第31話:帰らずの森の探索
昼だというのに光の殆どが遮られ、ヒンヤリとした空気が気味の悪さに拍車をかける。地面に泥濘みがあったり、進めないほどの蔦があったりするわけでないことが救いだ。
そしてあちこちから威圧するような唸り声が聞こえる。こちらの世界に来た時より危険というか物騒になっているような、そんな気がした。
街ではベタベタと俺を触ってくるレインも、張り付いているのは同じだが、腕を絡めたり身体を預けてくることはない。
森に入る前から、レインの身体……分裂したそれが首から下の全域を覆っているが、それも安全確保に必須だと押し切られた。
更に、分裂体であるため物理耐性も完全ではないらしく、直撃をしたり、噛みつかれたりした場合は防ぎ切るのは難しいとのことだ。
アオが般若のような形相になっていたが、しばらく唸ってからそれを認めた。
つまり、余程危険な森だったということだ。よくそんなところで一泊出来たな、俺。いや、千年原始人が凄すぎるのか。
「なぁアオ」
「ハッ!」
以前との感覚の違いをアオに尋ねようとすると、アオが剣を抜刀し、空間を裂いた。
俺の目では捉えることのできない速度の斬撃。それは、近くにあった植物を斬りとばす。ビクビクビクと動いて、這うようにして逃げようとするそれに、アオがナイフを投擲する。
「ぅリィッ!」
どこから漏れたのかわからない断末魔のようなものと共に、それは地面に縫いとめられる。
まだジタバタとしていたそれにアオが次々とナイフを投げていく。
「ゥィッ!」
「ウェルゥッ」
「げヒィッ!」
そこそこ大きかったその植物はみるみる針山と化し、無表情で鬱憤を晴らすかのようにナイフを投げ続けるアオに俺は明確な恐怖を抱いた。
この前のあれは一歩間違えれば俺がああなっていたのか。
見られていることに気づいたアオははにかむように頬を染めて視線を逸らす。その仕草だけみれば、非常に可愛らしい。
「ど、どうかしました?」
「いや、流石に死体にやりすぎじゃないかなぁと」
「植物型はしぶといと本で読んでいたので。本当ですよ?! 他意はないですから!」
これ以上死者に鞭打つような真似はできないと、俺は縫い止められたそれをカード化する。
名前:マンイーターの惨殺死体
レア度:5
分類:アイテム
説明:ある協会員のストレス発散の対象となった憐れな植物。死してから7本ものナイフが投擲された。損傷が激しすぎるため素材としての価値がほとんどない。
変換CP:3600
「……」
ナイフは地面に残ったままだが、マンイーターというらしい植物のカードには、先ほどの状態そのままの絵が描かれており、ナイフの本数まで忠実に再現している。
見てしまうと哀愁を感じるのは間違いない。
これは見せられないと素早く本に収納しようとしたが、一番見られてはいけないアオに見られる。
思わぬ反撃を受けたアオは、いつぞやのような光のない目をカードに向けていたが、悪いのはマンイーターではなくアオであることに疑いの余地はない。
「えっと、何か不満があったら教えてくれ。できる限りどうにかするから」
「ケントにはほとんど不満なんてないですよ。これは少し落ち着かなかったものですから……」
少し落ち着かないという理由で惨殺死体を作り上げるアオ。アイテムカードとなったマンイーターの説明にはストレス発散と書いてあるが、他にも理由はあるのだろう。
「それってこの森が変な感じなことが理由だったりするのか?」
「あ、ケントもそう思ってました?」
少し嬉しそうにアオが答える。レインがコクコクと頷くが、レインはこの森に来たことがないだろうに。
そんなことを考えていると、レインが目を細めてこちらを見てくる。
「ケント。私たちはケントが何を考えているか大体わかる。私にも異常があることくらいわかる」
「……悪い。何だろうな、前も危険だったけど、今回は妙に殺気立ってるというか」
「多分これは」
レインが説明しようとしたその時、空気の壁が叩きつけられる。風を切る音とその巨体が宙に浮かぶ。雄々しく咆哮をあげるそれの標的は紛れもなく俺らであるらしい。
「話の途中ですが、ワイバーンです!」
「トカゲ擬きが生意気な」
ワイバーンと殺気を放つレインにより、近くの生き物が勢いよく逃げ出していく。
というか、この森ってワイバーン住んでるんだ。何となく荒野とか崖の近くに巣を作ってる印象があるんだけどな。
それとレイン。
多分向こうはスライム如きって思ってるから。
空中でピタリとホバリングしているワイバーンが急にこちらに向かって突撃してくる。
「防壁!」
まるで怪獣が突撃してくるかのような迫力。俺たちの進行方向に防壁を作り出す。一枚の魔力消費は50。薄く、けれど頑丈になるようにイメージしながら連続して20枚を一枚の壁のように並べる。
透明なため見えていないのか、凄まじい速度で突っ込んでくるワイバーンが防壁に接触する。轟音と共に何枚かの防壁が砕けた感覚があったが、防壁は依然としてそこにある。
ビタンッと一瞬防壁に張り付いた後、ワイバーンがズルズルと地面に落ちる。
首の骨が折れて、ピクピクと痙攣しているワイバーン。誰がどう見ても致命傷だった。
「交通事故って怖いですね」
こちらは動いてないので過失は無しですかね、なんてアオが呟く。
故意に事故を起こしたのだから犯罪ではないだろうか、とは突っ込まない。
それにしても一枚の防壁であれば簡単に壊せるが、二十枚並べるだけでかなり頑丈になるんだなーとそう思った。
「多分普通に並べただけではならないと思う」
「実は俺も思ってた」
割れなかった五枚の防壁を消して、事切れたワイバーンをカード化する。
先ほどの光景を見ればワイバーンの頑丈さに疑問があるが、肌触りは悪くなく、これはCPに変換せずに防具にするのも悪くないかもなとそう思った。
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