第39話:昔話
「ええと、貴方方はどの程度この国の事を知っていますか。なるほど、ほとんど知らない、と。では簡単にこの国の成り立ちから話していきましょう」
門を出て、草原を歩きながら、不意にエリノアが切り出した。顔を見合わせ、俺とアオはその問いに首を横にすると、エリノアが小さく頷いた。
「この国が出来上がったのはおよそ300と少し前、国としてはつい最近のことだと言って良いでしょう。ですが、この国は少しばかり特殊なのです」
エリノアがゆっくりと、読み聞かせるように言葉を紡いでいく。
当時は国々の争いが酷く、群雄割拠と言えば良いですかね、どの国でも血と汗と死が蔓延る、そんな時代だったようです。
どの国も一騎当千の猛者がおり、一進一退の攻防が長い間続きました。ですが、その中でやはり強国という存在はありました。
ドミニク共和国とアレクシオ帝国、そしてノーザン聖王国です。
特に強力だったのがアレクシオ帝国です。今のアレクセイ帝国の前身ですね。
ドミニク共和国は侵略を続けるアレクシオ帝国から身を守るために小国がまとまった連合国家のようなものでした。
大陸全ての国を包み込んだ戦火は、夥しいほどの出血を大地に強いました。このままでは全ての土地が荒れ果て、人は弱り、国は枯れ落ちる。
それを危惧したノーザン聖王国は、ある魔法を行使しました。いえ、魔術といった方が良いでしょうか。
あの術は現在では禁術扱いで、代償が必要なものでしたから。魔法とは少しだけ性質が違うのです。
その魔術のコンセプトは、神をこの世界に下ろすというもの。宗教が強い力を持っていたノーザン聖王国。
危険だということはわかりきっていたようですが、それで神の怒りを買い、滅んだならそれまでという考えが根底にあったようです。
狂ってる? ええ、そう思うのも当然でしょう。事実、狂っていたようなものですから。それだけその時代が闇に包まれていたということです。神頼みをしようと思うくらいには。
話を戻しましょうか。
その魔術は半分成功しました。呼び出されたのは神ではなかった。しかし神に等しい力を有していました。上位世界、という概念があります。世界にも格があり、上位と下位では魂の強度が異なる。
上位世界から呼び出されたのは、向こうの世界ではただの学生と呼べる身分の者であったようです。ただの人間、しかしその身に宿る力はこの世界の人間の手には余るものだった。
そう、貴方方と
他にも異世界人はいるんじゃないかって?
良い質問ですね。いますよ、この前お会いした際に話した通りです。しかし、それはケントとアオとは違う世界からの来訪者です。
彼らもまた強力であることは違いありませんが、それでも尚及ばない。
その時に呼び出された二人と比べれば。そして貴方方とも比較にはならない。圧倒的に質が違いすぎる。
そうして、ノーザン聖王国は強大な戦力を手に入れました。二人は快進撃を続け、瞬く間に各国を平定していきました。まず、ドミニク共和国が。そして、粘りはしたものの、アレクシオ帝国も一年と経たずに降伏。
残った小国を吸収している最中、その問題は起こったのです。それが、異世界人同士の対立。
恋仲であったという記述すら残っている二人がなぜ、争ったのかはわかりません。しかし、その対立でノーザン聖王国は真っ二つに割れました。
全てを治めようとした男、シンと、全てを民の手に任せようとした女、ユノ。
争いは熾烈を極め、多くの死者が出ました。互いに消耗し、劣勢に立たされたのはシンの方でした。ユノが保有した力は『アイテムマスター』と『模倣』非常に強力な武具や消耗品を創り出し、自身も強力に成長したそうです。
対するシンに与えられていた力は『進化』と『魔導』というエクストラスキルだったようです。
窮地に立たされた彼はそれを動物や人間に使用した。彼なら耐えられた『進化』はこの世界の生物には耐えられず、亜人や、魔物と呼ばれる存在が生まれたのです。
エルフやドワーフといった亜人、魔物の出現はつい最近と言っても良いでしょう。
亜人はシンに味方する筈だった。しかし、魔物は人、亜人に関わらず襲いかかり、生みの親であるシンの言葉にすら従いませんでした。亜人もシンの敵となり、そのおかげで迫害の対象にはならなかったのです。もちろん文句を付ける人はいましたけれどね。
とにかく、その結果シンは完全に孤立し、虚の魔王と呼ばれました。
ユノは崩壊していた国々を纏め上げ、シンとの決戦に挑みました。決戦の舞台は聖王国と、シンを倒すためだけに作り上げられた国、イミテシア王国の間。
現在の公国と私たちの住むイミテシア王国アルドロン辺境伯領の中間地点。
つまり、現在のアルドロン大森林にあたる場所です。ここがこの国でも有数の魔境と化している理由は魔王の力に最も当てられた場所だからです。
七日にも及ぶ攻防の末、シンは遂に倒れたと言います。ですが、ユノもまた帰らぬ人となりました。
シンが最期に生み出した呪いは大地を蝕み、この大陸は魔物が現れる土地となった。ですが、そのおかげと言えば皮肉ですが、国々は表面上はまとまっているのです。
まぁ時折戦争は起こるんですが、そのまま大きな国家間の争いはなく今に至るというわけです。
「とりあえずこんなところです。わかりましたか?」
長話で疲れたのか、エリノアが喉を潤す。興味なさげにレインはチョコレートを口に放り込み、アオは額に眉を寄せて、口を噤んでいた。
「今回の件と、何か関係が?」
「すみません、また嘘をつきました。今回の依頼、未発見の迷宮ではないのです。未踏破なのは間違いないのですが。これは代々続いている私たちアルドロン辺境伯へユノが残した遺言のようなものです」
エリノアが真剣な表情で俺とアオを交互に見た。
「あなた方に拒否権はあります。断るならそれでも良いとありますから。ですが、私としては来て欲しい」
もう森は目の前だ。断るなら今しかないのだろう。だけど、やはり気にならないと言えば嘘になる。俺とアオは死んだか、死ぬ直前だった。この世界に来たのはきっと偶然じゃない。
何か、理由があるのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。
「ユノの言葉は、自身と同じような能力の異世界人が決戦の地近くで現れたら、自分の死んだ場所へと連れてきてほしい、というものでした」
ゴクリと唾を飲む。俺たちの前には、地下に続く階段があった。
「私たちの先祖は魔王の魔力……瘴気が薄れた頃、アルドロン大森林を探索しここを見つけ、こう名付けました。『王の墓所』と」
さて、どうしますか。
エリノアはその言葉とともに、試すような視線を俺とアオに向ける。俺たちは顔を見合わせて、どちらともなく頷いた。
再度、身の回りの確認だけして俺たちはその迷宮、『王の墓所』へと足を踏み入れた。
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