第37話:パーティー名を決めよう

 一応パーティで来れるならそれが一番良いとのことで、俺は家でアオとレインにその事を話す。大量の食事をアオとレインが競うように流し込んでいく。


「迷宮、少し面白そうですね。必殺技も少し実戦で使っておきたかったので丁度いいです」

「心配だから行く」


 何せ迷宮だ。アオは来ると思っていたが、レインが来るというとはそれほど思っていなかった。レインコートを俺に渡してからというもの、それほど昼間は俺の側に居なくなっていた。


「平原くらいならその分裂体コートを突破出来るような魔物はいないはず。でも迷宮はわからない」


 であるらしい。そんな危険は無いと言いたいところだが、実のところわからない。

 何せ未侵入とのこと。蓄積された魔力量から少なくとも中規模は越えているとの事だが、それならば見つからないのがおかしいらしい。


 場所がアルドロン大森林の近くらしく、王国でも有数の魔境のためそんなことが起こる可能性も無いわけではないとのこと。


「分裂体の耐性獲得の為に森で戦ってたけど効果はあまり出てない」

「え、あ。そんな理由だったのか」

「ケントは私を何だと思ってるのか」

「食費を気にしてたのかな、と」


 憤慨した様子で鋭い視線を向けてくるレイン。てっきり食費の捻出だと思っていたので、まさかそんな理由だったとは。


「……少しはそれもある。けど、いつもケントのために頑張ってる」

「悪かった、悪かったよ。ごめんな、レイン」


 ふと、名前をつけた時に流れ込んできた思考のことを思い出す。本当だろうか。あの時は確か食べ物のことが九割近くを占めていたような。


「むぅ」


 そう言えばこいつには俺の考えている事がわかるんだった。少し怒らせてしまったらしい。目が合うと、ぷいと視線を食べ物に逸らす。


 思わず苦笑しながら、止まっていた手を動かす。


「あと食べ終えた後で一旦どこかに集まろう」

「ん」

「りょーかいです!」


 シュノーとノノに早い所パーティ名を決めてくれと言われている。俺たちは少しずつ知名度をを上げているようで、幾つかの依頼人が指名依頼として出したい依頼があるらしいのだ。


 ヒモウサギなどという蔑称が付いても評価してくれる人はいるらしい。


 食事を終えて手早く皿を洗ってから、俺は一枚の依頼票を部屋で眺めていた。

 レインは俺のベッドを占拠しており、アオが図書館から借りてきた本をパラパラと流し読んでいる。そのアオはというと、今はシャワーを浴びている。


「アオ、遅い」

「何かあったのかもしれない。レイン見てきてくれるか?」

「ん」


 ゴロッと転がってベッドから足を下ろす。レインはぺたぺたと扉の方に歩いて行き、扉に手をかけたその時、勢いよく扉が開かれる。


 レインの腕がぐにょんと伸び、奥から上機嫌なアオが入ってくる。


「いやー、いい湯でした」

「シャワーだけだと思ってたんだけど。まぁいいや、何処でも良いから座ってくれ」

「じゃあここは頂きますね!」


 言うが早いかアオはベッドにダイブする。額に青筋を浮かべているレインに全く気付かずに。


「アオ。そこは私の場所」


 レインが液状になり、ベッドごとアオを取り込み、分裂体で雁字搦めにした状態でぽいっと俺の方に放り出した。


「ひ、卑怯ですよレイン!」

「元々ここは私の定位置。ここは譲らない」

「いや俺のベッドなんだけど」

「それより全員集まったけど話は?」


 それで済まされるのはちょっと困る気がする。未だにこいつらは俺のベッドに潜り込もうとするので今度抗議しなければならない。

 というかレインに関しては最早出し抜けない。何処に潜んでいるかもわからないから打つ手がない。


 俺は小さく溜息を吐いた。


「パーティの名前をいい加減決めろだとさ」

「何で決めないとダメなんです?」

「そこそこ俺たちのことが評判になっているらしい。指名依頼を出したい人がいないこともないらしいんだ」


 アオが得心がいったとばかりに頷いた。


「ヒモウサギの件ですね」

「いや、違うよ?!」

「周りから見たらヒモなのは仕方ない。最近の買い出し担当もアオか私が多い」


 うんうん、そうだね。でもさ、俺も料理作ってるし、ちゃんと予めまとまった金額を渡してるのにこの扱いはどうなのさ。


 役割分担の代償がこれだと言うなら少しばかり大きすぎると言いたい。


「えっと、本当にヒモになりたいなら……良いんですよ? 全て私がしますからケントはいてくれるだけで」

「それは困る。ケントは私たちが貰っていく。能力を使って魔物を召喚するだけでケントは優雅に暮らせるはず」

「いや、ヒモになりたいわけじゃないから。うん、だから今はパーティ名の事を考えようか」


 少し残念そうにアオがそうですか、と呟く。

 何でだろう。こっちに来てから身の危険を強く感じる。みんなスキンシップも多めだし、言質を取られると危険そうな問いかけも多いし。商業神の契約書スクロールを持ち出されないだけまだマシなのだろうか。


「何か良い案はある?」

「貪食の宴」

「それはレインがしたいだけだろ。まぁ、一旦保留」


 残念そうにレインが紙に記入する。アオが唸りながらペンを手でクルクルと高速で回す。

 ペン回しって意外と難しいんだよなぁと、目の前の常軌を逸した速度で回り続けるペンを見てそう思った。


「カードコレクターとブルーアックス」

「私が入ってない。却下」


 不承不承と言った様子でアオが紙に書いていく。ブルーアックス……自分の名前を模しているのだろうが、こう言っては何だが響きがダサい。


 何故か視界の端でレインが勝ち誇ったような顔をしていた。


「ケントは何かあるんです?」

「あんまり考えてはなかったんだけど、グリード、とかどうかなぁって」

「強欲、でしたか?」

「そんな感じだった気がする」


 そもコレクターとは強欲なものだ。

 うちのパーティメンバーも他のパーティと比べると欲が深い気がする。


 アオは最強を目指している。それは自分がそこに上り詰められると信じているだろうからだと思う。

 レインもその食欲は他の追随を許さない。強欲とは違うかもしれないが、暴食といえばレインだろう。


「なるほど」


 アオがグリード、と紙に書き自分の案を斜線で消した。レインもじっとそれを眺めたあと、自身の案をペンで塗り潰す。


「決定、でいいのか?」

「ん!」

「良いと思います」


 かくして俺たちのパーティ名が決定した。尚、当然のように俺のベッドが二人に占拠された。


「私たちはグリードですから」


 と良い笑顔で宣ったアオの顔は暫く忘れられないだろう。

 そう言うつもりで付けたパーティ名じゃないんだけどなぁ。

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