第49話:パックが引きたい

 慰労会という馬鹿騒ぎの翌日、忘れていたことを思い出した。


「ユノのあのカード、確認しとくか。素材の変換もしておかないと」


 アオは朝早くから図書館に行き、レインは気づいたら居なくなっていた。つまり今の俺は自由という事だ。


 今ならカードパックで無駄遣いしても誰にも何も言われる心配はない。


「まずは例のカードだ。えっと、どこだっけな」


 パラパラと本を捲るも見つからない。無くしたなんてのはないだろうし、と思ったその時、一気にページがひとりでに捲れていく。


 名称:◼️者?◼️

 レア度:??

 説明:??????ä½????ºã????é­???????è¶?é«?æ¿?åº?????????½ã?¼ã?¹ã????³ª???????????

 変換CP:#NULL!


「盛大にバグってるな……結局何なんだ、これ」

「や、この前ぶり」


 突如、俺の後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、慌てて振り向くと、そこにはユノの姿があった。


「なんでここに……?」

「さっきも言ってたけど、それ私の依り代だって説明しなかったっけ? 勘違いだったかな」

「そう、なのか。ここにユノがいるってことはシンは?」

「内部からの封印は無くなったから動き易くはなっただろうね。まぁまだ暫くはあの迷宮の中さ」


 やっぱりシンの封印装置的な役割もあったのか。


「当然さ。でもこれで君は万が一何かが起こった時の切り札を手に入れたってわけだ」

「戦える、のか?」

「君の使ってる千年原始人のざっと三十倍くらいは魔力を使うけどね」


 てことは一時間あたり2700万も魔力を使うって事か。いや、流石に大食らいすぎでは。


「最低ラインがそれだ。まぁでもそれだけだと千年原始人よりは弱いかな」

「どういう意味だ?」

「私が戦うには装備が必要だからさ。一級品のね。かつての装備も取り込んではあるけれど、それも含めて召喚するなら百倍は下らないだろうから」


 1レインがおよそ一時間で九万。千年原始人はその十倍で九十万だ。つまり制限なしの召喚だと一時間に九千万。


 千レインは伊達じゃないな。一分間ですら千五百万。最大魔力量を軽々とオーバーだ。怪物か。


 生粋の生産職なんて言っていたがこの分だと信用できなさそうだ。というか、それ今召喚してて大丈夫なのか。


「まぁ無理だろうね、あと五分くらいが限度かな。急激に魔力が減少するとセーフティで大抵の人は気絶するから。んー、今の君の魔力量はっと」


 パラパラと当然のようにユノが本のページをめくっていく。


「お、1000万超えてるね。君こっち来た時どのくらいだったの?」

「多分500万くらい、かな」

「あっはっは、バケモンかよ。君が来たのって確か一ヶ月くらい前だよね。どんだけ過酷な訓練してんのさ」


 過酷な訓練も何も、一切した覚えがないから困る。そもそも俺が訓練したのなんて魔力の制御くらいだ。ウサギと戯れている時に思いつきでちょっとやったくらい。

 あれを過酷といえばちゃんと鍛えてる方々に申し訳ない。


「あぁ、そういう事か」

「一人で納得してないで教えてくれよ」

「召喚だよ。今の感じだと自然回復は大体一分間に3500くらいか。で、スライムのあの子が2000くらい使ってる。これが常時行われてるってのが原因だね」


 それの何がおかしな事なのだろうか。ちゃんと回復してるし特に変なことではない気がする。


「何となく何を考えてるのかはわかるけど、十分変態の所業だよ。魔力を消費するのは疲れるんだ、生命力そのものだからね。ほとんどの魔法使いは魔法を使いたがらない。君みたいに常時魔力を使ってるなんて言ったら白い目で見られるはずさ」

「じゃあ一体魔法使いはどんな魔法を……」

「ま、だから大魔法は使わないし使えない。三百年前は効率厨が多かったかな。無駄を省いて疲れないようにってね。自分の感覚を麻痺させてから使う奴もいたなぁ」


 そういえばこちらの世界で魔法使いにはほとんど会ったことがない。精々レースくらいだ。騎士団でも魔法を使って戦っている人はいなかった気がする。

 というかそれならレースってかなりの変態なのでは。


「ユノはどのくらい魔力があったんだ?」

「君の三割くらいかな、多分」

「じゃあなんでユノを召喚するのはそんな桁違いの魔力を使うんだ?」

「今、私の存在は酷く不安定なんだ。アンデッドでもないのに魂だけで活動してるからね。君のカードコレクターで強引に存在証明して貰ってるわけさ」


 ちょっと何いってるかわからん。どこからどう見ても今目に映るユノは本物だ。魂だけとは思えない。

 試しにその頰に触れてみる。


「な、何するのさ」

「……悪い。いや、身体どうなってんのかなって」

「私だから良いけど、君そんなことばかりやってるとそのうち捕まるよ?」


 むにっと伸びた頰を不機嫌そうに歪める。


「下らないことをやってるから時間がなくなってきちゃった。一つだけ言っておこうと思って出てきただけだったんだけどな」

「それは?」

「召喚されてない時でもちょっとずつ魔力を頂戴するからそのつもりでよろしくってこと」


 今自然回復が一分間で1500くらいか。ここから更に減るのか……


「心配しなくてもマイナスにはしないよ。じゃ、そゆことで!」


 そう言ってユノは姿を眩ました。

 多分この文字化けしてるカードを使えば呼び出せるんだろうけど、消費を考えるとする気にはなれない。

 五分程度の、この短時間で本当に大量の魔力を消費した。


「余計な出費が嵩むなぁ」


 青ポーションのカード化を解除し、飲み干す。これを飲んでおくと半日程度回復量が二倍近くまで跳ね上がる。何があるかわからないから魔力は八割程度は最低キープしておきたい。


 そのために三十万ディル消えるのも悲しいが、必要経費と思うしかない。


「で、素材がっと」


 ずらりと並ぶ死霊騎士のカード。残念ながら召喚用のカードはないらしく、全てアイテムカード。だが、俺はそれらの変換CPを見て息を飲む。


「百二十万……?!」


 今見た一枚がおかしいのかと思い、他のカードも確かめるが、多少の上下こそあれど、ほとんどが百二十万前後に収まっている。百五十枚くらいあるから、全部変換すれば一億八千万、か?


 俺は急いでパック購入を確認する。そこにあったのは変わらない文字。


「まさか、引けるのか」


 魔物パック……50万CP

 レア魔物パック……5000万CP

 エクストラ魔物パック……50億CP


 初等魔法パック……20万CP

 中位魔法パック……50万CP

 上級魔法パック……300万CP

 超越魔法パック……1000万CP


 ランダムパック……10万CP

 混沌パック……1000万CP

 奈落パック……100億CP


 アイテムパック……30万CP



 気がついたら俺の手は全ての死霊騎士を変換していた。他にも色々と変換したため、所持CPは二億。今まで千万行くかどうかだったのに一気に二億か。


 数十万でやりくりしていた頃が懐かしい。


「いや、冷静になれ俺。ランダムパックを二千回引いた方が良いんじゃないか。レアはその中にも入ってる筈。いや、でも……」


 引きたい。引いてみたい。

 混沌パックやレア魔物パック、超越魔法パックからどんなカードが出てくるのか気になる。


 リビングの椅子で唸ってると、家の扉が開く。


「ただいま。あ、ここにいたんですか」

「あ、あぁ。アオはどうして帰ってきたんだ?」

「ちょっとケントに頼み事が」


 ニコニコしながらアオが歩いてくる。レインであればロクな頼みでないと思ったところだが、アオならそんな心配はないだろう。


 しかし、アオは常識人だ。CPの重要性も知っている筈だから、今からやろうとしてることは見せられない。

 くっそ、パック引きたいな。


「私、思ったんです。良い武器が欲しいなって」

「なる、ほど?」

「それでやっぱり良い武器には良い素材かなぁと」

「えーと、何が言いたいんだ?」

「指定購入するか、ガチャを引いてほしいんです!」


 ぱちぱちと瞬きをする。あれ、これは許可が下りたのだろうか。


「前ガチャはダメって言ってなかったっけ?」

「前も一文無しにならないようにとだけしか言ってないですよ。少しは残しておいて欲しいですけど」


 待て、なら俺がわざわざ平原まで行ってこそこそカードパックを引いていた意味はなかったということか。


「良いのか」

「良いんです。ちなみに所持CPは?」


 俺はアオに本の最後のページを見せる。人外やら殲滅者といった物騒な称号はもうこの際気にしない。


「二億だ」

「まじですか……」

「で、今まで引いてたのがランダムパックなんだが、この混沌パックやら超越魔法パック、レア魔物パック。気にならないか?」


 ゴクリとアオが唾を飲み込む音がした。


「引きましょう、これは引くべきかと」


 俺とアオは熱い握手を交わすと、混沌パックを震える手で選択するのだった。

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