第21話:今後の予定

「よくぞ無事で……」

「そこまでの事態じゃなかったです、よ? ね、ケント」

「あ、あぁ」


 朝一でゴブリンの集落の確認を村の有志と行い、依頼に判をもらった。引き止める村長の言葉を丁重に断ると、行きと同じ行商人の馬車に乗せてもらう。やけに早く終わった依頼に少し驚いていたが、特に何かを聞かれるでもなく、アッカードまで帰ることができていた。


 そして、ノノに依頼の報告をしたところこの有様であるらしい。


「高ランク依頼を受けてくださいとは言いましたが、ゴブリンキングの集落に二人で突撃しろとは言ってませんよ!? なぜ、引き返して増援を呼ぼうと思わなかったのですか」


 無傷で帰ったはずなのにこうしてキリキリと締め上げるように説教されているのは何故だろうか。

 いや、やれると思ったからやったんだけど。そんな事を考えていると、肩にゴツゴツとした手が置かれる。


 顔を上げるといつぞやの超強面の男だった。


「その辺にしといてやんな、ノノちゃん。顔はガキみてぇだが、こいつも男だ。冒険したくなっちまったんだよ」

「アッシュさんは黙っててください。この二人が死んだら私、首になっちゃうかもなんですから!」


 そんなことになっていたのならノノの焦りようもわかる。というか当然だ。エリノアならやりかねないところが特に。


「私、まだ19歳なのに縛り首なんて嫌ですから。ケントさん、アオノさん、ほんとお願いしますよ!?」

「「は、はい……」」


 あまりの剣幕に仲裁しようとした、アッシュというらしい強面の男もやや仰け反っていた。

 いや、流石に縛り首は冗談だと思いたいが。


「で、討伐証明はあるんですか? というか、まさかそれ全部です?」

「これ全部です」


 グチャッという音ともに、大きな袋に纏めて入れられたそれが提出される。中にはゴブリンの右耳が詰められている。


 まだ腐敗臭はそれほどしないが、それでも気持ちのいいものではない。僅かにノノは顔をしかめると、奥へとそれを持っていく。

 数分と経たずに引き攣った顔でノノが戻ってくる。


「ゴブリンが144、ボブゴブリン18、アーチャー15、メイジが16、ジェネラルが3、キングが1でした」

「おぉ、やっぱ結構いたんだな」


 焼け焦げて回収出来なかったのも結構あったからそう考えるとかなりの集落だったのは間違いない。

 また何か言われるかと思ったが、ノノは小さく溜息を吐いたきりだった。


「こちらが報酬の50万ディルと討伐報酬の262万ディルです」

「討伐報酬?」

「あぁ、お二人は新人さんでしたね。ゴブリンやジャイアントホッパーなどは放置しておくと大量発生して危険な場合が多々あるので、個別に報酬が出るのです」


 ジャイアントホッパーとはなんぞや。巨大? 跳ねる? 確かグラスホッパーがバッタとかのことだったから、そのまんまの大きなバッタで良いのだろうか。


 詳しくはないが蝗害のようなものがこの世界でも起こるのだろう。


「やっと実感が出て来たみたいですね。300万を1日で稼ぐだなんて、A級でもそんなにない事なんですからね。しばらくはお休みするくらいが丁度いいですよ!」


 何というか、昨日会った時のお淑やかな雰囲気はなく、どこかトゲトゲしているがその通りであるのかもしれない。


 昨日、市場を見たり宿を探した感じだと1ディルはおよそ日本円の一円とほとんど価値に相違ない。一日で一人当たり150万円稼いだと考えるとノノの言いたいこともよくわかる。


 金銭感覚麻痺しそうだ。


 そんなに稼いだならしばらく休むのも良いかもしれないなと、ぼーっと考える。


「どうします?」

「そうだな。まぁノノさんもこう言ってるし、一週間くらい休んでみるか」

「ですね。ちなみにケントは何するつもりなんです?」


 休暇。まぁこれといってやりたい事はそんなになかったりする。とりあえず自分の能力の検証とか?


「何が出来るか確かめるくらいか? 後は美味しいお店の開拓と、観光?」

「ふむふむ。いいんじゃないでしょうか。となると別行動ですかね」

「どこか行きたいところがあるのか?」


 てっきり付いてくるとばかりに思っていたから意外だ。そんな事を考えていると、アオは年齢相応の胸を張る。


「なんとこの街には図書館があるらしいのです!」

「アオ、本読めるのか?」

「あー、バカにしてますね! ふん、いつか私の頭の良さに平伏す事になるのを覚悟しておくんですね!」


 鼻息荒く喋るアオに周りの人々が生暖かい目を向ける。それに気づいて頰を赤く染めると、ピタリとくっついてくる。


「ケントさん、アオさん。用件が済んだら空けてもらって良いですか。列ができていますので」

「あ、悪い」


 ケントの所為で恥をかきました。などとニャーニャーほざくアオを引き剥がし、好奇の目から逃れるために協会を後にする。


 俺たちが帰ったところで上手く離れられずに、タイミングを失い、ぽつんと取り残されたアッシュの様子が心に残るのだった。

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