第24話:名付け
とりあえず俺はスライムに服を着せた。スライムが裸足であることに気づき、木の靴も履かせる。
どうしたものかと考えていると、スライムがとてとてと未だ展開されている防壁に近づき、殴りかかる。
ピシリと音を立てて罅が入る。次の瞬間には甲高い音と共に崩れ落ちる。
「まさか、普通の人間がいればって言ったから?」
「ん!」
振り返ると、その通りとでも言うようにスライムは頷いた。
それにしても、不用意な発言の結果スライムが擬人化するとは。
「元には戻れるよな?」
コクコクとスライムが頷くとドロリと溶けるように元の姿に戻る。あれだ、人間が溶かされてるみたいで若干ホラーだ。
消え去った服のことを不思議に思っていると、スライムが再び人の姿を取り、俺に擦り寄ってくる。かわいい。
「どうしようか。とりあえずカードに戻すか……?」
そう呟くと、これまで動かなかった表情が凄く悲しそうになり、ぴとりとくっついてくる。
日差しが厳しいのでひんやりとした身体が気持ちいい。
これはカードには戻りたくないという意思表示なのだろう。
「ブック」
俺はカードコレクターのステータスを開き、魔力量を確認する。そこまで変わらない回復量。スライムを召喚していても然程、魔力は消費しないらしい。
なら、良いか。俺自身はかなり弱いだろうからスライムがいてくれると少しは安心できる。
しかし、連れ歩くとなるとスライムと呼ぶわけにはいかない気がする。ましてこの姿のこいつをスライムと呼んでいるとどんな目を向けられるかわからない。
「名前、どうしようかなぁ。スラリンとか? いや、流石にダメか。スラ、スラ……スーラ?」
スラスラ言う男を不思議そうに眺めるスライム。俺と同じ真っ黒の髪に、元の色に近い透き通った青の瞳。肌は非常に白く、人形のよう。
ダメだ、思いつかない。
「スラ、スリ、スレ……スレイ。いやなんか男っぽくなったぞ。スレイン、レイン。まぁいっか」
そもそも俺にネーミングセンスを期待する方が間違いというもの。
気にいるかどうかはわからないが、後で改名したいなんて言い出したなら喜んで受け入れよう。
「よし、お前はレインだ。えっと、良いか?」
「ん!」
スライム改め、レインが返事をすると、消していた本が一人でに現れ、パラパラとページが捲れていく。
レア度3:メタモルスライム に名前を付けますか?
名前を付けることで、レア度3:メタモルスライム は変換できなくなり、存在がミウラ・ケントに紐付けられます。
よろしければ承諾を選択してください。
いつの間にか、レア度2だったはずのスライムが進化していた件について。というか、何だこれ。変換はするつもりはないから構わない。存在が紐付けられるってのは。
悩んでいると、レインがキラキラとした瞳を向けていた。表情があまりないのにどうしてこうもわかりやすいんだろうか。
これを見て承諾を押さないということはできない。俺は思い切って承諾を選択する。
突如起こる、全身の倦怠感と疲労感。間違いない、魔力が大量に減少した……!
存在が紐付けられるっていうのも理解できた。
膨大な情報が頭に強制的に流れ込む。レインの考えていることが明確にわかる。思考の大半が食事に向けられている。一応俺のこともわずかに考えてくれているようで良かった。食べ物だと思われてたりしない、よね?
俺があまりの情報量に少し顔をしかめていると、レインもその無表情が少し歪んでいた。おそらく同様の理由だろう。
感覚的にわかる。これでレインが万が一死んでも、俺が生きている限り、魔力とCPを払うことで復活できる。
「ケント」
「喋れるのか、レイン」
「今、理解した」
どうしよう、うちの子は天才かもしれない。
すっとレインが手を差し出す。握手、ではない。手のひらが上を向いている。精巧に人体を真似しているのかぐぎゅうという音がレインから聞こえてくる。
「お腹、空いた。カニカマ食べたい」
「そ、そうか。ところでレイン、何か変わった感覚はあるか?」
渡したカニカマを小さな口でがじがじと齧るレインが本を手に取り最後のページを開く。
俺は本に触れていることに驚いていた。誰の目にも映ってはいるらしいのだが、少なくともアオは触れることが出来なかった。
ちょんちょんと小さな手が指し示す場所。俺のステータスの下にレインの名前があった。
名前:ミウラ・レイン
レア度:7
職業:クリアスライム
能力:物理完全耐性、魔法耐性、分裂、増殖、分解、擬態、胃界、言語理解、文字理解、カードコレクター(限定)
称号:暴飲暴食、悪食、守護する者
おかしいな、カードコレクターが壊れてるかもしれない。さっきまでレインは普通の魔物だったはずなんだけど。
カニカマを食べ終えてぼーっとしているレイン。
レア度も双頭狼を超えているし、物理耐性があるのであれぼ千年原始人とも良い勝負をしそうだ。
魔力量はごっそり減っており、もしかしてと確認すると、CPも残っていた50万が消滅していた。
俺のガチャの楽しみは消えたが、これはこれで良かったのではないだろうか。
考え込む俺の横にレインが張り付くと次のカニカマを要求する。
相当に燃費が悪そうなレインではあるが、心強いとも思う。ちょうど太陽が天辺から下り始めたくらいか。
大体俺の能力もわかったし、レインが強くなったから今日は良しとしよう。
「帰るか」
そういうと、レインがカニカマから手を離し俺の顔を覗き込む。
「ん!」
頭を撫でると、スライムとは思えないサラサラとした手触りが伝わる。レインはされるがままで目を細めていた。
のんびりと日差しを浴びながらの帰路。
アッカードに帰るまでにカニカマは底をつき、おにぎりやらパンやらがレインの胃袋の中に消えていった。レインの成長は嬉しいことだが、食費のことだけが唯一の懸念だった。
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