はそもそも触れないといけないから無理。これは期待しないほうがおかしい。
「今度試さないとな」
「ですです」
「んじゃ、最後にレア魔物パックだ」
「いやー、仲間が増えるって良いですね」
そしてレア魔物パックを押したその時、全身に悪寒が走る。ドス黒い闇に包まれたカードが一枚だけ、手元に現れる。パックなのに一枚しかないなんて冗談を言う余裕は無かった。
不穏な状況を感じ取ったのか、アオが腰の剣に手を伸ばす。
「アオ、戦闘準備だ」
「わかりました」
俺も今入手したばかりの魔鎧を発動し、何が起こってもいいように備える。
カードが強引に現界する。
現れたのは漆黒の鎧に身を包んだ女。血で染まったかのような赤黒い髪が揺れる。燃えるような赤の瞳が俺を直視する。
「問おう。貴様が私の主か?」
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