第34話:報告

 レースと別れた後、俺たちは鬱憤を晴らすかのように襲ってきた大量の魔物を倒し続け、そして双頭狼にマンドラゴラを見せたところ少々嫌そうにしながら案内してくれた。


 双頭狼が嫌がった理由はそのあとすぐに判明した。このマンドラゴラ、非常にうるさいのだ。ムルムルの資料によると、引き抜いたあと叫び始めるが、空中に五分ほど放置すれば、絶望して静かになるとの事だったので、俺は何も考えずに引き抜いた。それが間違いだった。


 アオはびっくりしてそのマンドラゴラの口の部分を刺し貫き、強制的に黙らせ、レインは不機嫌そうに舌打ちをした。


 また、マンドラゴラは他の魔物と共生関係にあるのか、引き抜いた叫び声を聞くたびに魔物がわんさかと湧いて出るのだ。

 千年原始人がニタリと笑いながら全てを処理し、CPとなる素材が多く集まるのも良いのだが肝心のマンドラゴラを一本抜くのにかなりの時間がかかっていた。


 そうして思うように採集が出来ない俺が取った方法は、マンドラゴラを引き抜き、防壁で挟み空中で維持するというものだ。

 六面体で覆うと、防壁は音を通さないのか、ジタバタと暴れようとするだけで、音がこちらまで聞こえない。結果としてマンドラゴラを封殺した。


 一匹だけ大きなマンドラゴラが防壁を破壊したが、五重の防壁で覆うと観念したのか静かになった。


 こうして俺たちは25体のマンドラゴラを捕獲し、カード化した後、アッカードに帰還した。



 協会のカウンター。

 思っていたよりずっと早い帰還になったが、俺たちはノノの所に報告のために来ていた。すぐにでもレインが食事をしたがったが、アオがノノを脅していたのを思い出し、先にそちらを済ますように説得した。


 そうして列に並んだのだが。


「ぐぎゅるるるぅ」

「なぁ、レイン。それわざとじゃないよな」

「違う」


 こいつは人の姿を取っているが、スライムだ。体内構造を変化させて腹の虫を再現する事など簡単なことではないだろうか。

 ふとそう思い立って尋ねると、レインが視線を逸らす。


 アタリであるらしい。


「食べ物を食べると維持に使う魔力が減る」

「わかった、行ってこい」

「ん、ありがと」


 待たせていても注目を集めるだけの気がしたので金貨を詰めた袋をレインに手渡した。

 一言例を言い、マーキングするかのように一度身体を擦り付けた後、レインは協会内に併設されている酒場へと消えていった。


 とはいってもレインの分体はくっついたままなので完全にいなくなったわけではないのだが。


「ケントってレインに甘いですよね」

「そうか? まぁレインはレインでかわいいしな」

「かわ、いい?」


 アオがピシリと固まる。不穏な気配を纏うアオに目の前の男がビクっと反応した。


「まぁ妹がいればあんな感じなのかなって。構ってほしそうによく寄ってくるしな」


 その返答で正解だったのか、アオは恥ずかしそうに咳払いした。


 それにだ。

 レインは整った顔立ちだが、見た目の年齢が違いすぎる。アオの想像しているようなことをすれば、おそらく日本の法であれば犯罪となることだろう。


 見た目の年齢であれば15歳くらいか?

 ギリギリストライクゾーンの内側ではあるが、付き合う付き合わないの対象にはなかなか考えることの方が多い気がする。


 そんなことを考えているとカウンターの前まで来ていた。


「無事で良かったです。で、依頼の件はやはり難しかったでしょうか。いえ、アルドロン大森林は近隣でも屈指の難易度の危険地帯ですので仕方ないですよ」

「何か、勘違いしてません?」


 俺は何も依頼を放棄するわけではないのだけれど、ノノは明らかに依頼を失敗したかのような扱いをしている。

 それにムッときたのか、アオがカウンターに手を置いた。


「依頼は成功のはずです。25体、取ってきたんですから」


 アオが突き刺さなければ26体いたはずなんだけどなぁ。

 俺は誰もが見ていないことを確認し、マンドラゴラが詰め込まれた袋のカード化を解除してカウンターに置いた。


 ノノが恐る恐るその袋の中を確認して、目を閉じる。


「貴方方が非常識なことは理解しました。依頼は達成となるでしょう。普通の納品依頼ならこちらで受け取って終わりなのですが、それに関しては店まで持ってきてほしいとの指定を受けています。お渡しした資料の裏に店の地図が載ってあるはずです」


そういえばそんなものもあった気がすると、資料を取り出して確認する。そこには確かに一件の店の場所と名前が記されていた。


「資料は依頼主に返却してください。それで、こちらが受領書です。サインを貰ってきてください。こちらに提出次第、依頼達成となります」

「わかりました」


 どこか疲れた様子のノノが、依頼票をカウンターの下にしまいこみ、受領書を俺に手渡した。


「それに判を貰って持って来ればBランクへの認定が出来ます。失くさないでくださいね。ところでアルドロン大森林では何か変わったことはありませんでしたか?」

「どういう意味ですか?」

「いえ、あの森に入ることが出来る方は貴重ですので依頼の後、良ければ情報提供してもらってるんですよ」


 ノノの言葉に俺は少し考える。変わったことといえば魔物が殺気立っているくらいか。

 原因はレースなのだが、そのことは言っても良いか。契約にも抵触しないだろう。


「魔物が殺気立ってましたね。原因はもういなくなったので時期に落ち着くと思いますけど」

「なるほど、その原因については差し支えなければ教て頂いても?」

「レース・アウトラインって知ってます?」


 その名前を言ったことで、聞こえていたらしい隣のカウンターの受付の人と、応対されている協会員の人が凄い勢いでこちらを向いた。


 良かった、小さい声で言って。思っていたよりもレースは有名人であるらしい。


「公国のAA協会員、灰燼ですね。彼がどうかしたのですか?」

「ワイバーンを追いかけて来たらしく、かなり強く魔物を威圧したみたいです。おかげでかなりの数の魔物に襲われましたよ。まぁレースと会えたのは良かったんですけどね」


 ノノが絶句する。

 どうしたというのか、もしかしてレースって色んなところでやんちゃしてたりするのだろうか。


「あの、ケントさん。灰燼と出会って話しをしたのですか?」

「最初に魔法をぶち込まれそうになりましたけど、仲良くなりましたよ」

「よくご無事で。灰燼はAAの中ではまともな方ですが、苛烈なことでも有名ですので」


 まぁそんな気はした。というか、まともな方なのか。逆に他のAA協会員がどんな性格をしているのか非常に気になるところではある。


「そういえば、魔物って売れたりします?」

「それはもちろん買い取れますけど。まさかアルドロン大森林の魔物ですか?」

「え、あ、はい」


 CPに変えても構わないが、マンドラゴラの依頼の達成で得られる金額は250万ディル。相変わらず凄まじい金額だが、外食した場合だと5日でなくなる金額でもある。


 よく考えなくても頭と胃袋がおかしいと思う。


 魔力で補えばもう少し食事の量を減らしてくれたりするのだろうか。


「かなりの高値が付くはずです。高ランクの魔物は強靭な武器や防具になりますから」

「どこで買取ってしてます?」

「ギルドの裏手に解体場がありますのでそちらに持って行ってください」


 ノノの言葉に頷くと、俺とアオは協会を出て裏手に回る。

 そこでは濃い血の匂いが漂っており、幾多もの魔物が凄まじい速度で処理されていっていた。


「すみません、今いいですか?」


 一瞬気圧された俺たちだが、解体場に入るとカウンターで書類と睨み合いをしている屈強な男に話しかけるのだった。

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