第23話:ガチャと進化
手元のカードを見る度に涙が溢れそうだ。だがここで挫けるわけにはいかない。俺は震える手でもう一度ランダムパックを選択する。十万CPが消える喪失感。
ガチャは好きだ。
しかし、地球でのガチャなど精々一回三百円程度のもの。どれも十連で三千円ほどだ。それに比べてこのガチャは一番安いランダムパックでさえ十万CP。六十倍のガチャなんてそれは最早ガチャと言えるのだろうか。
そして俺は手元に現れた十枚の日本食と鉄のナイフを見て絶望する。確信した、このガチャは闇が深い。日本食がぼったくりレートで出ていることもそうだが、鉄のナイフは銀貨二枚もあればそこそこしっかりしたものが街で購入できる。
「撤退目標を決めよう」
出るまで引けば百パーセント。十万CP払えば無料パックがもらえるんだから実質タダなんていうつもりはない。
どこまで粘るか決めて無心で回す。どこか線引きを行わなければCPがなくなるまで回しかねない。
俺はカニカマのカードを一枚戻し、懐かしい気分に浸りながらランダムパックを購入する。三枚増えたカニカマに、なんだか目頭が熱くなる気がした。
ここに来て確率の壁の分厚さを強制的に認識させられる。この前、火炎旋風を引くことができたのはとんでもなく幸運だったのだと。
改めて二十連で引いたカードを確認する。未だレア度4のものすら引くことが出来ていない。そう考えると指定購入って結構良心的なお値段なのではないだろうか。
心が荒んでいく気がする。
癒しが必要だ。
そう考えた俺は、本からスライムのカードを引き抜き、召喚する。顔があるのかどうかはわからないが不思議そうな感情が伝わってくる。今日は敵はいないんだ。強いていうなら確率が敵だ。
元気出してよとでもいうようにスライムはスリスリと体を擦り付けると、俺の肩に登ってくる。かわいい。
少し元気が出た俺は、ランダムパックを購入する。
神は死んだ。
おかわりが出たカニカマをスライムに食べさせながら俺はもう一度パックを購入する。
異世界に転移したり転生した主人公が日本食を求めて奔走するという話はよくあるし、俺も日本食を探さないといけないのかなぁと考えていたりはしていた。
だからと言ってこれはないだろう。
無心で引くうちに、揃えることが比較的大変そうな調味料の大半を俺はコンプリートしていた。日常で使う分には全く問題ないだろう。塩胡椒五十キロとか減るのかこれ。
ここまで魔物も魔法もゼロだ。撤退の二文字が脳裏を過ぎる。というか撤退すべきだろう。もっとCPを貯めて混沌パックや奈落パックを購入すべきだったのかもしれない。底なしの深淵に身を投じる事になるだけかもしれないが。
残りCPは60万。用意していたCPは既に半分以上がハズレに変わっていた。
次だ。次でレア度4以上もしくは魔物か良さそうな装備に変わらなければ撤退する。
苦い顔で俺は本日十度目のパック購入に踏み切る。
手に光が現れる。心なしかこれまでとは違う感じがした俺は、激しく脈打つ心臓を抑えながら一枚一枚捲っていく。
名前:防壁
レア度:5
分類:魔法、装備
説明:透明な魔法の壁を形成する。使用するにはセットする必要がある。何度使っても無くならない。
変換CP:800000
「お、おお……」
自身の鼓動がはっきりとわかる。我が神はここにあり。
使用しても無くならない魔法のカード。つまり、俺は正真正銘魔法使いになったという事だろう。
頰が緩むのを感じる。あの火炎旋風より変換CPは高いのだ。多分効果はそれほどでもないのだろうが。
俺はその他のカードを本に仕舞い、防壁をセットすると念じる。本がパラパラと捲れ、使用後の火炎旋風を収納した時と同じと思われるページが現れる。
空いている十のスペースに防壁を入れる。
「防壁」
目の前に二メートル四方くらいの透明な壁が現れる。強度は不明。使用した魔力は全く気にならない。多分この程度だと自然回復する分の方が多い。
どうやって強度を調べようかなぁと考えていると、スライムが頰を撫でてくる。
「やってくれるのか?」
コクコクと頷くと、スライムは地面に降り立ち、身体を針のように伸ばす。スライムの体は防壁を一瞬で貫通し、防壁は割れたガラスのように砕け散る。
スライムの攻撃が強すぎるのか、防壁が脆すぎるのか。
「普通の人間がいればなぁ」
というか、俺が殴れば良いのか。そう思い立った俺は、もう一度防壁を展開する。そうして防壁を物質化した鉄の剣で斬りかかろうとしたその時、スライムが飛びかかってきた。
「おわッ?!」
地面に引き倒される。食われると思ったのは束の間で。とんでもない早業でスライムは俺をすっぽりと覆う。呼吸できない。慌てて酸素を取り込もうと|踠(もが)き、その必要がない事に気づく。どういう理屈か呼吸はできている。明らかに液状のもので覆われているのに気体の交換がスムーズに行われている。
どこから見てもスライムに捕食されている哀れな旅人である事には違いない。しかし、幸か不幸か周りに人はいない。スライムにも害意はないらしいので放っておくと、ぬるりと口の中に侵入してくる。
完全に触手プレイだ。しかし男の触手プレイに需要なんてあるのか。
なんてことを考えていると、口の中から異物感が消え、スライムが俺から離れていく。
「一体何だったんだ」
その問いに応えるかのようにスライムが人型を取る。透き通っていた透明な体が発光し、色がどんどん変わっていく。
そこに立っていたのは全裸のやけに無表情な美少女だった。
どうしてこうなった。
俺はとりあえず、上質なシャツと、女性用下着、旅人の服を目の前のスライムだった何かに手渡し、目を逸らす。
「いやほんと、何で」
ちらりと視線を向けると、少女は全裸のまま不思議そうにこてんと首を傾げた。
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